第39話 新たな力
翌朝、俺の左頬が腫れ上がっていた。
タイチョーは回復技が使えない為、治せないのだという。
「あの、アクムさん……。悪気は無かったので、許してくれませんか?」
むち打ち気味の首を無理やり下げて、テーブルに額を擦り付ける俺。痛さと情けなさで涙が出てくる。
「普通ノックするでしょ!本当に信じられない!」
アクムは怒りが収まらない中、隣でタイチョーがニヤニヤと微笑んでいた。
そう、俺はアクムの着替え中に部屋に入ってしまったのだ。
元気が出るように、『アクム!おっはよー!』って元気よく部屋の扉を開けると、下着姿のアクムが……。
『キャァァー!!!』
という叫び声と同時に、目にも止まらない閃光(平手打ち)が飛んできた後、再び俺は意識を失う事となった。今回は小一時間の間で済んだようだけど。
「まあまあ、ナインも悪気が無かった訳だし、許してあげたらどうだい!アクムさん!」
タイチョーは朝食のパンにジャムを塗りながら笑いを堪えている。
ここはホテルの1階、淹れ立てコーヒーの香りが漂う朝食会場だった。人気のホテルのようで、朝早くから多くの人で賑わっていた。
朝食はビュッフェスタイルとなっており、タイチョーの皿には、カレーをかけられた山盛りのウドンも、そびえ立っている。
「本当に、デリカシーって言葉知らないのかしら!?」
アクムが山盛りのサラダを口に運びながら冷めぬ怒りを吐き出す。
「すいませんでした。でも、アクムは綺麗な身体してたよ!」
その言葉にアクムは顔を真っ赤にして……。
── ああっ!口が勝手に! その顔色は怒りですか? 羞恥心ですか!?
「ひーとーこーとぉーー多い!!!」
「ごめんなさい!!」
それをみて、隣のタイチョーが腹を抱えて吹き出した。
「本当に、お前たちを見ていると、夫婦漫才みたいだな! S•フクオカに居たときは、こんなに笑うことは無かったよ!」
確かに出会った時のタイチョーの笑顔は少し固かったと思う。今の笑みは心からのものだろう。
「朝食が済んだら、カグラさんの所に行かないとね! ナインがお寝坊のお陰で、自信作が出来たみたいだから!」
アクムは昨日とはうって変わり元気だった。 表面上だけでなければ良いのだが。
このホテルはカグラが滞在期間中、用意してくれていたらしい。なんだかんだで、御世話になってしまっている。ちゃんとお礼を言わないといけないなと、思う。
今日は、ここセクター•カガワのパンドラを破壊する事にしていたが、その前にカグラが用意してくれた装備を受け取りに行くことになっていた。
「なあ、みんな、天魔達の攻撃も多彩になってきている、気を引き締めないといけないな」
俺の呟きに、タイチョーは、「そうだな!アクムさんが居るからといって気を抜かないようにしないとな!」と、真顔で応えるが、口の回りがカレーまみれになっていた。
「ナインの言うとおりね。それじゃ、行きましょうか!タイチョーが口を拭いてからね!」
そのままで行けば面白かったのに。
アクムは本当に優しいな。
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カグラの執務室に訪れると、彼は不自然な位の笑顔で待っていた。
テーブルの上には装備品が置かれており、先程から説明したくてウズウズしているのだろう。
「カグラさん、本当に色々お世話になり、ありがとうございます」
俺のお礼に対して、カグラは満遍の笑みを浮かべて言った。
「いいんですよ。私も久しぶりに開発でワクワクしました。感謝したいのは私の方ですよ」
その様子に本当に開発が好きなんだな。と、思える一方、メゾ•シールズの悲劇を忘れたいかの様な不自然さもあった。
「メゾ・シールズの皆さんは本当に申し訳ありませんでした。俺がもっとしっかりしていれば……」
俺の言葉にカグラは少し悲しそうな表情を浮かべ、「皆さんの所為ではありませんよ、残念ではありますが彼らも後悔はしていないでしょう」と視線を天井に向けた。
しばしの沈黙が訪れる中で、カグラは三人との出来事を思い返しているのかもしれない。
カグラは、一息入れると、「それでは!」と切り出した。
「さあ、皆さん、私の傑作を見ていただけますか!なにしろ、一週間も期間を頂けたので、中々の出来と思いますよ!」
テーブルの上の装備品を持ち上げ、カグラは説明を始めた。
「先ずは、タイチョー殿の武器ですが、S45Cをベースに3次元立体構造で編み込んだことで……(中略」
「だから、神楽さん? 手短に、要点を、教えてくれないかしら?」
アクムの一言で直立不動と化すカグラに、少し同情してしまう。
その後のカグラの説明は、武器の特性と使い方に留まった。
タイチョーには、軽くて強固な棒状の武器で、棒の中央には特技の拡張ユニットが搭載されている、範囲攻撃…。タイチョーでいえば、範囲回復が可能になる優れ物で、その名も『
アクムに用意されたのは左手の腕輪、意識する事でシールドが展開され、意のままにその形状を変化出来るという業物だった。
俺には、右手の腕輪を。 アクムとお揃いにしてくれるとは、なかなかカグラは気が利く。側から見ればカップルも当然。俺はペアルックというリア充アイテムを手にしたのだ!
── 説明を戻そう。
その腕輪は見た目がよく似ているが、機能は全く違うものだった。
アクムの様なシールドとは違い、特技のストックが可能で、発動に少し時間のかかる『緑の矢』などを発動可能な状態で腕輪内に『保留』出来る。
カグラは嬉しそうに小1時間性能について、終始笑顔で話し続けたが、アクムの一言が無ければ1日が終わっていた事だろう。 しかし、好きな事に情熱を傾けるカグラの姿に、いい大人だな。と、少し憧れを感じた。
「カグラさん、凄い装備をありがとう。恩に着るわ」アクムが左手の腕輪に触れると、半透明の淡い緑の膜が生成され、まるで生きているかの様に形状を変化させていた。
喜ぶアクムに、カグラはうつむき加減に呟いた。
「いいんです、恩着せがましいかも知れませんが、この国が平和になった際は研究を手伝ってくれませんか? 馬鹿な考えは捨てて、あなた達の能力を平和利用目的に活かしたいと今は思っています」
アクムは驚いた表情のあと、微笑を浮かべ「そういう事なら、考えてあげてもいいわね」と、答え、その言葉にカグラの顔がパッと明るくなった。
「カグラ殿!素晴らしいお考えです!全て終われば、私も協力させてください!」
タイチョーはカグラに握手を求め、二人が手を握り合う……が、
カグラの笑顔が苦悶に変わるのは一瞬だった。
── タイチョー、一般人にそれはまずいですよ。
タイチョーの愛情表現から解放されたカグラは、手を摩りながら、「み、皆さん、宜しくお願い致します。帰ってきたら、是非、感想をお聞かせ下さい」と、涙目で語った。
「任せといて下さい。新しい武器も貰ったし、天魔達には残念なお知らせだ!」
俺の声に頷くアクムとタイチョー。
── さて、戦いのお時間だ!
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