第24話 事後処理
「さて、後のことは全部他の魔法少女に任せて、帰るぞ」
マコトに言われて起き上がる。
あっ、やば――。
思った以上に体力を消耗していたようで、ふらついてそのまま倒れそうになったところをマイカに支えられた。
「ほら、しっかりしなさい」
「……ごめん、ちょっと歩けないかも」
「はぁ、しょうがないわね」
マイカに肩を貸して貰ってなんとか歩く。
屋内へ入ると、踊り場にはお嬢様と取り巻き二人が倒れていた。
「そういえば、避難させてたっけ」
リリスとの戦いのせいで忘れていた。
「先輩、この三人はサキュバスに魅了されて洗脳状態ですよ」
「なら、メンタルポーションを飲ませるか」
マコトは黒いゴスロリ衣装のスカートのポケットから青い小瓶を取り出し、俺に見せた。
「これはメンタルポーションと言ってな、精神的な状態異常を治す魔法薬だ。ポーション類は高くて気軽に使えないが、今度買い出しに行くからその時に数本買っておくといい」
説明を終えると一人一人にポーションを飲ませた。空き瓶はしっかりと回収してスカートの中に消えた。
「それと丁度いい。救援要請のやり方を教えるからスマホを出せ」
言われた通りスマホを出すと、マコトが横から操作して救援要請のアプリを開き、一般人の救援をタップ。幾つかの情報を入力し終えると現在地にピンが刺された。
「これでよし。放っておいたら協会で働いている魔法少女が回収してくれる」
便利だな。
「だが、ナイトメアに襲われてる最中は使うな。回収担当の魔法少女は基本的にそんなに強くないから、巻き込んだら苦情が来る。あと、怪我をしてたら最低限の治療はしてやること。いいか?」
「はい」
処理が終わったので階段を降りていく。
……なんか、忘れてるような……。
「あっ!」
「ん? どうした?」
「ネロ?」
「一人、生き残りを忘れてた」
「ああっ! あの魔法少女ね!」
マイカも思い出したらしい。
「魔法少女? どこだ?」
「今、ナイトメアの気配があっちからしますよね?」
「ああ、雑魚っぽいから他の魔法少女に任せるつもりだったが……あれか?」
「はい」
「分かった。二人とも、私の体に触れろ」
何かするつもりのようなので、マイカと一緒に肩に手を置いた。
「触れたな? じゃあ飛ぶぞ」
シャキンッ!
と音がすると俺たちはいつの間にか移動しており、死体がごろごろ転がり血塗れになっている廊下に立っていた。
「瞬間移動?」
「縮地だ」
縮地……武術的なものというより、仙術か?
俺の疑問に答えたマコトは警戒することなく教室へ入った。俺たちも続く。
「がるるるる――あっ、骨をくれた人!」
何故かマコトに対して犬っぽく警戒していた犬耳少女は、俺を見た瞬間にぱあっと顔を明るくして尻尾をブンブン振り始めた。
頭を撫ででやると目を細めて嬉しそうにした。
「で、こいつがそうか?」
「はい」
なんとも言えない顔をしているマコトの問いに俺は頷く。
するとマコトは犬耳少女に近づいて屈み、視線を合わせると金属の首輪をジッと見つめた。
「……これはリリスになったマホロが作った物、という認識でいいか?」
「はい」
「先輩、それには思考を妨げる効果が付与されているみたいです。外したり無効化すると、この惨状を引き起こした彼女は自分のしたことを認識すると」
「なるほど」
マコトは首輪に向けて人差し指と中指を合わせて向け、小さく斬るように振り下ろした。
シャキンッ、という音が小さく聞こえ、ナイトメアの気配が無くなると同時に首輪が前触れもなく外れてゴトリと落ちた。
「――あれ? 私……あ、ああ、ああああああああああっ! そんな、私、なんで? どうして? いや、いやぁぁぁぁ!」
急に錯乱し出した犬耳少女は落ちた首輪を拾うと、すぐに自分に嵌め直した。するとアホっぽい犬の顔に戻った。
「えぇー」
「先輩、流石に強引過ぎますよ」
「こういうのはさっさと認識させた方が傷が浅い」
一理あるけど、せめて慰める態勢を整えてからやってほしい。
「それで、これどうするの?」
「まずは身元の確認だな。ココン、出て来てくれ」
「呼んだかい?」
マコトの声掛けに間を置かず、ひょっこりとココンが現れた。
「この魔法少女はどこの誰だ?」
「この子はこのエリアの隣――比較的安全な山間部を担当している魔法少女だね。マイカと同じ時期に魔法少女になった若手で、一ヶ月ほど前から行方不明になって調査していたんだ。名前は犬塚ミシロ。元から女性で、年齢は15歳」
「そうか。私には行方不明なんて情報が一つも入って来ていないが?」
「マコトは不良魔法少女の対処で忙しいから、知らせなかったんだ。どうせ知っても動かなかったでしょ?」
「……ココン、こいつは任せていいか?」
あっ、話逸らした。
「構わないよ。他の魔法少女を呼んで百合園に送ればいいかな?」
「ああ」
「分かった。彼女のことは僕がしっかり見ておくよ」
話が終わるとマコトが教室を出て行くので俺とマイカも一緒に出た。
気になるワードが幾つか出たので聞いてみる。
「マコト、不良魔法少女の対処って?」
「気にするな。魔法少女にも色々いるってだけだ」
むしろ気になるわ!
