第28話 上級呪術師の初仕事

  何週間もかかると思ってた留学資金は、あっけなく調達出来たし、お仕事をする為災害地域に来てみた。

 領主はポチにのって感動してたけど、私達は感動する余裕なんてない、酷いありさまなんだもの。

 土石流で家が飲み込まれた跡が、災害の凄まじさを物語ってた。

 復興作業中って聞いてたけど、とても人が住める状態じゃないって事が、見ただけで分かるレベルだ。

 今でも黒い煙が上がってて、このままじゃ隣村も飲み込まれそうな勢いだった。

 怪我人は何処か聞いたら、隣村の治療院に連れてったけど、溢れかえってて大変だって言ってる。

 疫病も出始めたんだって、いったい何をしたらそこまで呪われるんだ?


 取り合えずこっちを先に祓わないと、次の噴火で隣村が巻き込まれちゃいそう。

 私は急いで、呪詛破りの呪印を結んだよ。

 「東の青龍 西の白虎 南の朱雀 北の玄武

水を操り・風を纏い・炎を滾らせ・大地を揺らし。遺憾、その在り方を、討ち破れ」

 ウゲッ!

 ゴッソリ魔力持ってかれた…

 眩暈して来た、倒れる前にポチから魔力を分けて貰ったよ、危なかった~

 「この呪詛、複数で掛けてたの?嘘でしょ…」

 「大丈夫?」

 クレアが心配そうに、私の顔を覗き込んでる。

 「ありがと、平気」


 活火山全体から、黒い靄が浮かび上がって来た。

 そして空が、一瞬で真っ黒に染まってく。

 あの黒い靄が呪詛なんだけど、一般人には見えないんだよね。

 ほっとけば自然に霧散してくけど、時間掛かりそうだし、気になったからポチに吸い取って貰った。

 何かの実験で、使ってみるかな?

 呪詛が消えた後、噴火活動も止まったんだけど、突然立ってられない程の大きな地震が起きた。

 直ぐに治まったけど、ビックリした~、まだ心臓がドキドキしてるよ。


 「いや~素晴らしい!流石上級呪術師様は格が違いますね、あの火山が一瞬で収まるとは…なんと、お礼を言ったら良いか…グスン」

 「ホッホッホ」じゃなくなった。

 「あ、泣かないでください。今の地震で被害が出てると思うので、確認させて下さい」

 患者は気になるけど、地震の被害状況のが先だよね?

 領主様は暢気に、鼻をチーンっとかんだ。

 「あの程度の地震では、問題ありません。建物も地震対策をしておりますし、領民も慣れておりますから、心配はいりません。ホッホッホ」

 そうなんだ…領地によって違うのね。

 うちは雪害対策をしてるから、似た様な感じなのかも?

 「分かりました、では患者を診に行きましょう」


 隣村に来たけど、火山より瘴気が酷いな。

 上から見ただけで真っ黒だわ、呪詛師は同じ奴等だ、疫病と二重に掛けられたって事?

 領主に心当たりが無いか聞いてみたけど、思い当たる事ばかりで特定出来ないって。

 どんだけ恨み買ってんだよ、この人大丈夫なんか?

 「商人は、恨みを買うのも仕事ですからな。ホッホッホ」

 「そうなんだ…」

 いろいろ大変なのね。

 取り合えず領主はポチから下りないように、上で待ってて貰う事にした、病気移ったら面倒臭いからね。


 疫病に関しては、祓ったところで治療しなきゃ治らないのよ。

 これだから呪詛師って、厄介なんだよね~

 見た感じ、医術師が圧倒的に足りて無いわ。

 ここはクレア一人じゃ大変だから、問答無用でルーク叔父様とミラ伯母様を、転移で迎えに行って連れて来た。

 上級免許取得者は、助手を連れて歩けるのだ。

 二人は私達の師匠だけど、助手としても登録したから、一緒に居る時は医療行為が許されるのである。

 「これは酷いな…村人がほぼ全滅じゃないか」

 「持って来た薬剤で足りるかな?」

 早速、診察してくれてる、頼もしいぞ。

 皆に任せて、私は呪術師としての役割を果たすよ。


 先ずは呪詛を祓った。

 あっちより酷い瘴気だったけど、頑張ったよ。

 私には、ポチと言う強い味方が付いてるからね、魔力を分けてくれるのはありがたい。

 次に、病原菌は、元から正さなきゃね!

