堅物剣鬼が双子姉妹に”捕食”べられるまで

タク

第1話:なんてこった、もう逃げられないぞ♡

 恋愛とは古来より、攻城戦に例えられる。

 女は城、男は兵士だ──と言われることもある。


「あ、城ケ崎姉妹だ!」

「並ぶと、本当にそっくり……どっちがどっちか分からないな……」


 そういった意味では、ある意味この城ケ崎姉妹は難攻不落の城塞、皆の高嶺の花であった。


 彼女達は双子。そして、クラスでも人気の美少女姉妹で知られていた。

 並べば顔は同じ。サイドポニーを結っている場所が右と左で違うだけだ。

 

「ねーねーっ、アニメの話ー? ボクも混ぜてよーっ」

「は、はひゅっ、城ケ崎さん!?」

「もーう苗字じゃなくて、”雷花”って呼んで!」

「ら、らいかさん……」

「うんっ、それでよし! ところで、今話してたのって今期のアニメだよね! ボクも1話見たよーっ」


 姉の雷花は、天真爛漫ポジティブガール。


 男子の集まりにも、女子の集まりにも積極的に入っていくため、友達がとても多い。


 スポーツも得意で運動神経も抜群だが、何か1つの部活に所属しているというよりは助っ人として駆り出される事が多い。


 故に──余計に学校の中でも顔が広いのだ。故に、学校の男子たちから注目を浴びる事も多い。


(もしかして、雷花ちゃん、俺の事が好きなのかもしれない……)


(いーや、俺なんてこの間手を握られちゃったね!!)


(笑顔が、眩しい……)


 そして、誰にでも分け隔てなく接する社交性の高さから、彼女に惚れてしまう人は数知れず。男女問わず雷花に脳を焼かれてしまう者は後を絶たない。


「……姉さんは朝から喧しいですね」


 一方──妹の凍花は口数の少ないクールビューティー。


 姉とは違って友達は少なく、交友関係も然程広くはない。

 凍花は休み時間も殆ど1人で本を読んでいる程の「おひとりさま」好きだ。


 今も、やかましく雷花がクラスメイトと話す中、鬱陶しそうに髪を弄りながら小説を読みふけっている。

 しかし、姉とは対照的な物憂げな表情と我が道を行く孤高っぷりは一定の人気を得ており。


(きっと、凍花ちゃんが好きで、魅力を分かってるのは俺だけなんだよな……)


(きっと、凍花ちゃんが好きで、魅力を分かってるのは俺だけなんだよな……)


(きっと、凍花ちゃんが好きで、魅力を分かってるのは俺だけなんだよな……)


 ──こんな考えの男子を量産してしまっているのであった。

 

「俺今度、雷花ちゃんデートに誘ってみようかな──」

「じゃあ俺は凍花ちゃんにしよっかなあ──」



 

 ガララララ……。




「ヒュッ……」




 デートに誘う、と言った男子生徒は魂が抜けるかのような思いをした。


 教室に堂々と入ってきたのは見上げる程の巨漢。身長凡そ190センチメートル。外国人と見紛うほどの屈強な体躯に加え、こんがりに焼けた肌。丸太のような腕の持ち主だ。


 教室は一瞬、静かになった。背には、細長いバッグに入れた竹刀が入っている。


「……あ、荒神」


 ──荒神、と呼ばれた少年は何も言わず、どかり、と席に座る。


 そして──腕を組んだかと思えば、顎を引き、ぐぅぐぅと眠ってしまうのだった。


 その威容、冬眠中の熊の如し。双子姉妹をデートに誘う、と言っていた男子生徒は額を拭う。

 再び教室に元の喧騒が戻るのだった。


「こ、こえーよ……ほんと何なんだコイツ、ヒグマみてーなヤツだな」

「荒神の奴……ね、寝たか……朝練帰りで眠かったのか……? お前、命拾いしたな……」

「……流石、”剣鬼の頂点”──とんでもねえ威圧感だよ。同じ高1とは思えねえ」

「ああ、折角の癒しの空間が……」


 剣鬼の頂点──その異名は、荒神つるぎが剣道の鬼才である事に由来する。


 中学の大会では全国大会に進出、団体戦で優勝できなかったのは「荒神つるぎではなく他の部員が弱かったから」と言われる程である。


 おまけにつるぎは、その生傷だらけの風貌から”隣のヤンキー校の不良をまとめて叩きのめした””ヒグマを突き殺した”だなどと噂されている。


 可愛い双子の城ケ崎姉妹という癒しとは対極に位置する恐怖の象徴として、つるぎはクラスに君臨していた。

 



