第28話 紫虎派と月盾

 銀狼丸を金狼舎知に進化させる計画は中止になったが、黄金姫は銀狼丸の進化計画自体は諦めていなかった。


 今度は月盾を加えて三人で議論して、帝錦都市で使用しても事件にならない程度に性能を抑えた機体を開発した。


 隠密型を基本として、装甲は素材を変更して重量は変えずに防御力だけを上げる。


 また、同じ狼型兵器から追われても逃げられるように動力機も強化して、時速一六〇キロまで出せるようにした。


 黄金姫は機体色を金色にするようにと強く主張したが、目立ちたくない月盾が名前が銀狼丸だから銀にしようと提案して銀で決まった。


 そもそも、機体を金色に塗ったら自分は黄金姫と関係していると暴露しているようなものである。


 黄金姫は不満な顔をしたが、月盾の「銀狼丸は銀」という意思は固かった。





 三次元印刷機で装甲を製作して、動力機も砲撃型に使用されていた部品を流用できたので進化は八時間で完了した。


 完了したのは夜二十二時だったので、新しい銀狼丸を受け取るのは明日の朝になる。


 進化した銀狼丸を迎えて、安全試験を終えると、早速、月盾は白薔薇遺跡に来ていた紫虎と紫虎派の皆に新しい銀狼丸を披露した。


 銀狼丸が進化した事実に紫虎は驚いていたが、次の瞬間にはもう機体自体に興味が移って、どれほど性能が向上したのかを確かめるために実験を始めた。


 騎乗が得意な進級探索士を乗せると、第一層を全力で走らせて時間を計る。


 そして、次は荷物を可能な限り載せて、一時間で運べる量を計算して表にした。


「素晴らしい性能だわ」


 と紫虎は喜んだ。


「時間当たりの労働量は二倍。もう隠密型ではなくて労働者型と言えるわね」


 遺跡の奥で、黄金姫が悲鳴を上げた。





 進化した銀狼丸に問題が起きたら即座に対応できるように、今日だけ、月盾は紫虎派の探索に参加した。


 紫虎も紫虎派の皆も月盾を歓迎してくれた。遺跡探索開始。降誕祭の時と同じように全員が組織的に動いた。


 最初、銀狼丸は七人を乗せて第一層の奥に向かって駆け出した。


 白薔薇遺跡の第一層は徒歩で移動するには広過ぎて、普通の進級探索士は実際には停留所がある位置の近くでしか探索できていない。


 だから、銀狼丸を利用できる紫虎派は徒歩では到達できない奥にある遺物を収集していた。


 修復された住宅や店を見つけると二人を降ろして、降りた探索士は遺物を集めて袋に詰めて、再び銀狼丸が来た時に迅速に遺物を銀狼丸の背中に積み込む。


 遺物を満載した銀狼丸が去ると、収集していた探索士達は別の収集場所に徒歩で移動して、また遺物を袋に詰めて己の位置情報を送ると銀狼丸が来るのを待った。





 遺物を積んだ銀狼丸は紫虎が確保した集積所に行き、荷物を降ろして出発する。


 降ろされた荷物は予想買取額に基づいて分類されて、大型乗合車が来る時間になると高価な遺物だけが銀狼丸により停留所に運ばれる。


 月盾の仕事は分類だった。


 高価な遺物に価値があるのではなくて、体積と質量から計算された収益性の高い遺物に価値がある。


 紫虎の探索戦略は黄金姫が月盾に指示した方法とは逆で、収集場所で価値ある遺物だけを選んで集めるのではなくて、大量に集めて後で分類する。


 しかし、遺跡の情報が不十分で、しかも仲間が多くて皆の得意分野が異なる状況では紫虎の方法が正解だった。


 月盾は板型端末を見ながら遺物を袋に詰める。


 何度か間違えて詰め直そうとしたら、時間の無駄だと周りから止められてしまった。


 探索で重要なのは一時間当たりの成果であって、完璧な仕事をする事ではなかった。





 最終便が到着する時間が来たので、撤収の準備が始まった。


 全員が間違いなく揃っているのを幽鬼が点呼で確認して、全員で大型乗合車に乗る。


 銀狼丸は最後の荷物を背に載せて大型乗合車と併走した。


 大型乗合車には遺物が大量に積まれていて、全体の七割は紫虎派が集めた遺物だった。


 帝錦都市に到着すると、銀狼丸は小建支部ではなくて支部の隣に建っている倉庫に遺物を運んだ。


 停留所と倉庫を何度も往復して、機巨組で借りている倉庫に遺物を積み上げる。


 他の探索士から反感を買わないように、紫虎派が買取所を利用するのは昼間だった。


