第22話 妹の策略◆妹リリアン視点

「出しなさい。私は、今すぐ外へ行かないといけない用事があるのよ」

「申し訳ありません、リリアン様。ルーカス様から、お嬢様をこの部屋から出さないようにと厳命されています」

「なんなのよ、もう!」


 私が外に出ようとすると、メイドたちが冷ややかな表情で立ちはだかる。まるで私を見下すような視線を向けてくる。


 なんて失礼なメイドたち。ルーカス様に言って、こいつら全員クビにしてもらうのよ。あのパーティーの失敗の責任を取らせた時と同じように、後悔させてやる。


「いい加減に出しなさい。言うことが聞けないなら、ルーカス様に言いつけるわよ」

「ルーカス様の指示が絶対なのです。申し訳ございません」


 何度言っても、メイドたちは面倒くさそうに同じ返事を繰り返すばかり。まるで、私の言葉が耳に入っていないかのよう。


 私を絶対に部屋から出さないと、そう決めているらしい。ふざけた奴ら。


 そんな膠着状態に苛立ちを隠せずにいたその時、ルーカス様が部屋に入ってきた。部屋から出さないようにというのは彼の命令らしいけれど、直接お願いすれば出してもらえるでしょう。


「ルーカス様! こんな酷い仕打ち、許せません! 私を部屋に閉じ込めるなんて……。お願いしても、このメイドたちが出してくれないのよ! 私、これから外へ行かないといけない用事があるのに」


 私は涙目になって訴える。けれど、ルーカス様の反応は思っていたものとは違った。


「それは、すまない。だが、リリアン、君はしばらくこの部屋で大人しくしていてくれ」

「はぁ? どういうこと? 私を閉じ込めておく理由なんて、ないでしょう!」


 ルーカス様の言葉に、私は絶句する。なんで、私が部屋から出ちゃいけないのよ。


「君はここから出て、どこへ行くつもりだ?」

「レイクウッド家の屋敷よ。お姉様がいるところ」


 お姉様から色々と譲ってもらう約束をしていたので、今すぐ受け取りに行く必要があるのよ。


 そう答えると、ルーカス様は難しい顔をして告げた。


「連絡があった。ヴィオラは、君と会いたくないと」

「はぁ? 嘘でしょ」

「レイクウッド家の当主から正式に、接触を厳禁するよう通達があったんだ。これを破ったら、両家の関係に影響する」


 あり得ない。お姉様が私を拒否するなんて。私がお願いすれば、なんでも譲ってくれたあの姉が、会いたくないだなんて。きっと、誰かが邪魔しているに違いない。


 おそらく、新しい婚約相手にあったレイクウッド家の当主ね。お姉様の利用価値に気づいたから、自分だけで独占しようとしているとか。


 ムカつくけど、その考えは理解できる。私だって同じことを考えるもの。


 レイクウッド家の当主は、簡単にお姉様を手放してしまったルーカス様よりも頭が回る人かもしれない。侯爵らしいけれど、ちょっと興味が出てきた


 ふと、あることを思いついた私は、ニヤリと口角を上げる。


「……わかったわ。ルーカス様の言う通り、大人しくしておくわ。ごめんなさい」

「そうか、よかった。理解してくれて嬉しいよ、リリアン」


 私の言葉を素直に受け止め、ルーカス様は安堵の表情を浮かべる。


 でも、私の中では別の計画が練られ始めていた。


 状況が落ち着いたら、お姉様とレイクウッド家の当主に会いに行こう。それから、お姉様から再び婚約相手を奪い取る。


 前回のルーカス様の時の婚約破棄は、ちょっと物足りなかった。だけど、二度目となったら、お姉様だってあの笑顔が歪むかも。そんな表情を、次こそ見られるかも。


 ルーカス様から乗り換える、というのもアリかもね。


 正直、公爵家のメリットってそれほどなかったし、ルーカス様への期待も肩透かしだった。期待外れ。それなら、侯爵家で妥協するのもいいかもしれない。


 上手く近づいて、信頼を得る。そのために、どうするべきか考える。考える時間はたっぷりあるみたいだから。

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