 ※※※




「礼ッ!! ありがとうございましたッ!!」




 ──日もとっぷり暮れ、放課後の剣道部の練習場所である道場。

 仲の良い部員達は固まりになって帰っていくが、つるぎと一緒に帰る者は誰も居ない。


「……」


 誰もが、彼の事を近寄りがたい──と思っているのである。


 練習中も必要以上、本当に必要以上には喋らない。無言なのだ。


 そんな中でもフレンドリーな者は、近付いて彼を誘おうとする。するのだが──


「な、なあ、荒神君……だっけ? い、一緒に帰らねえ?」

「……ッ」

「ヒュッ!! ごめんなさいでした──ッ!! また明日──ッ!!」


 ギロリ、と睨んできたつるぎの視線に怯えて走って逃げてしまう。


 走り去ってしまった男子生徒を視線で追いながらつるぎは小さく嘆息する。




(不味い──また逃げられた……ッ!! 入学して早1ヵ月……未だに友達が出来ん……ッ!!)




 荒神つるぎの実態は──超が付くほどのコミュ障で人見知りの少年であった。


(理由は分かっている。分かっているが、いざ話しかけようとしても何を話しかけてもいいのかさっぱり分からん、頭が真っ白になってしまう──話しかけられたら話しかけられたで、どう返せばいいのか分からん!!)


 今だって話しかけられたのはすっごく嬉しかったのだ。睨みたくて睨んだわけではなかったのだ。


 しかし、コミュ障と人見知りを併発したつるぎは、嬉しさのあまり頭が真っ白になり──何か言う前に相手が怖がって逃げてしまったのである。


(問題は俺にあるのだ……分かっているのだが……ああ、クソッ、早く”普通の友達”が欲しい……)


 しゅん、とつるぎは肩を落とす。こんな調子なので友達らしい友達が出来た事は無い。おまけに、表情筋がとにかく硬い彼は傍から見れば常に怒っているようにしか見えない。生きた金剛力士像と呼ばれる始末である。


(クッ──やはり、笑顔か──笑顔の鍛錬をしなければ──ッ!!)

 

 ぐにゃぐにゃと頬を両手でこね回し、無理矢理笑った顔を作ろうとするつるぎ。

 しかし──




「ヒッ──ぎゃあああッ!!」

「……」




 ──偶然、それを目にした部活帰りの女子生徒が怯えて逃げ出してしまうのであった。


 無理矢理作ろうとした「笑顔」がどれほど恐ろしいものだったかは想像にお任せしたい。


(勝手に目撃されて、勝手に怖がられて逃げられた……こうして噂は広がっていく……)

 

 しゅん、と再びつるぎは肩を落とす。親しまれやすい人物への道はあまりにも遠い。


(……やはり俺の友は剣だけと言う事か……致し方ない、それがサダメか)


 帰り道。道を歩けば、通りかかった小学生に泣かれる。


 犬が現れれば尻尾を巻いて逃げられる。ヤンキーに出くわせば、ちびられて土下座される。


 つるぎは何もしていない。相手を怖がらせてやろうとか微塵も思っていないのだ。


 高校デビューを機に友達ゼロを卒業しようと思い、今までスキンヘッドだったのを髪を伸ばしてみたのだが、効果はナシなのだった。


 だが──荒神つるぎの憂鬱はこれで終わらない。

 

(そうだ、あいつら……今日は、……!?)


 つるぎの住むマンションの部屋には、どのような強豪校の剣客よりも余程恐ろしい難敵が住んでいる。


 彼が恐る恐るマンションの部屋の鍵を開けると──待っていたかのように何かが飛び込んで来る。

 



「おっかえりーっ、つるぎーっ!!」

「ごっふッ!?」


(正面──出待ちだとッ!? 逆に不意を突かれたッ!?)