 機巨組だけでなく、困街全体の効率を考えるのも大切だ、と紫虎派の少女が教えてくれた。


「組織の恐ろしさを感じるわね。完全に労働者だわ」


 指輪を通して、黄金姫が感想を述べた。


 月盾も同感だった。





 仕事が終わると、紫虎派全員で貧困街にある焼肉店に向かった。


 今日は月盾も紫虎から誘われて共に焼肉店に向かう。


 焼肉店には既に闇牙達が集まっていて、彼等は楽しそうに肉を焼いて食べていた。


 紫虎から手を引かれて、月盾は闇牙に挨拶した。


 闇牙は笑顔で月盾に挨拶して、今日は存分に食べてくれと言った。


 月盾は分類作業で仲良くなった進級探索士達と七輪を囲んだ。


 肉を焼いて肉を食べて、野菜を焼いて野菜を食べて、誰もが笑顔で食事している。


「焼肉が一番好き。身体を動かした後は、やっぱり肉ね」


 月盾の隣に座っていた少女探索士が、月盾の皿に焼けた肉を盛った。


 月盾は礼を言って肉に檸檬垂れを付けて食べる。


「月盾は宿で生活しているのだろう」


 と正面に座っていた少年探索士が尋ねた。


「誰と食事をしているの?」


 月盾は肉を食べながら答えた。


「一人で食べていますけど」


 同じ七輪を囲んでいた少年少女達の手が止まった。


 彼等が衝撃を受けているのを察した月盾は慌てて誤魔化した。


「ときどき、鱗蛇さんと一緒に食事をしています」


 月盾が言うと全員が安心したようだった。


 正直、月盾は、自分が一人で食事をしていると言った瞬間に彼等が衝撃を受けた理由が分からなかった。




 しかし、彼等には衝撃を受ける理由があったのである。


 機巨組の探索士達、紫虎派の少年少女達は親が生きている者も死んでいる者も、紫虎派に入る前は孤独だった。


 食料配給所で弁当を貰い、路地で隠れて黙々と一人で食べる。


 貧しい食事は惨めで、寂しくて泣いていた。


 彼等には一人で食事していた環境は悲しい環境で、だから一緒に食事してくれる者がいない環境は二度と戻りたくない悲惨な環境なのである。


 一方、探索士になり、暴力団に入り大勢で食事をするのは幸福な環境だった。





 紫虎派の誰もが今では月盾を知っていた。


 そして、狼型兵器と契約して、自分専用の突撃銃まで保有している月盾は恵まれた探索士なのだった。


 帝錦都市全体から見れば貧困街の進級探索士は全員が貧賤な探索士だが、しかし貧困街の中では月盾は富貴な探索士として理解されていた。


 そのため、富貴な月盾が一人で寂しく食事をしているなど紫虎派の少年少女達は理解できなかったのである。


 月盾は将来が有望な探索士で、有望な探索士は幸福でなければならなかった。


 そして、紫虎派の皆は暴力団に所属して幸福になったので人に囲まれている状況が幸福なのだ。


 月盾は宿で一人で朝食を摂り、一人で白薔薇遺跡に行くのが習慣で、それを苦にした経験など一度もなかった。


 しかし、紫虎派の若者達は月盾の日常を想像できない。





 探索をしている時は機械の部品に思えたが、食事中の紫虎派は普通の少年少女達と何も違う所はなかった。


 他者の噂話と人気な映画の話ばかりで、月盾は彼等が自分達の生活に満足しているのだと分かった。


 月盾は、自分が今まで貧困街を何一つ理解していなかったのだと思った。


 月盾は貧困街に焼肉店がある事は知っていた。


 機巨組の縄張りに立派な店を構えていて、肉を焼いた煙を出していた。


 毎日、見ていた。


 しかし、月盾は今までの人生で一度も焼肉を食べたいと思った経験はなかった。焼肉店は貧しい自分とは関係ない場所だと思っていた。


 そして、楽しい場所は分離壁の内側、乙位者が暮らしている場所にしかないと信じていた。





 月盾には貧困街とは絶望の場所だった。


 しかし、月盾は今、自分が貧困街を希望がない場所だと思っていた理由が分かった。


 貧困街が絶望なのは、貧困街には幸福になれる場所など存在しないからではなくて、親を失った月盾が貧困街で楽しめる場所から排除されていたからである。


 建位者は乙位者にならなければ、貧賤は富貴にならなければ幸福にはなれないと月盾は漠然と思っていた。


 しかし、必要だったのは生活費と人間関係だけだったのだと月盾は悟った。


 乙位には乙位の幸福があり、建位には建位の幸福がある。


 自分は貧困街にいたから不幸だったのではなくて、貧困街から、自分がいる社会からも排除されていたから不幸だったのだと理解した。


 月盾は自分が普通の貧賤だと思っていたが、本当は貧賤ですらなかった。





 食事をしていると、闇牙が来た。


 月盾は緊張した。


「頻繁に目が合うけど、こうして話をするのは初めてだな」


 と闇牙が月盾の正面に座って正式に自己紹介をした。


「機巨組、追広四級探索士の闇牙だ」


 月盾も彼に応えた。


「進広三級探索士の月盾です」


 自己紹介が終わると、闇牙は突然、頭を下げた。


「最初に謝罪しておく。


 昔、月盾を追い返して悪かった。


 状況が悪かったから怪しい者を徒党に加える訳にはいかなかった。


 何年も前の事だから、もしかしたら月盾は忘れているかもしれないが」


 月盾は憶えていた。今まで忘れた事は一度もない。


 だから、状況が変わっても自分は紫虎派には永遠に入れないのだと漠然と思っていたのである。


 しかし、闇牙の謝罪を聞いて忘れていましたと笑った。


 自分が紫虎派に恨みを抱いていると、仮に誤解でも彼等に思われたくなかったからだ。


 それに月盾は当時の自分を話題にしたくなかった。


 月盾は自分が有望な探索士だと思われている今の状況を気に入っていた。


 実力があり、恵まれていると紫虎派の探索士から憧れ敬されている今の自分が好きだった。


 昔の話は早く切り上げて今の話をしたかった。


「紫虎から聞きました。


 闇牙さんが徒党の本当の指揮者だって。


 だから、実際に会って話ができて光栄です」


 闇牙は月盾の話を聞いて不満な顔をした。


「紫虎が言ったのか?


 本当に困った奴だなあ。


 月盾、誤解が生まれないように言うが紫虎派の指揮者は紫虎で、紫虎が俺達の指導者だ。


 悪いが、紫虎派では紫虎が指揮者だと徹底させている。


 だから、二度と俺を指揮者と呼ぶなよ。


 俺は紫虎を指揮者にして徒党を育てると決めているからな」


「分かりました」





 現在、闇牙は鱗蛇の探索隊に参加して青鰐遺跡を探索しているようだ。


 青鰐遺跡は帝錦都市周辺では最高難易度の遺跡として知られている。


 第四層まであり、普通は務級探索士が挑むほどの危険な場所である。


 しかし、第一層までは住宅街の若い追級探索士が訓練に使用している程度の難易度で、そのため闇牙も探索が許されていた。


 闇牙は黒狼遺跡の探索経験もあり、月盾よりも先に進んでいる有望な探索士である。


 しかも、年齢も十八歳で月盾よりも三歳も年長だった。


 以前、紫虎が月盾に闇牙と張り合うなど生意気と戒めたのも当然である。





 月盾と闇牙は鱗蛇の話で盛り上がった。


「血縁が重要で、だから若頭は組長の息子がしている。


 だけど、正直、探索士としても人間としても鱗蛇本部長が上だよなあ。


 まあ、若頭は善良なのだけど。


 ただ善良である以外には長所がない」


「そうなのですか?」


 と月盾は食後の氷菓子を食べながら言った。


「鱗蛇探索士と食事をしているのだろう? 話せば分かるだろう」


 月盾は今までの鱗蛇との会話を思い出して、闇牙が言いたい事が分かった。


 紫虎は鱗蛇を探索士としては信頼できるが、人間としては信頼できないと怒っていたが、月盾は探索士としても人間としても鱗蛇を信頼していた。


 最初は変わり者だと思ったが、今では頼りになる大人だった。


「若頭とは何ですか?」


 と月盾は質問した。


「次期組長」


 と闇牙が答えた。


「若頭、本部長、舎弟頭の三人が執行三役。若頭は組長の次に偉くて、他の組では若頭が組の指揮をしている」


「機巨組は違うのですか?」


 月盾の疑問に、闇牙は肩を竦めて答えた。


「機巨組の若頭は無能な投資家。


 先月も暴落する株を買っていた。


 俺は彼と出会って無能な努力家が迷惑だと知った」


 隣に座っていた少女探索士が慌てて、駄目ですよ闇牙先輩と肩を揺すった。


 闇牙は笑いながら俺が話した事は内緒にしてくれよと月盾に頼んだ。


 月盾は固く約束して、最後の氷菓子を食べ終えた。





 店を出て解散する前に、月盾は闇牙と会話しながら思った事を彼に尋ねた。


「どうして紫虎を指揮者にしたのですか?


