第12話 行動開始
「大魔導士様が明るくなりましたら船に騒ぎを起こします。
大騒ぎになりますから、その隙に姫を連れて海に飛び込んでください」
「馬鹿な。
海に飛び込むのなんか自殺行為だ」
「大丈夫です、私は助かりました。
大魔導士の守様に助けてもらいましたから」
「本当に貴様はミーシャなのだな。
ミーシャに化けた魔物ではないと」
「こればかりは信じてもらわないといけませんね。
私にもわからないことばかりなので説明のしようがありませんが、とにかく明るくなりましたら騒ぎを起こします。
守様。どんな感じになりますか。
……はい、わかりました。
騎士様、大魔導士の守様が言うには、マストを壊すそうです。
これならば船全体に騒ぎ居なります。
火事を起こすこともできるようなのですが、そうなれば姫の安全にもかかわりますから、マストを壊すだけになると言っております。
信じられないのもわかりますが、マストが壊れたら、信じて姫を連れて海に飛び込んでください。
私が助けに参ります」
「……わかった。
できるだけのことはしよう」
「守様。
姫様には……」
「できれば伝えておきたいのだが、姫の場所がわからないからできない。
それに、これは外だけにできることで、部屋の中までは無理なんだ」
「わかりました、騎士様を信じましょう」
「ああ、火を起こさないから作戦が失敗しても、次のチャンスを狙えるかもしれない。
難しくはなるが」
「わかりました、私は守様を信じます」
「ということで、だんだん明るくなってきている船の東側に回ろう。
日が昇るまでに見つかるわけにもいかないので、少し距離を取る」
俺は操船を始めた。
問題の船には北東に向かって近づいていたので、このままでは見つかる恐れがある。
船を一旦北西方向にかじを切って動かし、敵船からは日を背にする位置まで移動する。
後は日の出を待つ。
一応、敵船上空に、別のドローンを飛ばしておく。
入れ替わりに先に飛ばしたドローンを戻したので、そのメンテナンスも空き時間にしておく。
ルビコン川を渡ったと表現するべきか、賽は投げられたと表現するべきかなはこの際置いておいて、とにかく作戦は始まった。
日の出とともにできりだけ近づいて、マストを40mm機関砲でマストの根元を壊す。
多分かなり大騒ぎになるだろうから、そこで救助のボートを出して要救助者を拾って逃げる作戦だ。
あ、そうなると速やかに海に飛び込んでもらった方が良いので、作戦中にミーシャから声を出してもらおう。
今飛ばしているドローンのスピーカーから大音声で声を出せるように設定を今のうちにしておく。
そうそう、忘れていたよ。
船が止まればすぐにボートを海上に浮かべておくしかないか。
ならばミーシャはここに残してドローンの面倒を……
「守様。
救助に向かわれるときに私もボートに載せてください。
その方が姫様も安心しますから」
それもそうか。
となるとドローン端末の子機をボートの載せておかないとまずいな。
どこにあったのかな。
俺はもう一度ドローン端末を探しにしまってある部屋に向かった。
多分あのロッカーにしまってあるはずだ。
ドローン端末の子機をもって甲板に戻ると朝日が昇り始めている。
「さあ、始めようか」
「はい!」
作戦の開始だ。
まず騒ぎを起こすので、近づいたがまだ敵には発見されていない。
まあ、1kmは離れていないだろうが500m以上あの船とは距離を取っている。
一応大砲からの攻撃が怖いから、これくらいの距離を取って安全を図る。
「ミーシャ。
これからあの船に騒ぎを起こすからそうしたら、この機械で、先ほどの要領で声をかけてくれ」
「何を言えばいいのですか」
「なんでもいい。
そこに見えるものを見て、危ないようならばそれを教えてやればいいし、とにかくできるだけ早く全員海に飛び込ましてほしい」
「わかりました」
「では始めるから、先にミーシャはボートに乗っていてくれ。
騒ぎを起こしたら俺も急いで乗り込むから」
「はい」
俺はミーシャに最低限必要事項を伝えたら艦橋に戻った。
艦橋の艦長席には最低限の武器管制の操作パネルがある。
ミサイルなどは艦中央にあるCICからの操作が必要なのだが、俺一人では絶対に無理だ。
幸い、目標の設定は流石に無理だが目標が設定されているミサイル類の発射だけと、機関銃のレーダー非連動掃射については艦長席からでもできる。
何せ傭兵の船だけあって最悪の状態を想定されて設計された船だ。
元は日本の巡視艇と同じなのだが、艤装には相当凝った作りをしてある。
目標までの距離にして764mと出たが、これくらいならばここからカメラを使っての照準合わせでも当てることは可能だ。
何せ相手はほとんど動いていない。
俺は中央の一番太いマストの付け根から3mくらいの位置を狙って連射モードで掃射した。
大した音が出ていないが、相手に聞こえたかもしれないな。
俺はドローン端末に映った映像を確認すると、相当敵さんも慌てた様子で、騒ぎ出している。
一応艦橋から双眼鏡を使って様子も確認すると、マストが傾きだしている。
狙った通りになっている。
流石にマストには幾重にもロープが渡してあるから倒れることもないだろうが、相当騒ぎが大きくなるはずだ。
では、計画通りにボートでご依頼の要救助者を拾いに行くか。
俺は急ぎ甲板に出るとミーシャが大声で声をかけてきた。
「あちらは大騒ぎです。
これなら……」
「ああ、さっそく救助にいくよ。
できるだけ早く海に飛び込むよう声をかけてくれ」
俺はボートに乗りこむとすぐにエンジンをかけてボートを敵船に向け走らせた。
日を背にして一直線にボートに向かう。
この時代では銃の類もあるだろうが、とにかく敵からの死角に潜り込みたい。
船尾にぴったりとボートをつければまず発見はされない……と思いたい。
甲板上は大騒ぎになっている。
俺たちが敵船に近づいた時には壊したマストが折れて倒れたようだ。
幸い倒れた先が船主方向だったので、海上を見る人はいないようだ。
皆、とにかく倒れたマストの周りに集まり大騒ぎをしている。
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