超人だと思われているけれど、実は凡人以下の私は、異世界で無双する。

プロローグ

 漆黒の闇に閉ざされた空間に、気付けばポツンと佇んでいた。

 自分は何者なのか?

 何処から来たのか?

 先程迄は、覚えていた様な気もするが…

 今は何も思い出せない。

 目の前にはユラユラと、白い何かが揺れている。

 付かず離れず後を追うと、突如明るい空間が広がっていった。

 元気な産声をあげた赤子の傍には、白く美しい獣が寄り添っている。 

 この時、誰が想像しただろうか?

 この赤子が、後に世界を救う中心人物になると言う事を…


 一羽の白い伝書バトが、薄っすら見えている城壁へと向かって飛んで行く。

 鬱蒼とした森の中を切り開き、比較的広いと言える綺麗に整備された道が、まっすぐ王都へと向かって伸びていた。

 その道を、貴族のお忍びと見られる数名の騎馬に護られた家紋の無い一台の馬車が、物凄い勢いで王都へと向かって駆けていく。

 後ろからは、黒装束で正体を隠した盗賊が、武器を振り翳しながら追いかけて来ている。

 待ち伏せていたのだろう、馬車の前方からも、黒装束の盗賊が姿を現した。

 森の中からは、中距離魔術による攻撃が行く手を阻むが、決して当てては来ない。

 商品が傷物になるのは、不本意なのだろう。

 馬車の中に居る貴婦人と、まだ幼い子供は奴隷商人に高く売れる為、彼らにとっては最高の品物だからだ。

 護衛も決して腑抜けではなかったが、如何せん数が多すぎる。 

 負傷しながらもなんとか主を護っていたが、援軍が来る前に全滅すると判断した指揮官は、馬車の窓を開け貴婦人に声をかけた。

 「ルミア様、馬車は捨ててお逃げください。ここは我々で食い止めます」

 そう言って彼は、息子を大切に抱きかかえているルミアと呼ばれた貴婦人に、一時だけ姿が見えなくなる魔道具を持たせた。

 盗賊に見つからないよう馬車から降ろすと、まだ年若い部下にゆだねる。

 「貴方達も必ず、逃げおおせなさい」

 気高さが隠しきれていない貴婦人は、護衛達の安否を気遣いながらも、素早く逃走した。

 その直後見透かされていたかの様に、盗賊集団との交戦が激しくなり、ルミアと護衛も見つかってしまった。

 このままでは連れ去られてしまう。

 万事休すと思ったその時、まだ日の落ちていない空が暗がりに包まれ、周りの木々がさわさわと揺れ頭上で咆哮が響く。

 見上げると黒光りした鱗に包まれ、鋭い眼光を放つドラゴンと、視線が合った。

 負傷者や、幼子を気遣かっているのか?

 風を巻き上げないよう、高い空で空中停止していた。

 何かが落ちて来る。

 それは瞬きをするのも遅く感じる程に、一瞬の出来事だった。

 稲妻が如く閃光が走り、残像が消えない内に黒装束の盗賊達は、バタバタと倒れて行く。

 森の中からは巨大なゴーレムがゆっくりと上体を起こし、轟音と共に木々を薙ぎ倒し、一歩また一歩と大地を揺らしながら歩いて来る。

 その手には、遠距離魔術を使っていたであろう盗賊が、数人握られていた。

 「相変わらず脆弱だのう、リッデルは何をやっとるんだ?」

 溜息混じりに、壮年の男は呟く。

 たった一人で数十人の武装した盗賊達を殲滅させた後、何事も無かったかのように、ドラゴンへ飛び乗り去って行った。

 ゴーレムは握っていた盗賊を護衛に引き渡すと、大きな地響きと共に大地へ沈み姿を消した。

 「ソードマスター…」誰かが、ぼそりと呟く。

 ドラゴンが見えなくなる頃、王都からの援軍が駆けつける。

 何処かソードマスターに似た近衛騎士の肩で、伝書バトが毛づくろいをしていた。

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