クレア編

第14話 辺境の楽しみ

 西にある領土ジルニアは代々、赤毛に翠眼の領主グリント家が治めている。

 山脈を挟んだすぐ向こうは、魔族の領土で。

 昔、魔族代表とこの地の領主が不可侵の条約を交して以来、国はこの土地の管理者を半永久的にグリント家にすると定めた。



 クレア達の馬車がジルニアの地に到着すると。

 領主の息子で従兄のシルドが、領地の境まで迎えにきていた。

 クレアが兄のように慕っているシルドは、同じ赤毛で5つ年上の22歳。

 彼には双子の妹がいて、妹のシリカは他所よその領地に嫁いでいる。

 領主の屋敷につくと。

 母親からの手紙を先に受け取っていた叔父夫婦が、温かく歓迎してくれた。

 2階に用意されたクレアの部屋は陽当りも良く。窓の外に設置されたラベンダーの鉢植えが、リラックス効果のある香りで旅の疲れを癒してくれた。

 しばらくするとシアが夕食に呼びにきたので、みんなが集まる食堂へと向かう。

 グリント家では、家の者が全員でテーブルにつくのが習慣になっていた。

 ディナーのメインは、叔父のロバートとシルドが獲ってきたキジの香草焼きと、ウサギのシチュー。

 それにソーセージ、採れたて野菜とマカロニのグラタン、サラダに生ハムメロン、そしてパンといった素朴な料理が並んでいる。

 こっくりとしたコクがあるウサギのシチューに。

 キジは一般的な鶏肉よりも旨味があり、さらに脂にほのかな甘みもあって、どちらもかなりおいしかった。

 王都の彩り豊かなソースでお皿を飾るコース料理もおいしいが。採れたての食材の味をいろいろな形で楽しめる家庭料理は、毎日食べても飽きないとクレアは思う。

「んー、おいしい! 」

 満面の笑みで、クレアがグラタンをほお張っている。

「あらあら、田舎料理で恥ずかしいわ」

 ロバートの妻アルカが、クレアの食べっぷりに笑顔をみせる。

 この地の領主は昔から土に親しみ、皆と共に汗を流してきた。敷地の裏は、広い畑と果樹園になっている。

 アルカも豪農の出身だった。

「ここのお野菜は、お野菜そのものの味が濃くて、甘くて。とってもおいしいです! 」

 説得力のあるクレアの食欲に。

「ふふっ、ありがとう」

 アルカが嬉しそうに笑った。

 シチュー用の木製のスプーンがコロンとかわいくて。

 ルディに頼んで作ってもらおう、とクレアは思った。

「姉さんはもう少し上品に食事できないかな」

 いつものようにルイが小言をいっている。



 食後のデザートを済ませて、くつろいでいたら。

「お風呂が沸いてるから、みんなでお先にどうぞ」

とお風呂を勧められた。

 ルディが反応して。

「みんなで、って……ここって混浴なの!? 」

と目をキラキラさせていたが。

「そ、そんな訳ないだろ、なに喜んでるんだよ!」

 赤い顔をしたルイに怒られる。

 残念そうなルディに、クレアも苦笑いで。

「男女で別々のお風呂があるから。女性陣と男性陣でそれぞれ入りなさいってことよ」

 王都の自室のとなりにあるバスタブとは違って、ここではお風呂も楽しみのひとつ。

この屋敷には温泉を引いた大きなお風呂が、男女に分かれてあり。温泉の保養所にも負けない立派な造りで、露天風呂もあった。



 一緒に入ろうとクレアに誘われて、初めは躊躇したシアだったが。

 夕月ゆづきがあっさり、というよりかなり嬉々とお風呂に向かったので、おそるおそるついてきた。

「温泉ですか、久しぶりです」

と嬉しそうな夕月。

 普段はスレンダーな夕月だったが、脱衣所で胸に巻いたサラシを取ると、意外に立派なサイズがあった。

 ノスタルジックな手拭いで前を隠して、髪をアップにしていると。東洋人特有の肌のキメ細かさもあって、その姿は絶世の美女。

「イケメンの夕月もお風呂では美女に変身するなんて、新鮮な発見ね」

 適当に赤毛をまとめて大きなタオルで胸から下を隠したクレアは、夕月と自分の胸を見比べて。

「うん、いい勝負」

とうなずく。

「あのー、クレア様」

 シアはまだ服を脱いでいなかった。

「やっぱり入らないとダメですか? 」

 シアはクレアと同じ歳頃の娘で。

 眼鏡の奥にある明るい茶色の瞳と同色の髪を、後ろで編み込んでメイドキャップに収めている。

 メイドは普段、お湯で絞ったタオルで身体を拭くか、休みの日に公衆の湯屋にいく程度。

 侯爵邸には使用人のための浴場があったが、あれは特別だろう。

 主と一緒にお風呂に入るという初めての経験に、シアはなかなか着替えられない。

「女性陣はみんなこのお風呂に入るの。順番がつまると、みんな困っちゃうから……後で入る? 」

 少し考えてから、シアは首を横に振った。

 いつの間にか後ろにまわっていた夕月が。

「では御免」

 ポン。とシアの服を脱がす。

「ひゃ」

下着姿になったシアに。

「風邪をひく前に入ろう」

 夕月がにっこりと笑った。

 お互いの背中を洗いあって、お湯に浸かる。

 頭にタオルをのせたクレアが。

「結局、シアが隠していたお宝が、一番御利益ありそうだね」

と隣に浮かんだ、大きくて柔らかそうなお宝をつつく。

 背は低いのに一番大きかったシアは。

 眼鏡を曇らせた真っ赤な顔を半分、お湯に沈めて。

「クレア様のえっち」

 ぶくぶくとつぶやいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る