教師近藤と給食
近藤が教鞭を執っている中学校で、ある日、三十代の女性教師の中根光子が、給食の準備の時間に廊下を歩いていたところ、びっくりする光景を目にしました。
「ええ?」
なんと、近藤が担任を務めるクラスの教室で、その近藤がたった一人で給食当番をやっていたのです。
「ちょっと、なに、あなたたち。先生にやらせてないで、当番のコはちゃんと仕事をしなさい」
叱るのに近い調子で、生徒たちに向かってそう声をかけました。
すると近藤が手を止めて、彼女のもとにやってきました。
「いいんですよ、中根先生」
「いったい、どういうことなんですか?」
訊いてすぐ、光子ははっとしました。
「これは言わば、私が生徒に頼み込んだことなのです」
光子が目を見張ったのは、説明をし始めた近藤が、尋常ならぬほどに男前だったためです。
「今日のメニューである五目ご飯、いやね、五目ご飯は特別好物ではないのですけれども、この給食のものはとてもおいしくて好きなので、たくさん食べたい、という気持ちでして、生徒たちに私が一人で当番の仕事をやる代わりに山盛りにしていいか問うて、承諾を得た、というわけなのですよ」
「……そうですか」
近藤はこれまで散々紹介してきたように地味という言葉を体現したかのような容姿ですし、性格も素晴らしいなどとはとても言えません。彼を知る他の女性たち同様に、光子は近藤に男としての魅力を感じたことなんてただの一度もありませんでした。しかし目の前の彼は、気を抜いたらうっとりしてしまいそうなくらいに男性のフェロモンを放っていたのです。
とはいっても、給食を食べたいエネルギーによるたたずまいですので、普通に考えればいつも通りのへんてこりんさなわけです。が——。
それにしたって、このハンサムっぷりは何なの!
光子は心の中で絶叫せずにはいられませんでした。
私が理解しているのはほんの一部なのね。この人には無限の可能性があるわ!
そのようにして、彼女は近藤の底知れなさを実感したのでした。
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