魔法アプリ【グリモワール】

阿賀野めいり

プロローグ

(また、ここだ……)

 竹野智也は空を見上げた。

 雲一つない青空が広がり、足元には風に揺れる新芽の草葉が見える。

 ここは夢の中――毎度繰り返す、同じ夢。

(もうすぐ、来る)

 ビュンと一瞬、風が吹く。

 北風のように寒くもなければ、真夏の蒸し暑い風でもない。

 心地の良い、爽やかな風だ。

 智也がゆっくりと振り返ると、そこには光り輝く銀色の長い髪をたなびかせる青年が立っていた。

 智也は知っていた。振り返れば、いつもそこに彼が立っていることを。

 整った顔立ちに凛々しくつり上がった目。

 若草色の瞳が印象的で、年齢は十七、八位だろうか。

 青年は智也に声をかけることなく、ただ静かに、ジッと智也を見つめている。

 これも毎回、同じである。

 以前、気になって智也のほうから青年に声をかけたことがあるが、青年がそれに答えたことはない。

 青年と向かい合って静かに時間が流れ、目が覚めるのがいつものパターンだ。

 このまま目が覚めるまで待つか、と思った智也だった。

「智也」

 誰かが名前を呼んだ。

 智也は思わず「え」と声を出し、キョロキョロと周囲を見渡すが、この場にいるのは智也と銀髪の青年だけだった。

 青年が智也に話しかけてきたのは、これがはじめてだった。

「君が、呼んだの?」

 智也の問いに、青年は小さく微笑んで答える。

「――」

 青年は智也に手を差し伸べるように右手をゆっくり伸ばし、何か呟いたがそれは智也の耳に届くことはなかった。

「え、何?」

 智也が聞きなおそうと、声を出すのと同時に、今度は突風が吹いた。

 智也は思わずギュッと目をつむる。

 程なくして風が止み、ゆっくりと目を開けると青年はいなくなっていた。

 青空と草原がどこまでも広がるこの場所にいるのは、智也一人だけだった。

「一体、何だったんた……?」

 智也がポツリと呟くと、身体が後ろにグンッと引っ張られる。


 智也は引っ張られる感覚と共に、現実に戻された。

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