第20話 決意の時

 妹リリアンと偶然会って、話した後。ジェイミー様の屋敷に帰ってきて彼の書斎を訪れた私は、重い口を開いた。


「ジェイミー様、私の妹であるリリアンとの話について、お伝えしておかなければならないことがあるの」

「ヴィオラ、どうかしたのかい? 表情が暗いよ」


 ジェイミー様は優しく微笑みながら、私を書斎の奥へと案内してくれる。深く腰掛けた革張りの椅子に座ると、私はゆっくりと息を吐いた。


 リリアンとの会話について、ジェイミー様に伝える。話を聞いた彼は、しかめ面をしていた。


「君にそんなことを? 酷い話だね。君はどうしたいんだい、ヴィオラ。妹を助けるのか、それとも助けないのか」


 そう問われて、私は一瞬言葉に詰まった。少し考えて、答える。


「正直、どうすればいいのかわからない。あんな言動をされても、リリアンは私の妹だから。幼い頃は、本当に可愛い妹だった。プレゼントをあげると、喜んでくれた。あの時の素直な気持ちを忘れられない。それを思うと、見捨てることが出来ないの。今でもあの子を助けたいという気持ちが、どこかにあるのかもしれない」


 私の言葉に、ジェイミー様は納得したように頷く。そして、思慮深げな表情で口を開いた。


「ヴィオラ、俺も君に助けられた一人だ。君は今までそうやって、困っている人々を助けてきた。自分の大事なものを譲り、人々を助けてきた。その結果、君の周りには君を慕う人が大勢いる。感謝している人がいる。あの保管室に山のように集められた贈り物が、その証拠だ」


 確かに、ジェイミー様の言う通り。私は自分なりのやり方で、人々が求めるものをなんでも譲ってきた。人々の役に立とうとしてきた。


「君のやり方は正してくて、結果も出ている。それは俺もわかっている。でも、だからこそ、俺は妹との付き合いを断つべきだと思うんだ」

「えっ……」


 ジェイミー様の言葉に、私は思わず息を呑む。


「リリアン嬢は、君を利用することしか考えていないよ。妹だからといって、それは酷すぎる。自分の立場を利用して、君を困らせているだけ。前の婚約相手も、君から無理やり奪い取った。リリアン嬢の身勝手な行動の一つだ」


 ジェイミー様の指摘に、私の頭に鮮明にあの時の記憶がよみがえる。ちょうだいと言われて、婚約相手だった彼を簡単に譲った。その結果、今でも見下されて、馬鹿にされているの感じていた。今まで、見ないようにしてきた醜い部分がリリアンにあるのを知っていた。だけど。


「君の妹も婚約して、もう大人になった。いつまでも姉である君にだけ頼ってばかりいるんじゃダメだ。そして君も、妹だからといって無条件に手を差し伸べるべきじゃない。いつか彼女が変わると信じていても、無駄だ。君は、リリアン嬢と関わらないようにするのが一番だと、俺は思う」


 そう言って、ジェイミー様は真剣な眼差しで私を見つめる。


「だけど、最終的に判断するのは君自身だ。どうするべきか、どうしたいのか。君の素直な気持ちを教えてほしい。俺は、君の判断を全力で応援する」


 ジェイミー様の問いかけに、私は一度だけ深く目を閉じた。自分の感情と向き合うように、静かに自問自答を繰り返す。そして、結論を出した。


「私は、もう妹に利用されたくない。見下されて、馬鹿にされているのもわかっているの。いつかリリアンも大人になって、考えを改めると思っていた。でも、もうダメなのかもしれない。だから……、妹のことは、諦めようと思う」


 そう告げると、ジェイミー様は力強く頷いた。


「君の判断は正しい。俺は全力で、君のことを守ると誓うよ。もう二度と、君の妹に利用されることのないよう手を尽くす」

「ジェイミー様……、ありがとうございます」


 私は精一杯の笑顔を浮かべ、ジェイミー様に感謝の言葉を伝える。


 こうして私は、リリアンとの関係を諦めることを決意した。今まで築いてきた家族との絆を断ち切ることに、寂しさはつきまとう。妹と仲良く出来ないことを、両親に申し訳ない気持ちもあった。


 それでも、自分を犠牲にして妹に尽くす必要はないのだと、ようやく気づくことができた。

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