第16話 基礎の魔法



 身体強化魔法を維持したまま翌日。

 朝食に大量の肉野菜炒めと白飯と味噌汁を食べ、昨日のうちに全てブロンドさんが直したティーカップのビニール袋を手に一緒に登校。

 暇なので予定でも聞いてみる。


「ブロンドさん、今日はどんなことを?」

「今日は魔法少女の基礎の魔法を教える。並行して身体強化の訓練は続けるからそのつもりで」

「ふむ。マイカは?」

「彼女は昨日と同じ模擬戦。ただ流石に疲れが残っているだろうから、午前中は休憩を兼ねて君と同じことをやって魔法の精度を高めてもらう」

「そうですか」


 凄く堅実だ。

 果たして、短期間で基礎をそこそこ仕上げたところでサキュバスやリリスに太刀打ち出来るのだろうか?


「付け焼刃で応用とか教えて貰えたりは?」

「効かなかったらその時点で終わりだから却下。それに魔法少女の応用は、その魔法少女の願いから生まれた得意分野や固有能力を使う。だから教えるのがそもそも難しい」

「なら仕方ないか」


 学校の屋上に到着。魔法で浮かせてティーカップを並べていると、遅れてマイカがやって来たのでブロンドさんの元へ移動する。


「今日は魔法少女の基礎を教える。基礎には幾つかあって、先に教えた身体強化に加え、物体の耐久強化、結界、魔力纏い、探知魔法、修復魔法、回復魔法がある。個人差によって得手不得手が如実に表れるから、出来ないと分かっても落ち込まないように。マイカは基礎の精度を高め、午後からまた模擬戦だ。質問はあるか? ……無いなら、早速始めよう」


 ブロンドさんは一本の短剣を生成した。


「まずは回復の魔法と、並行して覚える必要がある痛覚遮断をやってもらう。魔法少女はナイトメアという恐ろしい怪物と戦うことを強いられる以上、人間と同じレベルで痛みを感じていたら、戦いどころではない。重傷を負えば、最悪ショック死してしまうだろうしね。だから痛覚をコントロールし、ショック死せず、動きを阻害しないレベルの痛みに抑える必要がある」


 確かにそうだ。

 俺はあの時、肋骨が数本折れてまともに動けなかった。せめて痛覚をある程度まで鈍麻させていれば、反撃の一手や二手は打てていた。


「それで痛覚遮断のやり方だけど……体の何処かにこの短剣を刺して、その痛みに耐えながら調整していくしか方法が無い。痛みが無ければ痛覚遮断の感覚なんて分からないから」

「刺すんですか。斬るんじゃなくて?」

「刺すで合っている。魔法少女は通常の人間より自然回復力が高いから、軽い切り傷程度は数分もすれば癒えてしまうんだ」

「ハハ、ご愁傷様」


 笑うなよマイカ。ブロンドさんに言って巻き込んでやってもいいんだぞ?


「丁度いいから、マイカも痛覚遮断の再調整をしておこう」

「えっ」


 ハハッ、ご愁傷様。

 叩かれたり蹴られそうな気がするから言わないけど。


「さて、ネロからやろう。痛覚遮断のコツは、痛みに対して痛くないと念じることだ。ただし、痛みを控えめにし過ぎるのはあまりよろしくない。痛いと感じていないと、肝心な時に体が言うことを聞かない時もあるから。はいサクッと」

「っ! くう~~~~~痛ったい!!」


 説明が終わったと思ったら、左手を掴まれて流れるように手の甲を短剣に貫かれた。あんまりな痛さに地団駄を踏んで悶絶し、歯を食いしばって堪える。手からは血がどくどくと流れ落ち、鋭い痛みが脈打って感じられる。


「ネロ、早く痛覚遮断するんだ。苦痛が長く続くだけだぞ」

「分かってる!」


 痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない……あっ、ほんのり痛みが弱まって来た。このままなんとか手を動かせるレベルまで痛みを遮断して……よし!


 痛みがかなり無くなり、俺は短剣が刺さりっぱなしの左手を動かした。短剣が邪魔で動かせない部分はあるが、それでもしっかりと動いている。


 なんかキモいなこの状態。ゾンビみたいだ。


 負傷しても動かせる左手に生理的嫌悪感を抱きつつ、俺は自力で短剣から左手を抜いた。


「そのまま回復魔法を教える。回復魔法には外傷の治癒と、毒や病気などの状態異常の治癒の二種類が存在する。分かりやすく『ヒール』と『キュア』というゲームらしい名称が付けられていて、コツはそれぞれが治るようにイメージして魔力を注ぐことだ」

