モザイクが終わった

沈丁花の大木

第1話 目覚め

目が覚める。

 体の節々の痛みや、ジンジンと痛い頭の重苦しさ。記憶が少し混濁していて、全てが面倒で投げ出したくなる朝だ。


まぁ、それは永遠に叶わないだろう。


 考えに浸るのも後にして、起きる。座ったまま寝たせいで全身違和感だらけ。頑張って立ち上がり、辺りを見渡せば。

「起きた?お茶“シレネ”の分も淹れようか?」

少し遠くでお茶を注いでいる人が一名。

 あとは力尽きて気絶したように眠っている数名がちらほら。


『ありがとぉ。』

心の中で労りながら、“イロ”から貰った紅茶を受け取り、飲む。

 アールグレイのファーストフラッシュ。確かに手に入れたくなる程美味しい。



ぼーっとお茶の水面を見てたら、水面と現実の境目が曖昧になって、呑み込まれた気分になってきて。

 それがゆっくりと自分を蝕んでいく感覚。飲み込んだ中の紅茶と、コップを持った手から伝う紅茶が融合して、私全体が綺麗な黄金色になる。

なんて、夢の話を紡ぎながら紅茶を見てる。



すると、イロ君が手を私と紅茶の間に挟む。

「おーい。まだ眠い?どうした?」

 イロ君の手が私と紅茶を切って、私は現実に戻される。

『(イロの目はキームンみたいな色。)』

考えながら目を合わせて。私は笑顔を浮かべる。何も反応してこないのは、私がまだ笑顔でいられてる証拠。


『まだ記憶がはっきりしてなくてさ〜、今日は何日だろうと思ってるだけ。』


 そう言えば、イロは困ったように眉を下げてから話をし出した。昨日の、面白かった話や変わった事。色んな日常。


視線を下に落とせば、机にある私のカルテ。




私の症状は、『(【現実逃避の代償】)』

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