第二章 軍団の誕生
第5話 要救助者発見
自動操船に切り替えてからレーダーを確認したり、双眼鏡を使って洋上を観察して時間を使っていた。
どれくらい時間を使っただろうか。
昼過ぎ、いや、6時ごろからだったと思うがすでに日は傾き日中に比べて辺りは暗くなり始める。
月も出ていないので、星明りしかないと本当に何も見えない。
まあレーダーだけは暗くとも仕事はしているが、とにかく何があるのかわからない世界に来てしまった事だし、あたりが完全に暗くなったところで船を止めた。
惰性でまだ動いてはいるが、船もそのうち止まるから大丈夫だろう。
もう一度レーダーを確認して何もないことを理解した。
一応潜水艦などを見つけるための水中レーダーやソーナーもあるので、そちらも確認するが海中大型生物すらいないようだ。
もっともレーダーはともかくとして、ソーナーについては使い方を知っている程度では正直俺には実用的には使えない。
気休めだよな。
これなら艦橋を離れても大丈夫だろう。
というよりも俺しかいないのだから、絶対にこれからの活動は相当制限がかかる。
とにかく当面の方針は、まずは俺にくれたという大型船を見つけることとして、俺は一旦食堂に向かう。例によって、食べかけの食器はそのままだ。
俺が片付けなければ一生このままで腐敗臭を巻き散らかれたらたまらないと、急ぎ食堂の整理から始める。
それから、配膳台に行きまだ相当の残っている食べ物を確認する。
臭いをかいでも腐っているとは思えないので、恐る恐る食べてみると、味も変わっていない。
ひょっとしたらこの世界には雑菌は無いのかも……油断は身を破滅させる。
今ある分だけはもったいないのでそのまま食べて、残りは冷蔵庫にでも入れておこう。
俺が料理を作る手間も省ける。
当分は楽をさせてもらう。
食事の後は風呂場に行きさっぱりさせてもらうと言っても、この船はシャワーしかない。
早く大型船を見つけて風呂に入りたい。
そのシャワーも二日ぶりになる。
さっぱりして、そのまま寝てしまおうと自室に向かうが、ちょっと考えた。
この船には誰もいない。
ならば自室の狭い部屋で寝るよりもより便利で艦橋に近い船長室でもいいよな。
俺はそのまま船長室に向かった。
この船の船長はアラサーの美人だったが、今ある彼女の物には複製だったので匂いも無い。
船長の女性特有の匂いをちょっとばかり期待したのだが、新品同様の部屋で匂いが無い。
ただデスクには作りかけの書類等が散らばっているので、とりあえず部屋を片付けた。
何があるかわからないので、できる限り物は捨てずにとっておく。
片づけのために船長の私物が入れてあるロッカーを開けたが他意は無い。
ただ寝るのにさみしくないようにシルク製の小さな布切れをお借りした。
黒いレースの付いたものだ。
匂いを嗅いだが当然何も匂わない。
それでも、それをいじりながら船長のベッドで寝てしまった。
や~、予想はしていたけどやはり淫夢っていうやつ、それ見て夢の中で出していたから、起きたらすぐにまたシャワーを浴びる羽目になった。
しかし、アラサーの船長ってあんないやらしい下着をつけていたんだと今更ながら惜しいことをした……何が惜しいかとか考えない。
時間もまだ夜明け前の午前5時だったので、きちんと食事をとってから艦橋に向かう。
昨日の続きからとして、自動操船の設定はそのままでスクリューに動力を伝える。
急ぎではないが、できる限り広い範囲を調べてとにかく今は周りの状況を知りたい。
まったく海図の無い海域を操船するのなんてこれほど神経を使うものだと今回初めて知ったよ。
バスコダガマ、マゼラン、それに最近酷く評価を落としているコロンブスなどのあの時代の冒険家の勇気には頭が下がる思いだ。
海図の無い海に航海していくなんてとてもじゃないが俺にはできない……できないが、今それを無理やりやらされている。
正直一人はきつい。
まだ日が昇るにはもう少し時間がかかりそうなのだが、辺りが明るくなってきたので、調査を始める。
まずはレーダー画面を覗いて何もないことを確認する。
うん、昨日と何ら変化なし。
当然、水深も十分にあるのを確認済だ。
後はできる限り双眼鏡を使い辺りを調べていく。
流木などがあれば少なくとも付近とは言わないが、流木が流れ着く範囲の植生が分かるだろう。
なのでレーダーにとらえきれないような小さなものでも見逃さないように双眼鏡で注意深く見ていく。
昼食を食堂で取ってから小一時間ばかりしたときに1kmくらい先に漂流物を見つける。
ここから見た感じでは木製のチェストのように見える。
海賊映画などでお宝を入れてあるやつだ。
しかも、それに捕まり意識の無さそうなのは人……人!
遭難者だ。
すぐに救助しないとまずい。
俺はすぐに自動操船から手動に切り替え、近くまでは最大船速で向かい、100m手前から徐行して20m手前でボートを下ろす。
ほとんど自動化された船ではあるが、一人ではボート下ろすのも手間がかかる。
骨の髄までしみこむくらい訓練させられた安全確認は最低限だけに絞り急ぎ作業を進めていく。
頼むから間に合ってくれという気持ちで焦りも入る。
急ぎゴム製のボートを操縦してチェストに近づき、女性とチェストを引き上げた。
船に戻り、ゴムボートはロープでつないだまま海上に放置して要救助者を担いで船内に入った。
救助したのは小柄の女性のようで、この船に乗っていた男性乗員のようなことは無いと思いたい。
その人の体はかなり冷えているが、息はある、気を失っていて少々やばいかもしれない。
俺は彼女を抱えたままシャワー室に向かい、彼女の着ている物をすべて剥ぎ取り、シャワー室の壁によっかかるように座らせた。
まだ意識が無いので倒れるかもしれないと、周りにバスタオルを敷いて最悪の時のクッション代わりとしておく。
その後はやや熱めのお湯を彼女の頭からかけ続け、俺は一旦脱がせた服をもって船内のランドリーに駆け込み、そのまま洗濯機の中に濡れた服を放り込む。
洗濯機の操作を済ませたのち急ぎシャワー室に戻り彼女の世話をする。
体が温まってきたのか、少し意識が戻り始めているようだ。
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