第2話 魔族って思っていたのと違う......
前回までのあらすじぃ!!!
(いや、誰だよ!)
いきなり脳内でアニメの冒頭のようなセリフと共に飛び起きたのは神の手違いで魔族に転生することになった木山大樹である。
何処だかは分からないが仄暗い空間に飛ばされたらしい。
(おいおい兄弟。俺だよ、俺!木山大樹だよ!)
(オレオレ詐欺に引っかかるような歳じゃねーし、本人の名前言う奴がどこにいる......って俺!?)
自称もう一人の僕とやらは明らかに存在している。
決してこれは大樹が壊れているとか、ぼっち過ぎてエア友達を脳内で作ったのではない。
自分の意思であるが自分の意思ではないという意味わからない状態である。
例えるなら考えが手に取るようにわかる程、同じ考えを持った他人が脳内で同居生活を送り始めた感じだ。
(なんで俺が二人??)
(あーそれは簡単な話。スペシャルスキルのうちの一つだな)
転生の際にお詫びの品的なアレかと納得がいったと同時に気になる点がある。
(うちの一つってまだあんの!?椀飯振舞だな、おい)
てっきり一つだけかと思っていたので、嬉しい誤算である。
(スキルを確認する前にお前のことは俺2って呼ぶことにするからな?俺がメインでお前がサブだ)
(ん?俺はなんでもいいよ)
我ながらテキトーだなと思ってしまった。
自分が二人なのだから性格も同じ。それもそうかと納得。
そしてスキルの確認を行う。
(待ってどうやってやるの?俺2!どうやんの!)
(おいおい俺1......俺はお前なんだぜ?わかるわけないだろ)
鼻をほじりながら言っている姿が想像に容易いというのが我ながら悔しい。
やっぱりかとその場で大樹は項垂れる。
とりあえず出口を探すかと歩き始めた。
足の感触からして靴は履いていないどころか上裸だ。
股間のアメリカンクラッカーからしてオスなのはわかる。
それと歩幅からしてさして身長も高くないだろう。
転生というのだから魔族の子供として生まれたのかもしれない。
少し歩くと光が差し込んでいるのが見える。
大樹はその光を頼りに歩を進める。
一体外にはどんな景色が広がっているのか、どんな生物がいて、どんな冒険が始まるのか楽しみで仕方がない。
駆け足気味に光源の方へ向かう。
「待ってろよ、異世界生活!」
異世界に来てから初めての光はやけに眩しく感じた。
視界が白く染まり、徐々に目が明るさに慣れていく。
そこには胸踊るような異世界の景色が待っている
はずだった......
真っ先に視界に映ったのは木。
というか森。
しかも大樹のいた日本にでも普通に存在していた広葉樹に似ている何の変哲もない木。
(俺って転生したんだよな......?)
紅い空も、黒い大地も、飛行するドラゴンも何もない。
ただの森の中にある洞窟から出てきた大樹は思ってたのと違うと子供のような理由で返品したい思いだった。
「まあ、自分の姿も見てないんだし決めつけるには早いか」
どうにか気持ちを立て直そうと思った矢先である。
ふと自分の手が視界に入る。
普通であれば自分の手なのだ気にすることもない。
しかし二度見するレベルの情報が自分の手、正確には皮膚にはあった。
「緑!?」
手も腕も足も全てが緑だった。
(シュ○ック?)
自分でもないなとは思いとは裏腹に可能性を捨てきれない。
喉の乾きもある。
まずは川を探すことにした。
川を見つけるのにそこまで時間も手間もかからなかった。
距離的にも近かったのも理由の一つだが、一番は転生前より聴覚が良い。
川のせせらぎと言えばお洒落だが、聞こえてきた方向に歩いたら川があったのだ。
「っぷはぁー!意外と美味いな!」
川の水を手で掬い、喉を潤す。
水は生命の母とはよく言ったもの。水のことは今度からお母様と呼ぼう。
そんなくだらない思考も束の間、水面に映る自分の姿を目にすることになる。
小顔に耳は尖っており、髪はなく、肌の色は手足と同じ緑色に華奢な体躯。
「ゴブリンかよぉおおお!」
悲痛な叫びが森に響き渡る。
(いや、進化先だけ見てて、ちゃんと全体を見てなかった俺が悪いんだけどさ?もっと何かあったじゃん?スラッとしてて角の生えた鬼人とかさ)
(俺1よ。自分のことながら元の顔がアレなんだから無理では......)
