第18話 一方その頃ギード王子たちは⑥
しばらくするとギード王子が戻って来た。後ろには学生を連れている……これがロイド・エルダーウィズか。
「すみません、ロイドを連れてきました」
「そうか。で? なぜ魔石供給が止まっておるのじゃ?」
連れてくるだけか?
ちゃんと話を詰めたのであろうな?
きっとやっていないのだろうが、これで大丈夫なのじゃろうか???
「失礼いたします、国王陛下。エルダーウィズ公爵家のロイドでございます。魔石供給が止まった件、申し訳ございません。ただ、執務を担っている兄を問い詰めたところ、既に王家に約束している今年の分の供給は済んでいると言い張っております。残りは学院に寄付したとのことで、次の供給は来年だと……」
「なんじゃと?」
全くもって予想外のことを言い出しおった。
次は来年じゃと?
既に約束の分は供給したじゃと?
残りは全て学院に寄付したじゃと?
どういうことだ!!?
「大臣?」
「はい……そのものの言う通り、確かに王家と公爵家の間の契約書にある量は供給済みですな。しかしこの契約は100年も前のもの。今では毎年1の月にはその供給量を超えていました。それで供給を一方的に止めてしまうのは信義則に反するのではないか?」
今なんといった? 信義則と言ったか? 信義則じゃと???
今までそんなもので成り立っておったというのか?
遥か昔の契約をずっと変えてこなかったというのか??
歴代の内務大臣は今まで何をしてきたのじゃ?
職務の中に魔石の安定した調達と供給と明確に書かれるようになったのはもう50年も前のことなのだぞ?
それなのに100年前の契約を見直すこともなく放置しておったのか?
「帰ってそう伝えます。ただ、実際に実家の倉庫は空になっておりまして……」
「なにをしているのですか? ロイド様、あなたが戻ってご実家を掌握すべきでは?」
「オルフェ様……」
そこに口をはさむオルフェ。
そうじゃな。今はまず解決策を模索するべきだ。文句を言っても始まらん。
信義則でしかないのであればエルダーウィズ公爵家をこの件で罰するようなことはできん。明らかに仕返しではあるが、大臣が甘すぎる……。
しかし、実家……実家か。
既に倉庫が空のエルダーウィズ公爵家を探るよりも、よい者がこの場にいるではないかのぅ。
「そうじゃった。そなたの家は魔石加工の名手であるハーティス家だ。加工用の魔石があるのではないか?」
間違いなくあるじゃろう。
加工魔石を作るためには仕入れる必要がある。そして加工を施した魔石はどこかに保管され、少しずつ販売しているはずだ。
決して一気に在庫をなくすようなことはせんだろう。
「数は少ないものの、あるにはありますが……」
「今は緊急事態だ。来年供給が安定すれば返す。だからすぐにでも持ってくるのじゃ。そして守護結界の魔道具に」
余がそこまで言っておるのにすんなりと差し出さないオルフェ。
まだまだ教育が必要なようじゃな。
将来の王妃たるもの。なにを優先すべきか、その判断ができぬようでは困るのじゃ。
「もうしわけございませんが、実は当家でも魔石が入手できず、卒業式のギード王子たちの衣装用の加工魔石の準備も遅れておりまして……」
「なんだって? 必ず用意してくれると言っていたではないか?」
ただその言葉から、本当に数が少ないことがわかる。もう使途が決まったものしかないのじゃろう。
その言葉にギード王子が怒りだす。
だが、そんなことを気にしている余裕はない。
それでも守護結界の魔道具への魔石の投入を止めるわけにはいかんのだ。
お前たちの見栄や感情などもうどうでもいい。
「黙れギード。卒業式などどうでもよい。守護結界に魔石を与えなければ」
お前も王子なのだから、もっと広い視野を持て。
それができんからお前をすんなりと王太子にできぬのだ。
「何を仰いますか、父上。卒業式には国内の数々の貴族が集まるのです。みすぼらしい恰好などできません」
しかしこのバカはこの期に及んで見栄だと?
お前はこの事態のまずさがわかっておらぬのか?
生きるか死ぬか、王国が滅びるかもしれない事態だぞ?
そんな状況で見栄を優先することの愚かさがわからぬのか?
それこそ良い笑い者だ。
まぁ笑えるやつはおらんだろうがな。
なにせ見栄など優先して災厄の魔物が蘇った日には、この王都は灰だ。
当然、学院の卒業式などない。
「そんなことはどうでもよい。守護結界への魔石が必要だ。もし災厄の魔物が復活でもしたら王都は崩壊するかもしれぬ。卒業式などしている場合ではないのだ」
「なっ……あんなものはただのお伽噺では?」
バカかこいつは。空想の産物に対してあそこまで仰々しい魔道具を用意して多大な予算を使って守ってきたとでも思っているのか?
「何を言っておる。あれは事実じゃ! 王城の基礎を見てくるがいい! 本当に崩れた跡があるのじゃ!」
「なっ……しかし……」
「もうよい! 準備しているものを出すように言え、オルフェ」
まったくクズばっかりじゃ。
これではまだ余の引退は遠いな……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます