第30話 暗殺者
帝国に来てから、何日経ったかな?
今起きてるのはパン屋の主人位かなって頃、寝る前に仕掛けてた罠に、見事囚われた暗殺者達を見下してた。
「毎日、毎晩、本当にご苦労様だね~で?いい加減諦めたらどおなの」
私は、目の前の暗殺者に、問いかけたんだけど…
「あんた達に言っても無駄だったね、お家に帰れないから、ご主人様にも報告出来ないもんね(笑)」
「自害防止の魔道具も着けてるから、返事は無理」
クレアが饒舌だ、確かに毎日こっぱやくから起こされるのは、ムカつくよね。
怒れるクレアに祟りあり!だわ、そろそろ気を付ける頃合いかも?
これで何人目なんだろ、最早数えるのも億劫で、そのままお爺様の屋敷にある地下牢へと転送した。
最初の数人は尋問してたんだけど、どいつもこいつも同じ情報しか持って来ないんだもの。
時間の無駄よね。
「バイバ~イ、大丈夫。あっちには拷問のスペシャリストが居るから、頑張って情報流してね」
王都へ送らなかったのは、一方通行だから。
万が一こっちで証人が必要になった場合、連れて来るのに時間がかかっちゃう。
だけど地下牢なら、私のマジックボックスと繋げてるから、何時でも取り出し可能なの。
どんだけ繋げてんのかって?フフン(ドヤ顔)
忘れてる場所もあるから、実は正確な数を分かってない。てへっ
私が覚えてなくても、ポチは分かってるから、必要な時は思い出すでしょう。
会話は出来ないけど、私の意思を汲み取ってくれる、賢い子なのだ。
「流石に眠いなぁ、豪華なホテルじゃ熟睡出来ないし。私、本気で野宿してもいいかな?」
クレアも欠伸してたから、私のが移ったんだね。
「私も野宿がいい」
暗殺者も片付けたし、ホテルに戻ったら金魚が血相変えて走って来た。
「どしたの、何かあった?」
「何暢気してんだ、何処へ行ってたんだよ、誘拐されたかと思っただろ。心配かけさせるんじゃねーよ!!!」
わ~お!お上品さが消えてるよ。
早朝訓練に付き合って貰おうと思って部屋を訪ねたら、扉は空いてるのに返事が無い。
中に入ったらベッドは空っぽだし、ビックリして探してくれたみたい。
「私達を誘拐するような、酔狂な奴なんて居ないでしょ?」
「無断で友達が居なくなったら、誰だって心配するだろが!」
「それは…ごめんなさい。心配してくれてありがとね、金魚、あんたって良い奴だ」
「良い奴、ごめんなさい」
金魚の糞は、心底安心したって顔してる。
「今度からは書置きでも良いから、ちゃんと分かる物を残しておいてくれ」
「「分かった~」」
もう少し探して見つからなかったら、目玉に報告するつもりだったらしい。
もし私達に何か緊急事態が起きたら、ポチが知らせに行くからって事で今回は納得して貰った。
まだ暗殺者については隠してる。
こいつに報告したら絶対寝なくなる、一晩中起きてそうなんだもの。
目玉には報告してるよ、皇妃が暗殺者を送って来てる事。
ただね、狙われてるのが私だって事は隠してる、心配かけたくないからね。
それにしても、帝国って広いわりに、何処へ行っても貧民街が多いな。
馬車が通る街道や街中は凄く綺麗に整備されてるし、人々も普通に生活してるように見えるけど…
一歩路地裏に入ると、別世界かと思う程に酷い。
ここへ来る前に、目玉から予備知識として聞いてたけど、貧富の差ってほんとにあったんだね。
領地から出た事が無い私達は、驚きを隠せなかった。
いっときの感情で手を差し伸べたら絶対駄目だって、厳重注意されてなかったら、今頃大変な事になってたと思う。
いくら二人で頑張ったって、帝国民の貧困者全員を助ける事は出来ないもん。
領地に連れ帰って働いて貰う事も考えたけど、一人連れ出すにしたって領主と帝国に金銭を支払わないといけないらしい。
「奴隷かよ」って、突っ込んでしまったわ。
働き盛りの若い人だって、痩せ細って座り込んでるんだよ、凄く勿体ないよね。
どうして仕事を与えないのか聞いても、目玉は苦笑いするだけで答えてくれなかった。
私達には分からない、何かがあるんだろって思った。
結局金魚の糞は、護衛を交代してくれないまま、帝都に着いたよ。
「何あれ、宝石の展示場?カラスでも飼ってるんか」
馬車から見えた皇宮を見ての、感想である。
「趣味悪っ」
ほんとだよ、そんな所に使うお金があるなら、貧民街なんとかしろよ!って思ったけど、そこは口に出さなかった。
馬車を降りてから部屋に案内されるまで、めっちゃ好奇な目で見られたよ。
彼女達が小声で話してる事、全部聞こえてるんだけど、どうやら私は歓迎されてないようだ。
王都での私は、有名な悪女らしいけど、ここでもそうなのかな?
