File46 誰かの痕跡と鉄パイプ
僕はやけくそで重い鉄の扉に手をかけた。
びくともしない扉に苛立ち蹴りながら叫ぶ。
「化け物はもうたくさんだ……! 僕はここから一刻も早く脱出して肉まんとカラアゲさんを食べるんだよ……! わかったらさっさと開けよ……!」
「空野……」
「何だよ⁉」
八つ当たり気味に噛みつく僕のポケットを指さして星崎はボソリとつぶやいた。
「さっきの鍵を試すべき……意気込みは素晴らしいが冷静に……」
ポケットの中でチャリン……と冷たい音がすると、僕は急に恥ずかしくなって顔が熱くなるのを感じた。
「ごめん……取り乱した……」
「うん。秘密にしておく」
ごそごそと鍵を取り出し、順に鍵穴にあてがっていくと六つ目の鍵で扉が開いた。
ガタガタと震えるエンジンの音が木霊する部屋の中には灯油の臭いが充満していた。
フェンスで覆われたボイラーと発電機からはグネグネと剝き出しのダクトやケーブルが伸びていて、どこか心臓を連想させる。
発電機に続く扉には真新しい南京錠が掛かっていて、手持ちの鍵ではどうやら開きそうになかった。
「また鍵探しかよ……」
「南京錠なら破壊できるかも……フェンスも時間をかければ破れるはず」
ふと見ると、フェンスの内側には空になったポリタンクがいくつか転がっており、その下には黒い染みが広がっていた。
「新しい南京錠とポリタンクって……誰かがここにいたってことだよな……?」
「うん。それも、わたし達が病院に入ったのを確認してから作動させたと見るのが自然……」
「そんなのアイツしかいない……あの……スレンダーマン」
その時だった。
遠くの方で、何かを引きずるような音が聞こえた気がした。
どうやら気のせいではないらしく、星崎も廊下の方に耳を澄ましている。
「聞こえたか……?」
「聞こえた……」
「あいつだよな……?」
「おそらく……」
折れた肋骨、潰れた足、そんな体を引きずって這い寄ってくる少女の姿を思い浮かべて鳥肌が立つ。
僕は咄嗟に扉を閉めて鍵をかけた。
「空野。閉じこもっていても意味がない。相手は手負い。一気に勝負を仕掛けるべき」
「はいはい。でも勝負を仕掛ける者としては、二度と素手では触りたくないっていうのが本音なもんで」
僕が目を細めて嫌味を吐くと、彼女もそれには納得したようで武器になるものを探し始める。
「鉄パイプみたいな、軽くて丈夫で、長すぎないヤツを探してくれ」
星崎とは反対側の隅を探しながらそう言うと「注文が多い……」とつぶやくのが聞こえてくる。
うるさい! こっちは命がけなんだよ……!
そう心の中で毒づいていると、目の前にスッ……と鉄パイプが差し出される。
「そうそう! こういうのだよ……!」
そう言って振り返ると、そこには鉄パイプを僕に向ける黒フードの男が立っていた。
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