第11話 男と話とするために
後方から声を掛けられて、声でその男だと分かった時も、身体ごと後ろに振り返った時だって、他の男のように厭らしい目つきで、あたしを品定めするような視線ではなく、やっぱり他の男たちとは違うなって感じた。
あたしは慌てて、この男にパンツを見せる訳にはいかないと思ってスカートの前を手でギュっと抑える。
だって、この人にスタンがかかってしまったら、申し訳ないし、お話もできないから。
「剣なんて佩いて、物騒だな」
男が徐々に近づいてきて、最初に言った言葉がこれだった。
口調も落ち着いていて、言葉との『物騒』とは感じられなかった。
衣服の事ではなく、最初に目をつけたのが腰に佩いている剣だって事も好感度があがる。
立ち話で何故あたしが、剣を佩いているのかを説明するには、随分と長くなってしまう。
簡単に『盗賊退治に』なんて言って、『そっか』とかで話が終わるとは思わないし。
やっぱり、それも好感度の問題なのかなぁ……。
それくらいはキチンと説明しても問題ないよって事と、しばらくは町に行けないって事も、あたしがエーロのお遣いとして露店に行くことも無いって言っておきたいから。
「えーっと……」
口ごもっていると、男は手で制して
「言いたくないなら、言わなくてもいい。エーロさんのお遣いにしては違和感があっただけだし」
そう言われると、ますます事情を説明したくなるから不思議。
この男は今日は町で露店でも出していたのだろうか。
ここは帰り道で通るのかな?
大きなバックパックの中には売れ残った品々が入っているのかな?
そんな事を思いながら、男の顔を見て、首を左右に振り
「あの……時間ありますか?」
男は一瞬だけキョトンした顔を浮べてから、空を見上げて
「日が暮れてきたな」
そう呟き、顔をあたしに戻してから肯定を示すように小さく首を縦に動かす。
「オレの名前はアバク。キミは?」
「あたしはミーテ」
「ん。ミーテ。移動しよう」
いつもの素っ気ない口調なんだけど、その中にどこか気軽に話せる雰囲気が混ざっていて不思議と嬉しくなるし、あの男から……じゃなくてアバクから『ミーテ』って呼ばれるだけでキュンとしちゃうし、アバクって名前も知れたことが嬉しい。
何よりも、ゆっくりと長く話せる場所に移動しようって言葉は、アバクには時間があるって事を雄弁に物語っていると思う。
なんか不思議な感じ。
あたしの中にこんな感情があったなんて。
異性に名前を呼ばれるのって、嬉しい事なんだなぁって思ってしまう。
それはきっと……アバクの気遣いって言うか、あたしと同じ事を考えていたらしく、あたしも小さく頷く。
アバクと少し距離をおいたまま、少し上目遣いでアバクの顔を見上げ、ゆっくりと話を聞いてくれそうだし、そもそも説明に時間もかかるだろうし。
「うん。でも、あの……ちょっとここで待ってて」
そう言って、道外れの側に立っている大木の裏側まで歩き出したあたしの頬はピンク色に染まっていたと思う。
だってね……。
水色のパンツをアバクに見せたら、お話できなくなるでしょ?
「んっ……はぁ……」
これから自分がしようとしている事に、ドキドキとしてしまう。
心臓の音が煩く感じるくらいに……
それくらいドキドキしてしまっているって事。
だって、恥ずかしいんだもん――。
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