(うるせぇ!!!異世界なんだ。夢見てもいいじゃねーか!)
木山大樹26歳。異世界転生でイケメン、ハーレムを望むも最弱のゴブリンに転生。
この先が不安すぎる。
スキルの確認もできておらず、種族は最弱のゴブリン。
このままでは勇者の経験値にされてしまう。
この世界でのゴブリンがどれ程の知能があるかはわからないが、今の自分よりは下だろうと。
(まずは武器だな)
幸いにもここは森である。
自然の恵みを利用した武器を作るのが手っ取り早いだろう。
都合よく武器になる木は落ちていないかと周囲を見渡す。
(木木木木鎧木木......ん?)
鎧???
大樹は視線を戻す。
やはり鎧、というより人が木にもたれかかっている。しかも西洋の鎧を彷彿とさせる銀のフルプレートアーマーである。
恐る恐る近づき、様子を伺う。
(寝ているのか......?)
首は下に折れ、意識はなさそうである。
人間かどうか確かめようと大樹はアーマーのヘルメットを外す。
「ひっ!!!」
鎧の主は人間.....だったものと言えば良いか、白骨化した死体であった。
初めて見る死体が白骨化というのもレアケースであるが、元の世界や日本が安全過ぎたのだろう。
この世界の過酷さ、残酷さを垣間見たような気がする。
(ちょっと待てよ......?防具や武器はこの人から借りればいいんじゃないか?)
(俺1よ。我ながら借りるは無理があるだろう......)
やめてくれ。この状況で人様から防具や武器を剥ぎ取ったという扱いをされたら、まるで羅生門じゃないか。
これは剥ぎ取るのではない、ただ借りるだけと誰に向けて言ったのかはわからないが、宣言をして大樹は鎧を装備する。
多少大きいものの、鎧自体は悪くない。
重量も思ったより軽く、動きに支障はなさそうだ。
大樹は体が小柄になったからと思っていたが、フルプレートアーマーを装備したことでそれが勘違いだったと気づいた。
(この体、すげー動きやすいな。軽いし、力も湧いてくるっていうか)
会社員になってからというもの、デスクワークに加えて残業でジムは疎か宅トレすらもできていなかった。
ファンタジーゲームでは最弱と言われているゴブリンであるが、現役だった高校生よりも体が軽く感じる。
初期アバターでこれならと進化が待ち遠しく、これから始まる異世界生活に胸が踊る。
それにこのフルプレートアーマーを貸してもらったことになっている持ち主には感謝を。
この見た目では人間とさほど変わらないだろう。
魔族として成り上がるのも良いが、人間とも交流を深めたい。
その大樹の想いをこの鎧は少しだが叶えてくれるだろう。
せめてもの手向けとして大樹は近くに生えていた花を摘み、その屍となった持ち主へ送り、手を合わせた。
この世界で仏教的作法が通ずるのかはわからないが、気持ちだけでも伝わって欲しいと。
そしていつかこの鎧を返しに来ると。
大樹はこの場を後にする。
「ひとまず、街とか村とか集落とか安全で情報を集められるところに行きたいよな......」
考えていても仕方ないと、とりあえず森を抜ける為に大樹は歩を進めた。
(俺達の冒険はこれからだ!)
(俺1よ、それは完結の時に使うのでは......)
こうして大樹の第二の人生ならぬゴブリン生が始まった。
神の手違いで魔族に転生しました。 須野津 莉斗 @Sunotsu_Lito
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