 成功するかは、運次第。

 「森羅万象この世界に干渉する者たちに告ぐ。我が魔力を対価に、その偉大なる力を、貸し与えよ!『開け、土の門』  自然の理に背き、嘲りし物。真理を暴き、その姿を顕せ!『土蛍』」

 蛍達が反応してくれた!

 「行って来る!」

 「頑張って」

 祓った呪詛が何処に帰るのか、分かるようにはなってないよ。

 追跡範囲外に居る呪詛師を見つける事も、不可能。

 ただね、思いついちゃったの!

 土蛍に、祓った呪詛を追いかけさせれば、いいんじゃないかって。

 私って天才。フフン(ドヤ顔)

 で、追いかけて来たわけなんだけど…

 やっぱ呪詛師って、弟子を持ってたのね、沢山いてビビったわ。

 そして祓われると思ってなかったみたいでさ、皆仲良く疫病にかかってたよ。

 しかも倍返しだかんね、これはきっついぞ~


 私の存在に気付いたみたいだけど、遅かったね情けをかけるつもりはないのよ。

 ちょ~っと付き合ってもらうだけ、こんな機会滅多にないもん。

 利用出来る物は、利用する主義なのだ。

 呪詛師達を、ポチの中にご招待するよ。

 情報を提供してもらったけど、こいつら全員、西の国とは関係なかった。

 でも変異種の呪詛に関しては、まだまだ不明な所が多かったからさ、実験台になって貰ったよ。

 どうやったら魔物にされた人を、元に戻せるのか?



 そう来たか、何処までも反吐が出る。

 戻す方法は一つしか分からなかった、しかも、使えるかは…謎だな。

 誰か一緒に考えてくれる人が居たら、もっとまともな戻し方が分かったかもしんない。

 溜息出ちゃう、幸せ逃げちゃう…

 私は呪印を結ぶ。

 「夢の内 絶望の内 光の内 闇の内

理想を見て現実を知り、朝日を浴びて月夜に眠る。実相、忘却の彼方へ、緘黙かんもくせよ」

 呪詛師達から、ここでの記憶や、痕跡を全て消したよ。

 消滅の呪印は禁術だから、現実世界で使うと呪詛師になっちゃう。

 でもここはポチの中だから、禁術でも使いたい放題なのよ。フフン(ドヤ顔)


 ポチの中から出た私は、疫病で苦しんでる呪詛師達に、残酷な言葉を投げかける。

 「早速だけど全員もれなく捕まえたいから、大人しく土偶の中に入ってね♪知ってるよね?呪詛師ってさ、捕まったらどうなるか」

 具合悪いせいなのか、今後の運命を、悟ったからなのか?

 青褪めた顔してたけど、そんな事はどうでもいい。

 「時の狭間に落ちた 忘れ去られし神の異物 光無き世界で祈りを捧げよ!『土偶』」

 私は、不敵な笑みを浮かべて「バイバ~イ」って、手を振ってあげた。


 あんた達は忘れてるけど、ポチの中よりはずっとマシだと思うから、頑張って長生きしてね。

 心の中でエールを送り、さっそく繋いだばっかの王弟の宝物庫に送ったよ、ちゃんと注意書き付き。

 【シュッド子爵の領地に、呪詛をかけた集団を発見したので、捕まえました。呪詛返しで、全員疫病にかかってるから、気を付けてください】これで良し!

 宝物庫は一方通行だからね、返品不可なのだよ。

 人が送られて来るとは、思ってなかったよね。

 私だって送る予定はなかったけど…

 ある意味お宝じゃね?

 王弟がどんな顔してたか見れないのは残念だけど、頑張ってあの忌々しい変異種の呪詛を、撲滅させる手立てを考えてくれ。


 村に戻ったら怪我人も、疫病患者も、ほぼ完治してた。

 後は、ここの人達だけで大丈夫って言われたから、伯母様達を送って来たよ。

 これで、上級呪術師としての初仕事は、無事完遂出来たかな?

 お賃金に見合った働きが出来てたかは、比べる対象が居ないから分からん。

 ただ、領主からは鬱陶しくなる程感謝された。


 呪術師が活躍する場面なんて、無い方がいいんだけど…

 王様から貰ったバッジに見合うよう、これからも精進しなきゃね。

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