けど答えそうにないし口にはしない。
「じゃあ、百合園って?」
「魔法少女のみ出入り可能な異空間だ。今回の件で色々あったから、行くつもりでいてくれ」
「分かった」
魔法少女のみ出入り可能な異空間……初めて知った。
名前の由来は、少女しかいない空間だからだろうな。
学校を出て家に帰宅した俺は何をするのも億劫で、変身を解いてからリビングに設置してあるソファにダイブして、泥のように寝た。
そして目が覚めて時計を確認すれば午後六時を回っており、まだ体力が回復しきっていない重い身体を動かして冷蔵庫を開けた。
「……何も無い」
今日、学校帰りに買い物へ行く予定だったが、色々あって完全に忘れていた。
仕方なく水道水をグラスに入れて喉を潤し、シャワーでも浴びようとすると玄関のチャイムが鳴った。
誰だ?
インターホンを確認せずに玄関に向かい、一応警戒しながらゆっくりと開けた。
「よかった。起きてた」
ほっとしたように胸を撫で下ろしたのはマイカだった。
「……どうした?」
「あぁ、えっと……あんた、晩御飯食べた? お風呂に入ったりした?」
「いや、まだだけど」
「だったら私の家に来ない? 今日はちょっと、寂しいって言うか……念の為に二人一緒に過ごした方がいいんじゃないかな~って」
視線を逸らして照れている。
もしかして今日のこと気にしてる?
まぁ、そりゃそうか。
「……分かった。お言葉に甘えて泊まらせてもらおう」
というわけで、俺は着替えの準備をしてマイカの家にお邪魔した。
既に食事の準備が出来ており、晩御飯はこの前と比べて質素なごはんと肉野菜炒めと豆腐の味噌汁だった。
二人で「いただきます」をしてから、マイカがテーブルの隅に設置されているポータブルテレビを点けた。
魔法少女協会が運営している放送局の番組が流れ始め、今日この街で起きたことを報道していた。どうやら幻だったココンが言っていたことは事実だったようで、急にナイトメアが大量発生して建物も人も甚大な被害が出たらしい。俺たちが通う新東京高等学校では教師と生徒の大半が死亡したことが伝えられた。ただし、それをやったナイトメアがリリスであることは伏せられていた。
最後は多数の魔法少女によって、街は急速に復旧作業が進んでいると締めくくられる。
次のニュースに移る。
アイドルをやってる魔法少女が地方巡業でライブ中、近くでナイトメアが出現して出動、活躍したらしい。どうでもいい。
「……学校、これからどうなるんだ?」
「知らないわ。そういうのは役所と協会が決めることだし」
「そうか」
やるとしたら生徒と教師を募集して再興するか、廃校にして別の学校に転校させるか……どっちかだろう。
特に話題も無くニュースをBGMに食事が終わり、お風呂の時間。
先に入っていいということなので、脱衣場で服を脱ぐ。
鏡を見て気付く。
「ああ、そういえば血塗れだったな」
お嬢様に刺されたり、リリスに刺されたり、先生の鞭による出血もあって、体の至る場所に乾いた血が付いている。
浴室で念入りに体を洗って血を落とし始めるが、女の体は男よりも柔らかく敏感で繊細で、力任せにゴシゴシ洗えず少しもどかしい。
時間を掛けて血を全て洗い落として湯船に浸かる。
「はあ~~」
まだ残っている疲れが、少しだが取れている気がする。
ああ、温泉に入りたい……。
入る前に入浴剤があるかどうか聞いておくべきだったと少し後悔したが、体が温まってきてその思いはすぐに溶けて消えた。
疲れのせいで寝落ちし掛けたのでお風呂を出て、髪を乾かし歯を磨いてからのんびりしていると、マイカが脱衣場から出て来た。
「ねぇ、今日は一緒に寝ない? ベッドで」
「ん、いいよ」
眠いので了承し、マイカが髪を乾かしたり歯を磨くのを待ち、一緒に部屋のベッドに入った。
彼女の方からくっ付いて手を絡めてくる。
「ねぇネロ、寝る前に聞いてほしいんだけど」
「うん」
「私、サチとハルカを殺しちゃった。友達だったのに……」
「……うん」
俺は先生を殺したけどな。
「サキュバスだから倒さないといけないってのは分かってる。でも……友達を殺すのは、やっぱり辛い」
だろうね。
俺はそういう覚悟が出来てるおじさんだから大丈夫だけど、十代の若者には過酷だ。
「私は……これで良かったの? 正しいことをしたの?」
「したさ。犠牲者がこれ以上出なくなった。友達に罪を増やさせなかった。それでいいじゃないか」
「……そうよね」
マイカの目から涙が流れ落ち、ぐすりとすすり泣き始めた。
俺は奇術師魔法少女を始めたが、女性の扱いなんて割れ物を扱うようにするしか出来ないし、気の利いた言葉なんて掛けられない。
でも、もし心を許してくれる相手なら、一つだけ慰める方法は知っている。
「マイカ」
拒絶されないかとビクビクしつつ、幼い頃にお母さんにやってもらったようにそっと抱き寄せて、自分の大きな胸に顔をうずめさせた。一瞬彼女は躊躇うように身を捩ったが、すぐに自分から体を預けてくれた。
年上として胸を貸し、涙を受け止めつつ背中に回した手で優しくトントンと叩いてやる。
疲れていたのだろう、すぐに寝息を立て始めた。
俺も寝息に釣られて瞼がゆっくりと降り、安らかに意識を手放した。
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