第19話

 テオは地面に叩きつけられた痛みを背に感じながらも、腹の上にまたがる男に組み付きもがいていた。

 数刻の間、テオは男をサナに近づけまいと両のかいなに力を込める。しかしながら鍛え上げられた体つきのハンチング帽の男にとってテオの腕力など子どもの力同然で振りほどくことも時間の問題らしいことがテオには簡単にうかがえた。

 男の手が自身の体にまとわりついたテオの一の腕をつかむ。その力はすさまじくテオの顔が歪むと彼の口から「いたいたたたた」と言葉が漏れた。

 テオは彼の左腕を痛めつける男の手の甲に噛みつく。急な痛みに驚いたらしいハンチング帽の男は「エェッ!」と悲鳴を上げた。悲鳴と共に手の力を緩めテオの口を腕から振りほどく。そのまま拳を作り振り上げテオの顔面に向かって殴りつけた。

「ぐへっ!」という悲鳴が小道に吐きつけられると同時、通りから「ジョージ! アンドリュー!」という女性の叫び声がした。

 再度、男が右の拳を上げ地面に寝転ぶテオの胸倉を左手で掴むとテオの顔面に狙いをつける。テオは両腕を顔面の前で交差させながらも、両腕の隙間から男の目を睨みつけた。テオの脳内にツウが言った猿顔の男という言葉がよぎる。


(猿じゃねえな)


「……ゴリラじゃねえか」


 不意にテオの口から出た言葉に反応したのか男の振り上げた拳に力が入り、ポキポキと音がした。男がいざ殴らんと息を吸い込んだ瞬間、二人の頭の方向からバウバウと犬の吠える声がし、ピタと男が動きを止めた。

 犬のバウバウと吠える声はやまず、次第に近づいて来る。近づくにつれ男は上体を起こし、テオの胸倉をつかむ左手をも解いた。

 さらに近づく犬の気配を察した男はチと舌打ちをすると腰を上げ逃げ去ろうとする。すかさずテオが「逃がすか!」と男のベルトを掴んだ。

 歩みを止められたハンチング帽の男はベルトを掴むテオの左手首に手刀をかました。


「いぎゃい!」


 というテオの悲鳴に似た何かはテオの両脇で止まった2頭の犬の大きな吠え声でかき消える。

 テオは自分の左手が左腕の先に無事についてあることを確認すると、男の後を目で追った。

 男は小道から来た道を引き返すように角を左に曲がる所だった。テオには男が曲がる瞬間に器用にも右手を壁にはり付け、遠心力を使い勢いを殺さずに角を曲がった様が印象的に映った。

 何人かの足音と「大丈夫かい?」というテオを心配しているらしい声が聞こえてきたときテオは気がゆるんだのか、「ふー」と息を吐くと共に全身の力が抜けドサと頭や手を地面に付けた。

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