第3話 スタートは地獄への入口

「開始早々フリーズって、クソゲーのニオイがするな」


 まさか開始早々フリーズするとは思ってもみなかった。

 ましてやダウンロードは済んでいるのに、そこから一切動かなくなってしまった。

 あれから早五分。もはやゲーム配信じゃなくて、雑談配信になっていた。


「そうだな、とりあえずコントローラーを変えるより先に、自分が得意なコンボを見つけるのが大事かな。人によって指の動きと長さは違うから、コマンド入力の差で技が出るまで時間が掛かる。まあ、上手い人のプレイイングを真似するのは一つの手だけど、俺はそうしてる。同じことをしても、ソイツより上には行けないからな」


 俺はコメントで送られてきた質問に適宜返した。

 当り障りは無いが、少しでも自分らしさを忘れない。

 自我を出しつつも、決してアンチが付きにくい発言で乗り切る。


(って、俺はアンチが付いても気にしないんだが……おっ!)


 不意に俺は立ち上がってしまった。

 スタンドアップしたのはもちろん、急にゲーム画面が進んだからだ。

 ここまでの長い長い沈黙を破り、ついにクソゲー・バグゲーが始まる……訳も無い。


「こ、今度はキャラ作成かよ」


 どんなゲームなのか、さっぱり概要が分かっていなかった。

 けれどこうしてみると、オープンワールドなオンラインゲームな雰囲気が漂う。

 なによりこの画面、妙にリアリティを追及していて、ファンタジーゲーム。

 それこそ、RPG感が立ち込めていた。


「どんなゲームか分からないけど、キャラメイクに力が入っているのはいいな。これだけで数時間は場が持つぞ」


 実際、動画配信サイトには、有名ゲームのキャラメイクだけで一本動画を上げている人もかなり多い。

 特に一つ一つのパーツにこだわれるゲームなら尚のこと良し。

 俺は別に凝り性と言う程でも無いが、配信と言うことで一応は気合を入れた。



ピューリ~:さっきまでのモッサリ感は何処に行った?

@神ゲー教えてください:神ゲーのニオイ!?

ギャミー:マジで細かいじゃんw

ペリドット.:ネタに走るんですか?

水野紙:ジェンダーにも気を配っている。もしかして優良ゲームなのでは?

99847:こんなにグラフィックにこだわってたら、多少動作が遅くても仕方ないかも

……



 確かにこれだけのキャラメイクができるのなら、充実感はたっぷりだ。

 ここまでの失態を全て覆して見せると、俺も楽しくなる。

 のだが、流石に予想外過ぎた。

 ここから何に手を付ければいいのか、見ているだけで手一杯になる。


「一体なにから手を付ければ。ネタに走るのもなんか違うしな……ん?」


 俺はふと、右下のマークが引っかかる。

 何やら四角い粒々マークが表示されていて、妙に興味が湧く。

 俺はマウスを移動させると、迷わずクリック。

 すると今時? と思えるものが表示された。


「まさかの二次元コード」


 そこに表示されたのは、今はお馴染み、もしくは死語にもなりつつある二次元コードだった。

 俺は絶句してしまうと、如何やらここに特定の二次元コードを読み取れば、そのままキャラメイクができる仕様らしい。

 無駄に金のかかった技術。と思ったが、これは面白い。俺は早速試してみる。


「ここに、この二次元コードを入れれば……なにが出る? げっ」


 俺は嗚咽を漏らした。

 画面更に右下のカガヤキも絶句した。

 それもその筈、キャラメイクで生み出されたキャラは、まさにカガヤキ・トライスティルだった。


「俺かよ」



蒸しパン:キター!

ベテルギウス:待ってました!

JO:やっぱこれだよな

グラム・セイバー:まさか魔王様降臨?

捨てられたパセリ:魔王様、ここに来るのか

不服:魔王様がついにゲームの世界に

……



 コメント欄が大いに盛り上がる。

 あまりにも面白くない。

 俺はムッとした表情を浮かべるも、それにしてもよくできていると思った。


「まさかここまでVに寄り添ってくれるなんて……これでやろう」


 こんな機械滅多に無い。

 いや、このゲーム自体二度と遊ぶことが無いだろう。

 そう思うと、少しでもエンタメ性を持たせることにした俺は、今できたばかりのキャラ、カガヤキ・トライスティルをそのまま使うことにした。


「それじゃあこれで……ん?」


 俺はキャラメイクを終え、いよいよゲーム開始。

 そう思ったのも束の間、急に赤文字で表示が出た。

 相変わらず文字化けしているが、何となく注意喚起な気がする。


「警告文か? 今更だな」


 マジで今更過ぎて俺は無視することにした。

 とは言いつつも、流し目で文字化けしまくった警告文を読む。

 もちろん読める訳が無い。俺はスキップし続けると、急にカタカナで読める文字が表示された。


「——コレヨリサキ、ナンジヲミチビクはナンジナリ。ゼッタイナルヤミヲウチハライ、ホシノカガヤキデテラセ。サスレバナンジ、シンナルキュウセイシュトナルダロウ。ススメ、スベテヲナンジガテラスマデ——……はっ? どうでもいいな」


 如何でも言いそれっぽい文言だった。

 俺は適当に飛ばしてしまうと、いよいよゲームスタート。

 ここまで長かったんだ。せめて楽しませてくれよと願うと、急にパソコンのディスプレイが発光し始める。


「う、な、なんだ!?」


 あまりにも眩しい。目を開けていられない。

 腕を使ってガードするも、それを凌駕する光に頭がクラクラする。

 つい吐き気さえ催してしまうと、俺は体勢を崩した。


 ゴトン!


 肘をテーブルに付き、嗚咽を漏らした。

 口元を押さ、目を見開く。

 今にも倒れてしまいそうな中、不意に視界が大きく歪む。



アルタイル:大丈夫ですか、魔王様!?

テスタロッサ:なんかあったんですか?

睡冷:体調不良?

パニックバニック:えっ、なにが起きてるの。急に画面が消えたんですけど?

風邪薬:魔王様、気持ち悪いの?

11115:魔王様!

……



 コメント欄が騒然としている。

 けれど何が起きているのかは分かっていないらしい。

 ただひたすらに俺の嗚咽と体調不良だけが加速すると、もばや目を開けていられない。


(ヤバいな、これ)


 残念だが、気が付いた時にはもう遅い。

 このゲーム、マジでヤバいことが分かった。

 俺はせめて友人AとBにはメッセージを送ろうと、スマホに手を伸ばしたが、油夫先が触れた瞬間力尽きる。


(ダメ……か)


 目を伏せ、体が動かなくなる。

 頭が働かず、意識が遠のいて行く。

 心臓の鼓動だけが淡々と聞こえると、俺は超熟睡を通り越し、もはや気絶したみたいにピクリともしない。まるで死んだようで、俺は死期を悟った。

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