三十四話

「?」


一瞬、彩芽君が視線を横に向ける。

 その音は昨日に聞いた足音。案の定走っていてこっちに向かって来ている。


『(あ。来る。)』

私はすぐに理解して、彩芽君に耳を塞いでいてと指示する。彩芽君は戸惑いながら耳を塞いだ。

 何が起きるの?と聞きたそうな視線を送っているが、もう直ぐ嫌でも分かる。


ドンドンドン!!!ドン!!!!


「!?」

『大丈夫。こちらには来ないよ。』

 ひがな君が教えてくれたのだ。私が扉にいる内は入ってこれない。

 震えたままで耳も塞ぐ事を忘れて私の手に縋り付く彩芽君は、前より小さく見えた。


私は彩芽君の耳に手を当てて塞ぐ。そして扉を叩く音が過ぎるまでずっと待った。

 何分後か知らないが、少しして音は去っていく。磨りガラスから叩く誰かが去った事を確認してから手を元の位置に戻した。

重力でだらんと腕が戻りそうになった時に邪魔が入る。


「ぁ、、、ぅ、」

小さく言葉らしきのを出す彩芽君。焦ってるのは聞かなくても分かった。


『...』

私は何もせず彼女を見つめ続ける。

 脳内には、何故私が居ると部屋に来れないのか。色んな自分と向き合い話し合う。


扉に入ってこれない条件。私が起きている?拒否する意思がある?扉というのが大切なのか?範囲はあるのか?

 出来上がった仮説は一つ。私が拒絶の意思を持ち何処かに籠る、それによって籠った範囲に入れなくなる。


これが一番正しい気がした。なんとなくで特に確証も無いが、


「(あれは、感染者?)」

『感染者?』


「(誰もが成り得るから、私達は皆そう読んでいるの。)」

 確かに何度でも蘇ったり、あの知能が無さそうな行動は単純で。足が速めのゾンビと言えば似ている気がする。

 私はそっかと言い残して椅子に戻る。


『よし。じゃあ早く寝よっか。』

 まずは目の前の患者を眠らせなくては。また大きい音が鳴って緊張する前に眠ってしまおう。

 私が若干強引に布団に入れて体勢を横になってもらい、私が布団を一定のリズムで叩き始める。子守唄は知らない、歌われた事もないし。歌詞は知ってるけどリズムが分からない。


少しすると彩芽君は目を閉じて、布団を優しく叩く手が握られる。

 最後に薄っすらと目を開けてから意識を落とした。子供体温と言うのか、結構暖かくなった手の熱さが心地良い。


 私はまた患者が起きる事は無いように祈りながら無音の時を楽しんだ。



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