第九話 1日目 昼
起きた先は、正方形が規則正しく並んでいる天井だった。なんて無機質で、恐ろしい。
でも、それと同時に素敵だと思う。例外なく整えられた姿は私に安心を誘う。
起き上がると、精悍な顔立ちの綺麗な顔が目に入った。
久しぶりに寝てるイロを見た気がして、ベッドに座って、椅子に座って寝てる彼をまじまじと見つめた。
「ん、?」
起きたみたいだ。残念。
赤い目が私を視界にとらえて、笑みを浮かべる。やっぱり、今のイロが怖いなんて思えなかった。でも謎は残るけど。
『おはよう。イロ。』
私は普段と変わらずに、笑顔で彼を受け入れる。そうしたら彼は心配そうに私を見つめ出した。
「真っ青な顔で倒れてたんだよ。」
「大丈夫、?」
彼の顔は心配と不安と怒りで泣きそうだった。だけど、
『(なんで。私を心配するんだろう。)』
私は何もできない屍同然。死体なんて見た事ないけど。そんなに私を気にかける理由が分からなくて。どんな言葉をかければ良いか分からなくて黙った。
イロはそんな私に気づかずに俯いている。
私はこの話を続けるのが気まずくて、話を違うものへと変えた。
『あ、今って何時?約束があって...。』
そう言うと、私はベッドから立ち上がって扉のドアノブに手をかけた。
私は腕時計を基本つけないから、この部屋で時間が分かるのは腕時計をつけてるイロだけなのだ。
時間を知る神様の役はイロ。無力な村人の役は私。まぁ簡易的な演劇だこと。
阿呆な事を考えていた数秒先。ドアノブを握っていた腕が掴まれていた。
恐怖を感じたのも束の間、彼の顔を見て不思議に思う。彼の顔は焦っていたのだから。
冷や汗と彼の顔に似合わない歪んだ顔。掴まれた腕の先は血液が通らずに少しずつ感覚が無くなっていく。
「死にそうだったんだよ。シレネ。」
『うん...?』
「自分の体とか心配じゃないわけ?」
『うん。』
問答を繰り返す。
その度に分かる。私を心配する感情、慈悲と愛情などと言うには重くて、でもそんな綺麗な言葉が似合ってしまう程な感情。
到底私が貰うには不相応。
逃げたくて、彼の力が少し弱まったと同時に手を振り払い目を合わせる。
『おねがい。やめて。』と。そう言えば彼は崩れて。いつもの冷静なイロと思わないぐらいに泣いてしまった。
『(あぁ、役が逆だった。)』
貴方が無力で、私が判断を握る神様。
頭の中は冷静。私が冗談を続けるぐらいには落ち着いていた。
だって。私がする行動は決まっていたから。
扉を開けて外に出る。
チクタクと音がする方に目を向ければ、時計は5時を知らせていた。
文字にして正確にすると、17時15分。“君”はこっちの方が見やすいよね。
『(ヤクリ君。今どこかな。)』
千羽鶴はあと4つで完成だった。器用な彼女ならとっくに終わってるはず。
だったら、
『(見舞い....重症者のフロアへ行こう。)』
私は後ろを振り返る事なく廊下へと進んだ。そうしないと、私は立ち止まってしまう気がして。
振り返らずに進んだ事は正解なのか。どれだけ時を過ごしても知る事はない。
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