「なるほど。ヒール」


 別に名称を口に出さなくてもよさそうだが、イメージのしやすさからつい出てしまった。

 だがその分、効果はあった。

 患部に集中して魔力を注ぐと、ゆっくりとだが傷口が塞がっていった。治った手をグーパーして動かすが、関節がずれていたり肌が張っていたりといった異常は感じられない。


「治った」

「筋がいい。でも残念ながら、君はマイカよりも回復魔法に適性が無いな」


 ブロンドさんの評価に、マイカがなんかドヤ顔を向けて来た。うざい。


「そうですか。因みにマイカはどれくらい適性が?」

「百聞は一見に如かずというし、マイカ、君は慣れてるだろうから太腿に刺そう」

「ちょっ、なんでよ! 手でいいじゃないですか!?」

「君の戦いは機動性重視だから、足をやられた時の想定だ。大人しく刺されるといい」

「よしブロンドさん、ちゃちゃっと刺しちゃってください」

「くっ、いつの間に!」


 逃げそうな気配を感じたので、俺はマイカの背後に瞬間移動して羽交い絞めにした。流石にこんなつまらないことで大暴れしないと踏んでの行動だ。

 ブロンドさんはそのままサクッっとマイカの綺麗な右太腿に短剣を突き刺した。


「いっっっったぁぁぁぁぁっ!! ちょっと先輩深く刺し過ぎ! 骨折れた! 骨折れたって!」

「すまない。少し加減を間違えた」

「間違えないでよ! うっ、勝手に引っこ抜かないで。痛い……」


 痛みのせいかマイカの声が弱々しくて泣きそうな感じだ。

 羽交い絞めをやめて前に回り込んで彼女の負傷した右太腿を観察すると、傷口が燃えて再生というレベルの速度で傷が塞がった。


「凄いな……」

「マイカは自分を火に見立てて、体の傷を治している。他者を治すのはそれなり程度だが、自分を治すのは治癒の魔法少女に比肩する」

「当然! 私、火を自在に操る不死鳥だから」

「ほう。スカートが延焼しなかったのもその為?」

「当たり。私は任意で燃やす対象を決められるのよ」

「そっか」


 色々な魔法少女がいることは知っているけど、改めて目の前で聞くと凄いな。


「次は結界をやろうか。結界は何かを守るだけでなく、相手を逃がさないようにする為の手段でもある。適正と習熟度、イメージによって結界の強度は大きく変わる。手本を見せようか」


 ブロンドさんは足元に魔法陣を展開すると、自分を覆うように長方形の半透明な光の壁を生成した。


「これが私の結界だ。守ることを願いにした私のこの結界は、相当な防御力を誇る。触ったり壊そうと試してみるといい」

「ん、分かった」


 まず触ってみる。ほんのり温かいガラスのような感じだ。軽く叩くと弾き返される反発作用がある。

 身体強化された拳でそれなりの力を込めて殴ってみれば、結界が一瞬ゴムのように僅かに凹み、凄まじい反発によって弾き飛ばされた。


「硬いな……」

「結界には様々な魔法を同時に付与することが出来る。その分、効果範囲も合わさって魔力の消費も激しいから注意するように」

「はい」

「それとこの結界、一面だけのバリアにそのまま流用が可能だ。魔法陣に見た目を変えることも出来る。こんな風に」


 ブロンドさんが手を前に出すと、結界が一面を残して消えた。さらにそこから変化させ、魔法陣のバリアになった。


 ……魔法陣を足場にしたことがあるけど、やっぱりカッコイイな。


「こんな感じかな?」


 真似して俺のイメージする魔法陣のバリアを正面に展開してみた。

 ブロンドさんはバリアを張るのをやめ、俺のバリアを触ったりコンコンと軽く小突いた。


「……薄いし脆い。これではちょっと頑丈なガラスだ」


 そう言ったブロンドさんはちょっと振り被って拳を叩きつけて来た。すると俺のバリアはあっさりと粉々に砕けてしまった。


「もっと頑丈にするなら魔力の密度を高めること。相手の攻撃に合わせて性質を変えること。要訓練だ」

「分かった」

「次は探知魔法を教えよう。と言ってもこれは非常に簡単だ。魔力を薄く膜のように広げて、気配を探るように意識すればそれで出来る。または、感覚を魔法で強化してナイトメアや探りたい気配を感知する。例えるなら潜水艦のアクティブソナーとパッシブソナーのような感じだ」

「こう?」


 一度ブロンドさんがやったのを見たことがあるので、真似して自分を起点に足元に魔法陣を展開して探知魔法の薄い膜を周囲に広げてみる。

 直後、大量の人間や動物の気配が一気に頭の中に流れ込んで来た。脳の処理が追いつかず、頭痛と共に目の前が真っ暗になって倒れた。



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