第21話 左向きのシャチ 中
「ではー♪ お前達にーアパヂャイ革命戦士になるためのー♪ 教えを施すアルよー♪」
鈴木家の庭の外周を、ぐるぐるとシャチが泳いでいる。
「まずはー♪ 兎にも角にもー♪ 挨拶からアルなー♪」
「挨拶?」
シャチの描く円の中で、麻由がシャチに訪ねた。
「そうアルよー♪ シャッチーに挨拶するアル」
「こんにちは!鈴木麻由です!!」
宏明も驚くほど、元気な挨拶を麻由は返した。
シャチは、麻由の側まで地中を泳ぎ、地中に出ると、ヒレで麻由の頭をポンポンと叩いた。
「いい子ー♪」
シャチに撫でられて麻由は大喜びである。
そして隣にいる犬も、
「ワン!」
と吠えた。
シャチは、犬の側まで地中を泳ぎ、ヒレで今度は犬の頭をポンポン叩いた。
「いい子ー♪」
シャチは、何も言い返さない宏明に向かって、ヒレを人間の手のように振って見せた。
「シャッチー♪」
宏明が無反応でいると、シャチが宏明の側までやってきて、ヒレでビンタを食らわせた。
「指導ー♪」
これが相当痛かった。全身の骨に響いたんじゃないかという衝撃だった。
「見たところー♪ 向こうの二人はー♪ すでに立派な革命戦士としての自覚が芽生えているアルなー♪
お前全然ダメアルよー♪原点2」
すると今度は、シャチはヒレで宏明の頭を撫でた。
「だけどー♪革命戦士はー♪ 一人の労働者も最後まで見捨てないアルよー♪
元気出せアル」
シャチは、また庭の外周をグルグルと泳ぎ始めた。
「なかなかー♪ 指導しがいのある三人アルなー♪ でもー♪油断しちゃダメアルよー♪
アパヂャイ共和国にこんなことわざがあるアル。
『御地になりたいなら、まず相手を褒めよ』」
「どういう意味?」
麻由がシャチに尋ねると、
「シャチアルよー♪ 海最強の危険生物アルよー♪ シャチが出てきたらどう思うアルかー♪」
「可愛い!」
麻由がこたえると、シャチは麻友の側まできて、ほっぺにチューをした。
麻由はキャッキャと大はしゃぎ。
宏明は思わず身を乗り出す。
「あ! こら!」
「なかなか優秀な革命戦士アルなー♪でも油断ダメダメアルよー♪
アパヂャイにはこんな思想があるアル。
『可愛いだけが正義じゃない』」
「どういうこと?」
「怖いものをー♪ 見たらー♪ 素直に怖がるアルよー♪」
「怖がればいいの?」
「シャチが地面から出てきて、右ヒレを上げたらこう言うアル。『あ!シャチ怖!』
……やってみるアルよー♪」
するとシャチは、地中に潜水し、庭の端に顔を出して、右ヒレを挙げた」
「あ!シャチ怖!」
「ワン!!」
シャチは麻由と犬の側まで泳いできて、二人の頭をヒレで撫でた。
「よくできましたアル。
これでー♪ 海でシャチに遭遇しても助かるアルなー♪ 二人にはー♪ アパヂャイ十字勲章を授与するアルよー♪」
シャチは、どこから取り出したのか、飴を二人に手渡した。
「麻由!捨てなさい!汚い!」
シャチは今度は宏明の方を見て、
「シャッチー♪」
右のヒレをふった。
「なんですか。」
するとシャチは宏明の側まできて、
「無知の知ー♪」
バシン!と豪快な平手打ちである。
全長4mものシャチの平手打ちである。宏明は軽く吹っ飛んだ。
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