点呼を

 俺たち三人は岩山へと到着し、この付近に待機させていたゴブリンたちと合流した。

 そして到着してすぐさま、魔王はゴブリンたちの前に立った。

 両手を腰に当て、偉そうな態度…

 そう、仁王立ちで。

 

 「一号!!」

 「ぐぎゃ。」

 「よし、良い返事なのじゃ。じゃー次、タマ!!」


 どうやら、点呼を始めたみたいだ。

 他の魔物にやられてしまってる可能性だってあるし、あいつにしてはなかなか賢…ん?今…


 「えっと…、?タマ…?」


 隣にいたアイラから、不思議そうな声が聞こえてきた。

 そして、どうやらそれは俺の勘違いではなかったみたいだ。


 「タマ、どうしたのじゃ?いないのじゃ?!!」


 ゴブリンたちに向かって、魔王が偉そうに叫ぶ。

 なのにゴブリンたちは誰一人返事をせず、誰が呼ばれたかを確認するため、首を振ってお互いの顔を見合わせてるだけだった。

 

 当たり前か。

 タマって名前、結局はつけなかったはずだし。

 でも…


 「タマ!!返事をするのじゃ!!」


 まだ魔王は、いないはずのタマを探していた。

 

 しょうがない。

 教えてやるか。

 

 「おばあちゃん、タマって名前つけるのは止めたでしょ?」

 

 「あーそうだっ…、なぁお主…。今…、なんといったのじゃ?何か、すごく聞き…

 聞き…、失礼なことを言われた気がするのじゃ!!」


 毎度のように、言葉が出てこなかったらしい。


 「そうか…?」

 「そうなのじゃ!!すごく聞き捨て…、そう聞き捨て、聞き捨てだったのじゃ!!」


 魔王が明るい表情になった。

 どうやら、”聞き捨て”って言葉が出てきてなかったらしい。

 

 「良かったな、言葉出て来て。」

 「あぁ、良かったのじゃ。これでスッキリ…じゃないのじゃ!!」

 「ん?」

 「ん?じゃないのじゃ!!お主、今さっき、妾になんと言ったのじゃ!!」


 なんと…

 えっと、確か…


 「ババア?」

 「ぬぁっ!?」


 魔王が固まってしまった。

 そして隣のアイラから…

 

 「それ、悪化してるわよ?」

 「あっれー、そうかー?」

 「そうよ。というか、すごくわざとらしいわね。」

 「そんなことないんだけどなー。」

 「はいはい、嘘嘘。」

 「ばれたか…」

 「そりゃーね。」


 言い終わると、アイラはクスクスと笑い始めた。


 そして目の前を見てみると、固まっていた魔王は気づくとプルプルと震えていて…

 すぐに、キッと鋭い視線を向けてきた。


 「誰が…、誰がババアじゃ!!妾はレディなのじゃ。立派なレデイなのじゃ!!それなのに、ババア?ふざけんなじゃ!!まじでふざけんなじゃ!!!妾は決して、決してババアなんかじゃないのじゃ!!!」

 「そっかー。」

 「そっかー…?テキトーじゃ。すごくテキトー過ぎるのじゃ!!!」


 魔王がツッコんでくる。

 でも、よくよく考えてみると…

 

 「いや、でもそうだよな。」

 「そりゃそう…

 「だって、それにしたらバカすぎるもんな。」

 「ぬぁつ!?なんでじゃ!!なんで、そういうことになるのじゃ!!」

 「いやだって、ババアにしては知識がなさすぎるから…」

 「ぬぁつ!?ぬぬぬ…」


 魔王が、恨めしそうに見てくる。

 そして隣からは…


 「あんたってひどいわよね。たま…、いや…」


 たま…

 

 「おい、待て。なんでそこで言い直した!」

 「え、あっ、それはあれよ…。えーと、その…、その…」


 アイラは忙しなく目を回し、一向に続きを言ってこない。

 

 「その、なんだ?」

 「」


 アイラからはやっぱり、続きが出てこない。

 そして、何故か魔王の方へバッと振り向いてから…


 「……、そ、それよりも魔王(まおおう)。」

 「ん?なんじゃ?」

 「えっと…、そう!!ゴブリンの確認、しなくていいの?」

 「あー、そうなのじゃ。するのじゃ。」

 「じ、じゃー、頑張ってね。」

 「おう、なのじゃ!」


 すぐ、魔王はゴブリンたちの点呼に戻って行ってしまった。

 

 「よし、じゃー、続きをするのじゃ!!7号!!」

 「ぐぎゃ。」

 

 ゴブリンたちのところへ戻った魔王から、また声が聞こえてくる。


 ん?

 7、号…?

 さっきは確か…

 いや、待て。

 今はそんなことよりも…


 一度、アイラが魔王に話をふったせいか、色々と流れてしまった雰囲気になってしまっている。

 

 「フー。」


 そしてアイラからは、安堵のため息までもが聞こえてきた。

 こいつ…


 「何よ?」

 

 見られていることが不快だったのだろうか…


 「ん、いや…

 で、さっきはなんで言い直したんだ?」


 「はっ!?」

 「どうした?」

 「え、だって…、まだ聞いてくるの?」

 「そりゃーな。」


 普通聞く、よな?


 「だって、普通はもう聞いてこないじゃない。なのに…」

 「いや、普通聞くだろ。」

 「えっ?」

 「え?」


 俺、おかしいことでも言ったのだろうか…


 「はぁ…」


 目の前のアイラからため息が聞こえてきた。

 そしてすぐ、呆れたように…


 「そうね、そうよね。あんたってそういう奴だったわよね。」

 「何、そのひどい言葉…」

 「いや、なんでもないわよ…」

 「いや、あるだろ。」


 こんな感じで、午前は過ぎて行ってしまった。

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