第38話 1年空組
私は受け持つクラス、1年空組の教室へ向かう。
(どんな反応されるんだろう。緊張する……)
安請け合いしたつもりはないが、それでも若干の後悔が押し寄せる。
教室の前まで来て、一つ深呼吸。そして扉を開けた。
目に入るのはこじんまりとした教室。木目の床と壁に木でできた小さい机と椅子が10組。それと自分の方に向けられた20の瞳。先ほどまでは廊下まで漏れ聞こえていた話し声もピタリと止んでいる。
「皆さん、席について」
今日初めて見たであろう人間である私に、子供たちはみんな身構えていて大人しく指示に従ってくれる。
「おはようございます。今日からしばらくの間みなさんの担任をします、ナオです」
自己紹介はちょっと練習してきたので上手く言えたと思う。
「それでは、出席を取ります。スキラさん」
出席番号があるのか資料からは分からなかったが1番上にあった名前から呼んでいく。
1年空組はたった10人。名前くらいは資料を見て既に覚えた。
しかし返事が返ってこない。
「呼ばれたら、返事、ください。スキラさん」
「はい」
今度はちゃんと返事が返ってきて安心する。
もしかして出席確認で名前を呼ばれたら返事をするという習慣がなかったのかもしれない。
(失敗した? ……まぁ大丈夫よね)
日本の教育を受けてきたのだ。日本式でしかできない。
「スナフくん」
「はーい」
この2人は双子だと資料にあった。この2人は獅子族の出身で、頭に動物の耳のある人間に近い姿をしている。
「リーヴくん」
「はい」
この子は狼族で首から上は人間、体は種族の姿に近い。真面目そうな顔をしている。
「カーグさん」
「うぃっすー」
彼女も狼族で種族の姿に近い。イスにダラっと腰掛けている。
「ウェルナさん」
「はい!」
元気がいい。引き継ぎにはクラスのリーダーだと書いてあった。彼女の姿はほとんどチーターそのままに近い。
「ハウさん」
「はい」
この子は手足が種族の姿を強く現している。
「オドくん」
「……はい」
この子は人見知りをするタイプだと資料にあった。彼は虎の耳と脚を持っている。
「イサナさん」
「はーい」
この子は人間の見た目に近く、他の子は民族衣装なのにこの子はジルタニアで着られているようなワンピースで、短く切られた髪を編みこんでいる。髪型や服にこだわりがありそうだ。
「エイドくん」
「はあい」
熊族といえば大柄なのをイメージしていたが、彼はそんなことはなくおっとりした雰囲気を持っている。姿が人間に近いからかもしれない。
「ジェスくん」
「はーい」
彼は熊のイメージどおり大柄で、姿もほぼ種族のものだ。
「みなさん、いい返事でした。では、授業を始めます。国語の教科書、32ページ開いて」
時間割では一の日(月曜)の1時間目は国語になっていたので、とりあえず机にあった教科書を持ってきたのだった。
引き続き資料には国語は54ページまで終わりましたと書いてあったので55ページ目を指定した。実に行き当たりばったりすぎてこれでいいのか不安が募る。
(でもやるしかないわね……)
55ページ目は見開きで詩が掲載されていた。
「じゃあ、スキラさん。最初の一つ、読んでみて」
「読むの? えぇっと____」
戸惑ったのかスキラさんは耳をピクピクさせた。
私は彼女から順番に5つの詩を音読してもらった。
(まだウィルド・ダム語の読みは遅いから読んでもらえると助かるわ)
勉強になるし、私も苦しまずに済む。一石二鳥だ。
一通り読んでもらって、さてこの後の授業の展開はどうしたものか。さっそく行き詰まった。
(なんか解説とかどっかに載ってない!? なんかないかなんかないか!?)
ドラえもんが四次元ポケットの中のひみつ道具を探す時のように自分の教科書を探したり、他にあった教科書らしき本もめくってみるが、ない。
困り果てた私は、
「みんな、この詩を読んで、思ったこと、言ってみよう」
授業の進行を児童に託した。悪くいえばぶん投げた。
すると活発なウェルナさんが口火を切って感想を言ってくれて、それに続くように他の子供たちも自由に思ったことや感じたことを発言してくれた。
私はそれに乗っかりながら時たま自分の解釈を言ってみたり、発言の少ない子に話を振ってみたりして授業を進行した。
そうして発言が途切れたタイミングでチャイムが鳴り1時間目の授業が終わった。
職員室に引き上げて次の教科と進み具合を引き継ぎ資料で確認したらもう10分の小休憩が終わり、また教室へと行く。今度は算数だ。
算数は国語ほど教えるのに悩まずに済んだ。
足し算と引き算はもう教わっているようなので、私は復習問題として単純な計算問題と文章問題を作り黒板に書き、児童らに解かせた。
スルッと解けた子にはもう少し難しい問題を与え、困っている子には教える。
(小1の授業ってこんなんだっけ……? なんか小さい磁石みたいなの使ったような記憶があるけど)
とはいえそんな教材は机になかったし、もう3学期だからその単元は終わっているのかもしれない。まぁどの子も簡単な計算はクリアしているし良しとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます