ダブルサイココライド 【改稿版】
KJ KEELEY
異界衝突
第1話
--プロローグ--
重苦しい会議の雰囲気の中
とある宇宙が終わりを迎えようとしていた。
宇宙同士の衝突。
手は尽くされた。
この宇宙で最も発達した種が総力を結集してもこの終焉は避けられなかった。
種の代表たるものが呟いた。
種は蒔いた。
我々の宇宙が崩壊し、もう一つの宇宙が残る。
新しき混沌の世界となって。
体も意識も、我々の叡智も何も持って行けず、残せずとも
種は蒔いたのだ。我々は種となり生き残る。
種は可能性となり
いつの日か新しき混沌の世界にて
芽吹くだろう。
願わくば我々の歴史の続きを歩んでくれることを。
-----------------------
X国
州都 郊外 北東部
夕方。
出先からの帰り道
車で通りがかった公園の近くに停車。
こんな場所に公園があったのか…
自宅からそう遠くない場所なのにも関わらず
全く存在に気付かなかった公園を見つけて
ふと入って散歩したくなった。
何年も見過ごしていた割に大きな公園だった。
運動公園とでもいうのだろうか。
遊具や散歩道もあるがフットボールやラグビーが出来る
運動場があってベンチや休憩施設もある。
誰もいない公園を歩いていると突然妙なイメージが脳裏に浮かんだ。
===
新世界 UPDATE 異界衝突 新しい混沌 宇宙反応 種
===
世界? 異界 衝突? 種?
……なんだそれ。
言葉
が脳裏に浮かんだのか、音だったのか
よくわからないけど。
UPDATEね…
もし世界がUPDATEされたらどうなるのだろうか。
ふと疑問が湧いたが、何の答えも湧いてこない。
何気なく辺りを見回す。
なにも変わったようには見えない。
当たり前だ。
さっき見たイメージ。
もし本当にUPDATEされたなら良いことが起こるといいな、などと。
その時何故かそんなことを思った。
それにしても最近は世界が鮮明に見えている気がする。
視界に映る景色がいちいち綺麗なことに違和感を感じることが多くなっていた。
勿論嫌がっているわけではない。ただ違和感を感じる程なのだ。
大人になると世界の解像度が上がるとか、そんなシステムがあったりして…
そんなわけないか。
夕暮れのオレンジ色の陽の光が公園を包んでいる。
単なる公園を非日常的なものに感じさせた。
何気なく夕方に知り合いとしゃべりながら歩いていた記憶が蘇る。
もう季節も秋に入る。
少し肌寒くなってきた。
遠くのほうに見えた老人の格好を見て
自分も少し厚着のほうがよかったんじゃないかと言う気がしてくる。
衣替えも始めないと。
そうだった忘れていた。
衣替え、少し面倒臭いが。
記憶ね。
そう思った時、この公園に来る前に
街頭テレビで流れてたニュースを思い出した。
たしか…
===
たった今XX公園で人間の死体が発見されました。
死体の惨状からは通り魔などではなく大型の肉食獣。クマなどが街に出現した可能性があると警察が注意をよびかけています。以上ニュースでした。
===
…
……
ゼェ、ゼェ、ハッ、ハァ、
全力で駆けている。
息は切らしながらも音はあまり立てないように。
逆光の中
公園のベンチ近くにいた老人を何かが襲った…
老人の影がもう一つの影に攻撃されたところまで見て
反射的に逃げ出す。
逆光でほとんど何も見えなかった…
動物、熊とかか? あのニュース…
いきなりだった。老人の、人間の頭部が破壊された。
引き裂いたのか撲殺したのかも見えなかった。
しかし一撃で人間が絶命したのは理解できた。
自分が隠れるものが何もない場所にいることに恐怖した。
直ぐに左手にあった休憩施設の方へ駆け出す。
ソレはこちらを一瞬見てベンチ付近の藪へ移動したように見えた。
何故か真っすぐにじゃなく、姿を隠しながらこちらへ近づこうとしている
ように。
休憩施設に逃げ込む。
ドアを閉めてすぐさま鍵をかけた。
震える身体には意識を向けないようにして
聞き耳を立てる。ドアの外のほんの僅かな物音でも察知出来るように。
何も音はしない…
追いかけてこなかった?
藪の中に入って直ぐに何処へ行ったのか?
気のせいだったか?
いや、俺に気づいていなかった? そんなことない気がする。
足が震える、焦っているのだ。
とにかくドアにカギはかけた。しかし
熊なんてカギなんぞかけても簡単にドアごとぶち破って来るんじゃないか。
室内を見回す。何か使えそうな物や、隠れる所…
いや何か動かしてドアのところにバリケードとか作ったほうがいいのか?
それとも、音を出すほうがまずいか?
鼓動が耳のすぐそばにあるように感じる。
ドアに立てかけるものなんて部屋の中にはほとんどない。
仮に追いかけてきてたなら。
俺がここに入ったのもバレているよな?
再度耳を澄ます。静かだ…
もう熊は居ないのかもしれないけれど…
そう簡単にここを出るはない。
視線を上げるとこの部屋の窓が少々気になった。
あそこを破ってこられたら、と想像してしまう。
どこかに登ったほうがいいか?
いや、熊は木登りも達者なはずだ。
人間などよりもずっと。
周りを確認する。
一応武器になるものとか探したほうがいいか…
給湯室があった。
ポットがあるからお湯を沸かしておこう。音は多分大丈夫だと思いたい。
お茶を飲んで落ち着こうか、それとも熊にぶっかけるか。
いや落ち着いてる場合か?
酷く頭が混乱していた。
近くの棚の中を探すものの清掃用具があるくらい。
出来れば当たり前のものじゃないものが欲しい。
銃とか… 熊撃退スプレーとか…
武器になりそうなものはモップとポットのお湯とイス。
熊相手には、もう相当に頼りないメンツだった。
とりあえず
窓から外の様子を窺がう。
ジャージ姿の青年。
まだ顔に幼さが残る、男子学生が走っていた。
ジョギングしているようだが…
まだ熊がいるかもしれない。
どうしよう、注意を呼び掛けたほうがいいかもしれない。
学生が逆光でよく見えなくなった。
光が目にちらつく。
何か伝えられないだろうか。
思案した…
一瞬。
少年が吹っ飛んで土に倒れ込んだ、そのまま起き上がってこない。
ピクリともせずにもう動かない。
かろうじて何かが襲い掛かったのだけはわかったが。
熊の姿が見えない、また姿を見逃した!
あの老人を襲った何か…
違和感を覚える。
よく見えなかったが…
一瞬で人を襲って殺した直後には何処かに姿を隠してしまう。
偶然なのか?
食べる気がない?
何の為に人間を襲っているんだ……
できるだけ気づかれないように注意しながら外を見る。
!!!!
部屋の窓が割られた。
熊、ではなかった。
窓の向こうには灰色の毛のない猿のような人間のような化け物。
栄養失調のような体つきだが、筋肉もある。
腹は突き出ていて悍ましい顔についている目は真っ赤だった。
地獄の餓鬼。
何となく頭に浮かんできたこの化け物を形容する言葉だった。
腹のつき出た毛のない猿人間? 亡者?
真っ赤な目の化け物…
それが部屋の窓を割ってこちらを凝視しながら部屋に入ろうとしていた。
化け物は恐ろしくゆっくりと動く。
警戒しているようにも見えるが。一瞬で動き出すかもしれない怖さがある。
此方もゆっくりとドアに近づき後ろ手でカギを開ける。
何なんだ、この化け物。こんな生き物は知らない。
この世のものでは無いことだけは確かだった。
窓のほうへポットを投げつける。化け物に当たったかどうかも確認せずに
即施設から飛び出す。
飛び出した休憩施設裏手のほうのフェンスに人がギリギリ通れそうなに穴があいていた。
そこから公園の外に飛び出す。
川沿いの道路に躍り出る。左手にずっと行けば車があるが
遠すぎる。
! フェンスの向こうからガサガサと音が聞こえた。
目の前のガードレールを飛び越え堤防を転がり降りていく。
まただ、フェンスが強く揺らされた音!
あのフェンスの穴に気づかないとは思えない。
すぐにこちらへやってくるかも。
堤防の草むらの中から川の中へ。
背の高い草が密集している場所へ入り静かに気配を殺す。
ここなら堤防の上からでも見えないはず。
下半身は川につかっている。上半身は背の高い近くの草で隠していた。
どの位そうしていただろうか。時計を見る、18時14分。
何時アレと遭遇したんだろうか。
30分くらい前? 時間間隔がおかしくなっている気がする。
ここに隠れてからは5分くらいか。
寒い。
もう9月だしパンツも思いっきり水を吸ってる。
熱を奪われる感じが不快だった。
そろそろ動き出していいだろうけれど…
幸いアレは追いかけてきていない…
とりあえず車に戻るか?
それとも…
いや、戻ろう。
無事に車までたどり着き鍵を閉めエンジンをかける。
一刻でも早くここを離れたかった。それに
あの化け物がまだどこに潜んでるかもわからない。
車を走らせショッピングモールに向かう。
大分疲れていた、服もびしょびしょだ。
神経を高ぶらせすぎたのか、何も考える気にもならなかった。
茜色の空が頭をぼーっとさせたし、西日が運転だけに集中しろと言っていた。
頭が真っ白なまま目的地に。
地元のショッピングモールには
思ったより早く到着。いや道が空いていた。
立体駐車場の屋上に駐車。
服がずぶ濡れだ…
目がかすむ…
只々疲れた。長く息をふーっと吐く。
誰かに事情を説明して警察に連絡してもらうか、というか
どう説明するんだよ。こんなこと。
熊じゃなくて見たこともないような化け物が公園で人を殺した所を
目撃したんですがっていうのか?
まぁ言わないわけにもいかないけれど……
シートベルトを外す。
少し眠いし、疲れた…
休みもとらないと。
それについた時から思ってたが、人の気配が全然ない。
駐車場の車の数もいつもよりずっと少ないし。そういえば、
ここに来るときの道中も車を見かけなかった。
なにが起きてるんだろうか……
あれ? 急速な眠気。
意識が底なし沼の中に引きずり込まれるように……
ダメだ…あらがえない…
無理だ…
眠い…
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