第2話 体の確認
「さて、服と体の確認をしたいところだが……まずはこいつを倒さないとな」
ココンを手から離して降ろし、スライムを観察する。
こんな近い距離で落ち着いてしっかりと見るのは初めてだが、スライムにはバスケットボールほどの大きさの赤い核が存在している。それはガラス玉のように綺麗で、破壊すれば倒せる弱点でもある。
ただし、何でも溶かす液体の体の中で常に動き回っており、当てるのが難しい。
「晴れ時々落雷」
適当に思いついた技名を演目に見立てて呟き、右手の人差し指を晴れた空に掲げて能力を発動。
落雷の気配が一切無いにも関わらず閃光と轟音を発しながら雷がスライムに落ちる。感電によって核にダメージが入って砕け、スライムはまるで夢だったかのように霧散して消滅した。
「魔法少女になった直後にスライムを一撃で倒すなんて、やるじゃないか!」
ココンが褒めてくれるが、色々な物を失ったので嬉しくない。
最後の晩餐の為の食料、マイバッグに一緒に入れていた財布の中のカード類や健康保険証、助手席の足元に置いていた鞄の中のスマホと運転免許証、軽自動車、全部溶けて消えた。
「ココン……金と飯と身分証とスマホと車が消えたんだが、どうすればいい?」
「それは魔法少女協会に頼めばいい。僕の方から事情を説明しておくから、ある程度は保障してくれるよ」
「そうか。じゃあ帰るわ」
「一緒に行くよ」
ココンが俺の肩に乗って来た。
正直邪魔だが、魔法少女協会の職員と話すのに居た方が楽なのでそのままにし、逃げていた人が俺に注目し始めているのを見てちょっとしたパフォーマンスを披露しようと思った。
大きな黒い布を生成し、自分で被る。
姿が完全に布で見えなくなったところで瞬間移動。パッとその場から消えて自宅の玄関前に帰って来た。
今頃は黒い布がパサリと落ちて、忽然と消えた俺に人々は驚いているだろう。
「とりあえず家の中で待っ――」
ドアの前に立って気付く。
……家の玄関の鍵も、鞄の中だったわ。
「仕方ない」
頭を掻き、溜息を吐いた俺はチョークを生成。ドアに丸く描くと内側の物質が消えて穴が開いた。
その中を潜り抜けて無事帰宅。ココンは俺の肩から降りて家の中の探索を始め、俺は魔法少女衣装のアンクルストラップ付きハイヒールを脱いで上がった。
そのまま真っ直ぐ洗面所へ移動し、鏡で自分の姿を確認。
「……自分の性癖そのものだな」
鏡には女神のような美少女が映っていた。
黒い髪は腰まで伸びており、波状と捻転の混じった超絶癖毛で非常にボリュームがあってもっふもふ。
色白の肌に紫の瞳をした若々しい美人の顔。
身長は男だった時より少し低くなったが、それでも女性にしては高め。165㎝ぐらいだろう。
体型は服の上からでも分かるほどにスタイルが良い。巨乳で腰がしっかりくびれ、お尻も大きい。まさに理想的なグラマラス体型だ。
これが俺の理想から作られたのだとしたら、恐らく胸とお尻の形も素晴らしいものだろう。
魔法少女の衣装については、奇術師風の黒と紫を合わせたブレザー制服といった感じだ。
ジャケットは胸を強調するように開いており、背中の裾が燕尾服のように尖って長くなっている。
内側のブラウスは何の変哲も無く、首元には紐リボンが結ばれている。
スカートは二重構造だ。外側はコルセットを兼ねた前の開いているフィッシュテールスカートで、内側にミニスカートを履いている。
脚には大腿部まであるニーソを履いており、スカートとの間に絶対領域が作られている。エロい。
「…………ちょっとだけ、確認してみようか」
ごくりと唾を飲み、浴室に入ってほぼ全身が見える鏡の前に立った。
それからおもむろに内側のスカートの裾を両手の指で摘まみ、持ち上げて捲った。
適度な太さをした美しい大腿部が露わになり、股間には男の象徴も無く、ぴったりと貼り付く大人のデザインをした紫色のショーツがあった。
「あっ……うわ……恥っず!」
自分が女になったことを完全に自覚し、鏡に映っているはしたない姿に急激な羞恥心を覚え、視線を逸らしてスカートから指を離した。
手を扇いで顔に風を送りつつ浴室を出た俺はリビングへ移動する。カーペットにはココンが寝転がって体を休めていた。
俺もこのドキドキを静める為、ソファーに座って休憩する。
……この体に、早く慣れないとな。
ピンポーン♪
ん? 来たか?
座ったばかりだが、玄関チャイムが鳴ったので立ち上がって移動する。ココンも付いて来た。
「はーい、今開けまーす」
声を出しつつ、穴の開いたドアの鍵を外して開ける。
すると、黒髪ロングに黒い瞳の、如何にも委員長をやっていますといった雰囲気の美少女が、パンツスーツ姿でビジネスバッグを片手に持って立っていた。
「こんにちは。ココンから連絡を受けて参りました、魔法少女協会日本支部所属、生活支援課の佐藤アドです。今回のナイトメア討伐についてと、魔法少女についての説明や手続きでお話があります。お邪魔してもいいですか?」
「どうぞ」
承諾すると、アドさんは中に入ってドアを閉めた。
「失礼。余計なお世話かもしれませんが、ドアが気になるのでちょっと魔法を使いますね」
「ああ、はい」
アドさんはドアに手をかざすして魔法を発動させると、ドアが薄っすらと光って穴がみるみる塞ぎ、元通りになった。
「……よし。では改めてお邪魔します」
「あっはい」
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