二十九話
「えー。会議終了。投票移ります。」
『投票はー、あの子だよね?』
イロが報告をした後に、椅子を2人の方向へ向かせて言った。
反論の声はない。全員が予想していた事だから驚くも何も無かった。イロとクラリアは頷いてから、クラリアは患者が居る会議室の鍵を開け。イロは投票の結果を放送した後にマイクの電源を切った。
私は簡単にノートに纏めていく。
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拘束者:鞠
•占い師カミングアウト→彩芽
(結果 ダイ白)
占いは症状を利用したものであり、昼に眠くなりデメリットを持つ
•犠牲者が消灯時間に外出した跡(理由不明)
•鞠が自主的に培養槽に入る事を提案
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『(これぐらいでいいか。)』
書き終われば日誌を閉じて、椅子の背もたれを使い天井を見る。
私の今夜守る相手は、彩芽君だ。
予想は誰でも出来たと思う。この状況では当然の判断だ。彩芽君が襲われる可能性は高いし彩芽君を失うのはとても惜しい。
脳内で一つずつ理由をつけて片付けていき、終わったら立ち上がってガラスの向こうへと向かった。
緊張で階段を歩き出すが、手すりを掴んでいる手が強張っていて降りるまでに長く感じる。
『(イロとの話も、今の状況も、)』
全て理解できない。理解しようと思わない頭は、階段から降りると笑顔を作る。
「あ、先生。遅かったね。」
『そう?私にも仕事はあるからね。』
中症者の3人とイロが集い話し合う。クラリアは近くに居て、そこから遠くに他の皆が集まり観察や雑談をしていた。
ダイ君は私に声をかけてから、また話し合っている彼らを見つめる。
ふと私と目が合ったイロは、近づいて来てから皆に伝えるように話す。
「クラリアと一緒に皆は自室に戻ろうね。シレネ、一緒に培養槽まで連れて行こう。」
『....分かった。』
私の事を見つめる目には、誰も映していないように見えて少し不気味だった。
自然に目を逸らしてから今夜に吊られる患者の手を引いて、皆に「おやすみ」とだけ挨拶を交わしてから後ろを見ずに進んだ。
「シレネ、覚えてる?」
培養槽へ行く道のりは足が覚えているらしくて進んでいく。
「覚えてる?シレネ先生、どういう事?」
『あまり行かないから覚えてないだけ。』
「覚えてるんだ。」
『まぁ、うろ覚えだけど。』
廊下は全員が喋らないから静かで足音しか響かない。薄氷の上を歩いてる気分で、一歩一歩を足裏に力を込めて歩く。
踵から足の指先まで歩いて気をつける為に足元をずっと見てた。長く見続ければ、廊下がグニャグニャと曲がっている気がする。
ふとした時に、私がどうやって歩いていたか忘れた感覚に落ち入り足が止まった。
「正解。ここだよ。」
「...先生意外と記憶力あるんだ。」
正解の道筋を辿ってついた、培養槽のある部屋。他にも施設はあるから、ここは実験室と呼称されている。
ここまで普通に来れた達成感で、体は動こうと思えない。私はロックされた部屋を、正面から眺め続けていた。
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