モザイクが終わった
沈丁花の大木
プロローグ:1 真っ白
目が覚めるのは突然だった
体の節々の痛み。ジンジンと痛い頭の重苦しさ。記憶が少し混濁していて、全てが面倒で投げ出したくなる朝。
目を開ければ、太陽の代わりに蛍光灯の白い光が私を照らす。
眺めていれば天井と目が合った。
天井の模様は、私を嘲り、蠢いている。
『(笑わないで。近付かないで。)』
天井と私の距離は近くない。あれは偽物。
こうして、物を空想だと決めて、私の脳内に小さく詰めて押し込めてしまう。そしたら、過去の夢となって消える。
現に、体の強張りが無くなった。冷や汗を拭き取れば、いつも通りの私。
上手く対処出来て、今の私は気分が良い。このまま起き上がれば、椅子で寝たせいで所々痛いけど、何とか頑張って立ち上がれた。
背伸びをして息を吐いてから辺りを見渡す。すると、
「起きた?お茶“シレネ”の分も淹れようか?」
給湯室から手招きをする彼が見えた。
力尽きて気絶してるように眠っているもう1人は、まだ寝かせておこう。他にもソファーで寝てる同僚だって。
『ありがとぉ。』
心の中で皆を労りながら、“イロ”から貰った紅茶を受け取り、一口飲んだ。
アールグレイのファーストフラッシュ。確かに手に入れたくなるのも頷ける。風味も香りもイロの好みそうだった。
イロが皆が起きた時に飲めるように、水筒に移して小さい冷蔵庫の中に閉まった。
私は何もする事がなくて、無意識に端に座って壁に凭れる。
長くお茶の水面を見てたら、水面と現実の境目が曖昧になって、天井の時みたいに呑み込まれた気分になってくる。
それがゆっくりと自分を蝕んでって。飲み込んだ中の紅茶と、コップを持った手から伝う紅茶が融合して、私全体が綺麗な黄金色になる。そんなイメージ。
黄金は金の色みたいな欲深いイメージがあるけど、蜂蜜とか紅茶の色がある事を知ってる。
天井の模様に連れ去られるより、こっちの夢の方が綺麗で美しく憧れる。
『(むしろ、比べる事も、烏滸がましい。)』
そう浸っていたら、イロが私と紅茶の間に手を挟み、振った。
「おーい大丈夫か?まだ眠い?」
イロの手が私と紅茶を切って、私は現実に戻される。
『(イロの目はキームンみたいな色。)』
視線を彼に戻して、そう考えながら目を合わせる。私は笑顔を浮かべながら飴を食べた。左手で飴の棒を掴んで、右で飲み物を。
何も反応してこないのは、私が普段と変わらずにいられてる証拠。
『まだ記憶がはっきりしてなくてさ〜、今日は何日だろうと思ってるだけ。』
ほいと白衣のポケットから飴を渡して。
そう言えば、イロは困ったように眉を下げてから話をし出した。真面目な報告以外に、昨日の面白かった話や変わった事。
イロは話が乗ってきたのか、笑いながら話すようになる。
楽しそうだと思いながら飴を噛み砕く。イロは気付いていないから注意もしてこない。
このまま2人で机に戻っても話は続く。
上の空で聞きながら視線を下に落とす。棚の一番上に鍵がかかっていて、そこにあるのは私のカルテ。
私の病名は、【現実逃避の代償】らしい。
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