 まるで電光の如く腹に突っ込んできた何かを、疲れていたつるぎは避ける事が出来なかった。


 思わず視線を下に向ける。にしし、と天真爛漫な笑顔で出迎えてきた少女の名を荒神は呼んだ。

 

「……ら、雷花……お前……ちょっとは手加減を……」

「ごはんできてるよー、それとも、ボクにする? にししっ」

「いや、それより今ので胃が……破壊され……」


 玄関で待ち伏せしていたのは──クラスのアイドル・城ケ崎雷花であった。

 

「ちょっと姉さん、いつの間に!?」


 後に続くようにして、全く顔も声も同じ少女が玄関にどたどたと走ってくる。


 双子の妹、城ケ崎凍花である。


 決して部屋を間違えたのではない。この一つ屋根の下、荒神つるぎの部屋に城ケ崎姉妹は転がり込んでいるのだ。それも──高校入学してから1ヵ月の間、ずっとである。


「全く姉さんは……破廉恥な格好で抜け駆けして……」

「抜け駆けじゃないよ、ボクがやろうって言ったのにトーカが恥ずかしがっただけじゃんかあ」

「……?」


 恰好、という言葉につるぎは雷花の姿をよく見た。


 ……そして卒倒しそうになった。雷花の何も纏っていない背中が露わになっていたからである。


 いや、強いて言えばエプロンらしきものの紐だけが結ばれているのだが、それ以外何も纏っていないのだ。


 つるぎには──いや、そうでなくても年頃の高校生にはあまりにも刺激が強すぎた。所謂──裸エプロンというものであった。


 むにゅむにゅ、と柔らかい感触がエプロンの薄い布越しに伝わってくる。つるぎの鼻から、どろりと赤い雫が垂れた。


(は、破廉恥が過ぎる……ッ!!)


 つるぎは気絶する寸前だった。鼻からは血が倒れていた。そんな彼の事などお構いなしに雷花は猛追するように顔を彼の胸板に擦りつけるのだった。


「聞いてよ、つるぎーっ。トーカったらね、一緒に裸エプロンで出迎えようって言って、着替える所まではやったんだよ」

「ね、姉さんっ!! 何で言うんですか!?」

「でもいざって時に日和ってさぁ……やっぱりやめるーって。じゃあ、ボクが抜け駆けしても良いよね?」


 凍花の顔が真っ赤になっていく。それはそれはもう、耳まで全部真っ赤になっていく。そして、その姿を想像してしまったつるぎも顔を真っ赤にしていくのだった。


「だから姉としてトーカに教えてあげようって思ったわけなのですよ! ぼーっとしてると、全部かっさらっちゃうってね!」


(あ、不味い……この流れは……)


 だが──それでは終わらない。


 凍花が涙を滲ませていくと共に、玄関がいきなり冷え込んでいく。


 怒っている。凍花が怒っているのだ。


 気の所為ではない。その証拠に天井には氷柱が急速に出来ていき、扉は凍り付いていく。


 今は5月。此処は東京。当然だが此処まで冷え込むような季節ではない。にも関わらず、急速に辺りが冷え込んでいく。冷気の中心には──凍花が立っている。


 彼女の頬にはまるで爬虫類のような鱗が現れており、更に首元にはもふもふとした白い毛が急速に生え出していた。


「どうやら、その五月蠅い口から凍らせてやらないといけないみたいですね──ッ!!」

「ふぅん、ボクとやるの──いいよ。じゃれ合いなら受けて立つッ!!」

「息の根を止めますッ!!」


 同時に対抗するようにして雷花の頬にも人間には本来無い鱗が浮かび上がり、目が爬虫類のそれへと変貌していく。まるで恐竜だ。


 更にバチバチと音が鳴り、雷花の指が大きくなっていき弾ける稲光を纏った。


 美少女二人が変貌していくあまりにも超自然的な光景。しかし──最早、荒神にとっては見慣れた光景だった。

 

 こぉ、と冷気を口から漏らす凍花。稲妻を両の手に纏わせる雷花。


 いずれにせよぶつかれば──アパートの部屋は無事では済まない。

 



「お前達──こんな所で”力”を使うなッ!!」




 故に一喝。このまま暴れられては堪ったものではない。


 その声でびくり、と肩を震わせた二人の身体は急速に元に戻っていく。


 天井の氷柱はぼたぼた、と雫に代わり、稲光の音は消え失せた。


 しゅん、とする双子たち。


「……姉さんの所為で、つるぎさんに怒られました」

「うう……ごめんー……やりすぎた」

「全く……後先というものを考えろ──大体お前達はいつも──」



 