「婚約破棄されたのに、王子に付き纏ってる惨めな令嬢って…何でそんな話になってんだろ?留学は王命だし、付いて来てるのは目玉の方なのにね。そもそも婚約破棄ってどっから出たのかな?」
「分かんない、感じ悪っ」
「来た事も無い国で広まる噂って、不気味なんだけど…」
「最低、黙らせてもいい?」
「駄目じゃね?着いたばっかだし、その内勘違いだって分かって貰えるんじゃないかな?」
クレアが怒ってるけど、私は自分の事だから、怒りの感情は無いよ。
それにしても態度が横柄だな、ここの連中は何様なんだ、帝国民様か(笑)
部屋に案内されて入ったら、直ぐにティーセットが運ばれて来たんだけど、嫌な匂いがする。
「私、下剤なんて頼んだ覚えないんだけど。それとも、帝国民は皆、酷い便秘に悩まされてんの?」
私がそう言うと、ご令嬢達はニヤニヤしてたのをやめて、心外だとばかりに顔をしかめて言い返して来た。
「こちらは帝国でも上質の茶葉でございます。田舎の…小国の…王国では口にする事も出来ない程の品です。難癖付けるのは、止めて頂けませんか」
「上質の茶葉って、これがか?」
どう見たって出がらしだろ、こちとらお茶に五月蠅いミラ伯母様から、みっちり仕込まれて育って来たんだ。
それに、自称行方不明が世界中の茶葉を送って来てくれてるからね。
この出がらしが、我が家で愛飲してる三流茶葉だって事位は、分かる。
ちゃんと淹れたら、品質に関係無く美味しくなるんだよ、後は好みの問題だ。
「この人達にとっては、上質品なのかな?」
「違うと思う、出がらしは品質関係無い」
「確かに、彼女達がしゃべってる事に、悪意しか感じられないもんね」
「うん、全部聞こえてる」
部屋の隅で話してたから、聞こえて無いと思ってたのかな?
驚いた顔して黙っちゃった。
私は彼女達に向き直って、言ってやったよ。
「田舎者だから、マナーがなってないって?確かに私達はお貴族様のマナーとか知らなかったけど、お茶に関しては別なんだわ。家に来てくれたお客様に、こんな出がらしを出す事なんてしない。それに、恥をかきたくないから、人前で飲めないのよって、何の事言ってるの?」
「………」
「都合悪くなると無言かよ。だいたいさ、下剤入った出がらしだされたら、誰だって飲むの躊躇するんじゃないの?あんた達はこれを、何の疑問も無く飲める訳?」
「げっ下剤なんて、入れてませんわ。お客様の、勘違いでございましょう」
「そうなんだ、まぁいいわ。私達はね、物を粗末にする人が、大嫌いなんだわ。下剤だってそう。薬術師がこの薬を調剤する為に、どんだけ手間をかけてるか分かる?調剤に使う薬草を作るのだってさ、農夫達が汗水流して育ててるんだって事、あんたら知ってんの?」
片方の眉毛をクイっとあげたと思ったら、したり顔で、言い返して来たわ。
「私達は貴族令嬢として、幼い頃から、淑女教育を受けておりますの。農夫の仕事に携わる機会なんて、ありませんのよ。覚えておいて下さいまし」
今度は、隠そうともしないで笑ったよ。
「そうなんだ、じゃあさ、この機会に覚えておくといいよ。薬剤ってのはさ、ちゃんと用法と用量を守らないといけないの。このティーポットの中に入ってる下剤を飲んだらどうなると思う?」
また黙っちゃった…
「単純にさ、これから開かれる歓迎パーティで、お腹下して恥ずかしい思いするだけだと思ってたんかな?」
「そ、そんな事、考えておりませんわ」
「そうなんだ、これが帝国でのおもてなしだって言うなら、ちゃ~んと受けてあげるよ。そして、お礼もしっかりさせて貰うからね。私達、受けたおもてなしは、倍返しにする主義だからさ」
そんな青褪める位なら、悪戯なんてしなきゃいいのに。
私達は、気にせずお茶を飲み干したよ。
この程度の薬剤を飲んだって問題無いけど、普通の人間なら脱水症状起こすだろね。
さて、目玉達の様子が気になったから、お部屋に行ってみるかな。
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