 ぐるるるるるるるる~




 唸るような腹の音がつるぎから聞こえてくる。説教の一つでもしてやろうと思ったのに、これでは格好がつかない。


 それに対し、双子はくすくすと微笑むと──つるぎの手を引っ張るのだった。


「お疲れ様でしたね、つるぎさん」

「一緒にゴハン食べよーよっ」

「……はぁ、頂くとしよう」

「それはそれとして姉さんは服を着て下さい」

「はーいっ」


 荒神はカレーの匂いには抗えなかった。


 学校では人気者の双子姉妹。


 しかしその実は、超自然的な力を操るじゃじゃ馬──いや、じゃじゃ竜娘共。


 そんな彼女たちがつるぎの部屋に住みこんでいるのは、深い理由があるのである。




(……こうなったのは、俺の所為なんだ……元をただせば……)




 ※※※




「お前……あの祠壊したんか!?」




 荒神つるぎと、城ケ崎姉妹は幼馴染である。


 故に、小さい頃は一緒に遊ぶことも多かった。


 故郷が山深かった事もあり、野山を走り回って遊んでいたのだ。そんな中、悲劇は起こったのである。

 

 苦しそうに呻く双子姉妹を一人で背負って連れて帰った当時8歳のつるぎに、祖父は慌てて何があったのか問うた。そしてつるぎは正直に答えたのである。

 

「”助けて”って……声がしたんだ……人の声が……それで、3人で声のした方に行ったら、祠があって……”閉じ込められて苦しい、壊してくれ”って言われて……」

「それで壊したんか!? 祠を!?」


 つるぎとしては、人助けのつもりだったのである。悪意があったわけではない。


 祠は古ぼけており、しめ縄のようなものが巻かれていた。それを解き──後は、力任せに祠を崩したのだ。


「……そしたら、変な靄が出てきて、二人が苦しみ始めて……じいちゃん、二人はどうしたの……!?」

「二人は──動物霊に憑かれておる!!」

「ど、動物霊……ッ!?」

「滅んだ動物の恨みや無念が集まった存在じゃ。今を生きる生き物を憎悪し、祟る悪霊じゃ。そして……20年前、西を引き連れて戦争を起こした悪霊が居たんじゃ」


 故に──その戦いが終わった後も、日本各地に動物霊を封じ込めた祠が散在しているのだ、と祖父は語る。


 一度その戦いで日本に世界中の動物霊が集まったので、恐竜だろうが古代鮫だろうが翼竜だろうが何が眠っていてもおかしくないらしい。


 問題はあまりにも数が多すぎて、誰も祠を始めとした封印場所の把握が出来ていないのだ。


「じゃあ、何で俺は憑かれてないの!?」

「荒神家は代々、霊に憑かれない体質を持つ。お前も例外ではない」

「……お、おれの所為だ……動物霊を祓う事は出来ないの!?」

「一度憑りついた動物霊を除霊することは不可能だ。その種族全ての無念の塊じゃからな。数ある霊の中でも一際厄介なんじゃ」

「そんな……」

「方法は唯一つ──上手く霊を封じ込めて、その力に慣れるしかない……ッ!!」


 そう言って、祖父が蔵から取り出したのは──錆びた打刀であった。物が斬れるようには到底見えなかった。


「じいちゃん、それは──」

「よう聞け、つるぎ。荒神家は代々、刀に霊気を纏わせる術を受け継ぐ。これを”霊刀”と呼ぶ!!」

「霊気って──」

……とでも言っておこうか。霊気を吸った刀は、霊を斬れるようになる。刀身は蝕まれてこの通りだがな」


 二人を寝かせた祖父は──虚空に向かって打刀を振り払った。


 双子の身体から靄が噴き出す。間もなく彼女達の頬には爬虫類のような鱗が浮かび出した。


「そして、その術を応用すれば──二人に憑りついた動物霊を、二人の奥深くに閉じ込める事が出来る──破ッ!!」


 先ずは雷花の胸に祖父は刀を突き立てた。

 最初こそ抵抗するように稲光が迸っていたが──しばらくして、雷花は落ち着いた呼吸を取り戻し、頬の鱗も羽毛も消えていた。

 

 そして次は凍花にも同様に刀を突き立てる。

 部屋に霜が降りる程の冷気が迸ったが──凍花も徐々に落ち着きを取り戻し、穏やかな寝息を立てるのだった。


「さて……忙しくなるな……祠から漏れた他の動物霊を封じ込めねば」


 結果、祖父の手で双子の動物霊は完全に封じ込められ、逃げた他の動物霊は大事になる前に再び祠にブチ込まれたのだという。


 しかし──同時に、各地で動物霊を封じ込めた祠の封印が解けかけていることが発覚し、現在に至るまで動物霊が現世に解き放たれ続けている。


 遅かれ早かれこの地に住んでいる以上は憑りつかれただろう、と祖父はつるぎを慰めた。しかし、今でもつるぎは祠を壊したことを後悔している。


 雷花と凍花は生きている限り、永遠に動物霊の力と付き合わなければならなくなったのだから。


 


 ※※※




(……俺が責任を持って二人を守らなければいけないのに……)




 ──あれから数年。


 双子は、つるぎの祖父の指導の下、自らの身体に眠る動物霊の力を制御できるようになっていた。


 そしてつるぎもまた──万が一の時に二人を守れるように、ありとあらゆる努力を積んできた。

 

「──お前は東京に行けい、つるぎ。東京にも動物霊の祠が大量に眠っているが……最近、それが次々に開けられているという」

「つまり、動物霊を相手にした武者修行……ということか」

「然り!」


 つるぎは何も、剣道で日本一になるために練習をしていたのではない。霊刀を扱うのに日本一クラスの実力が必要だっただけなのだ。


 剣道だけでなく居合や薙刀も練習をしてきた。そして此度、スポーツ推薦を利用して東京の高校に転入し、動物霊の討伐をすることになったのである。


 しかし──それはそれとして、何故かこの場に城ケ崎姉妹の母親が正座して座っていた。

 困惑しながらつるぎは問うた。

 

「……それで、何故双子のお母さんまで此処に……?」

「え? あの子達も東京に行かせるからだけど?」

「……は?」

「あの子達も受かったのよ、あんたと同じ高校に」

「……は?」

「……でも防犯上、女の子二人暮らしって危ないわよね。……分かるわよね?」


 何も理解出来ないつるぎは首を横に振る。


「いや、年頃の男と住む方が危な──」

「祠を壊したの誰だったかしら~~~?」

「う」

「誰だったかのォ~~~?」

「うう……」


 そういうわけだから、二人をお願いねェー……と、双子の姉妹まで預かる事になってしまったのだった。


 祠の話を出されると弱いのがつるぎだ。責任を取れ、と言われてしまっている。


(そうだ──元はと言えば、俺が祠を壊した所為だ、俺が──二人を守らねば。故にッ!! 絶対に間違いなどあってはならないッ!!)


 そして荒神つるぎはクソ真面目であった。超が付くほどのクソ堅物であった。


 それが建前だったとしても「守れ」と言われた姉妹に手を出すなど言語道断。そもそも相手が幼馴染だったとしても、つるぎは超が付くほどの奥手であった。


 さっきのあられもない姿の雷花を、そして照れて恥ずかしがる凍花の姿を思い出し──つるぎは風呂のタイルに己の頭を打ち付けた。すっごく痛そう。



 

(心頭滅却すれば火もまた涼し──これもまた、修行也ッ!! 二人は、卒業まで俺が守り通すッ!!)




 ※※※




「──って、考えてんだろうなぁー、つるぎ」

「つるぎさんの堅物っぷりは、家族含めて皆が知るところです」


 つるぎが入浴しながら心頭滅却している間、双子はテレビを見ながら顔を見合わせた。ガンガン、とタイルに頭を打ち付ける音がこっちまで響いてくる。


「……覚えてますよね? 姉さん」

「うんっ。あたしはトーカが大好き」

「私も姉さんが大好きです」

「そして──二人共、つるぎが大好き」


 故に双子は協定を結んだ。禍根を残さないために。それを思い出すかのように二人は指を絡め合う。




「この高校生活の間に……絶対に、あのクソ真面目つるぎをオトす!!」

「そして3人で仲良く恋人に……ですよね」




 恋愛とは古来より、攻城戦に例えられる。


 女は城、男は兵士だ──と言われることもある。


 だが、荒神つるぎは剣の形をした城塞。そして、城ケ崎姉妹は──城とは名ばかりの肉食竜であった。




「……覚悟してなよ、つるぎ」

「私達は……狙った獲物は決して逃がしませんよ」




 ──これは、堅物の剣鬼が、双子の恐竜姉妹に捕食べられるまでの物語であるッ!!

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