 正直、闇牙さんが指揮者をしているのが自然だと思いましたけど」


 月盾は実際に闇牙と話をして、闇牙が好きになっていた。


 紫虎が闇牙を信頼して闇牙の徒党に入ったのも納得だった。


 状況判断にも人物評価にも優れていて、信頼できる人物だと月盾は思った。


 しかし、だからこそ月盾は今の紫虎派の状況が不思議だった。


 闇牙は傀儡を後ろから操る影の支配者でも、王を影から支える控えめな大臣でもない。


 むしろ、王や将軍が似合う男だった。


 闇牙が自分を指揮者にして、紫虎を参謀にしなかった理由が月盾は分からなかった。


 紫虎は明らかに参謀に向いていて、闇牙は誰からも指揮者を期待されているので尚更である。


 紫虎が助言して闇牙が決断したら、紫虎派は今よりも強くなり安定すると思った。





 闇牙は一瞬だけ迷ったが、まあ、月盾には話すべきかと言って答えた。


「馬鹿が何人も集まっても無駄だ。


 生き残るためには賢い人間が必要で、賢い人間が指揮者をするべきだと思った」


 月盾は眉をひそめた。


「闇牙さんは賢いと思いますけど」


「俺と同じ程度の人間は何処にでもいる」


 と闇牙は言った。


「そして、俺が求めている賢さは俺と同じ種類の賢さではない。


推理力、直感や判断力ではなくて、もっと確実な知性が必要だと思った」


「確実な知性」


 と月盾は呟いた。


「貧困街が大規模襲撃に襲われた時に確信した。


 俺達貧困街の住人に必要なのは、勤級探索士や務級探索士が持っている確実な強さだ。


 数学の問題を解くように現実の問題を解決できる人物が最低一人は必要だ。


 俺は賢いかもしれないが、自分の経験と直感でしか状況判断ができない。


 そして、大規模襲撃で俺より賢い奴は皆死んだ。


 紫虎の知識を信じた者だけが生き残った」


「紫虎も間違える時がありますよ」


 と月盾は疑問を尋ねた。


「誰だって間違える事はある」


 と闇牙は答えた。


「紫虎が間違えた時は諦める。


 俺が嫌なのは無謀な挑戦を冒すことだ。


 不十分な知識、曖昧な作戦、常道に外れているのに気付かず突撃して死ぬような馬鹿にだけにはなりたくない。


 紫虎が指揮すれば、簡単な失敗で全滅する悲劇はない」


 闇牙の話を聞いて、月盾は驚いた。


 そして、闇牙には自分と同じ世界が見えていたのだと理解した。


 炎風や雷人を久しぶりに思い出した。そして、同時に彼等に憧れていた過去の感情が甦ってきた。


 月盾は闇牙を理解したと思った。


 月盾が確実な力を求めて分離壁の内側に逃げようと決意したように、闇牙は、分離壁の外側に炎風や雷人のような強い探索士を生み出そうとしていた。


 月盾は自分だけが救われようとしていたが、闇牙は仲間全員を救おうとしている。





 紫虎が選んだ男は自分よりも魅力があると月盾は思った。


 今、月盾は完全に闇牙に負けを認めたのだった。


 紫虎は闇牙が好きだと言った。


 紫虎と闇牙が結婚したら、素直に祝福しようと思った。





 紫虎が来た。


 そして、闇牙と月盾を交互に見て言った。


「ずいぶんと仲良くなったようだけど、何の話をしていたの?」


 闇牙は笑って答えた。


「楽しい話だよ」


 紫虎派の少年少女達は食事を終えて、帰る準備を始めた。


 紫虎派は人数が増えて今では六十人以上もいた。


 全員が集合住宅で共同生活をしていて、月盾には紫虎派が団結した家族に見えていた。





 闇牙は月盾を見て、紫虎を見て、再び月盾を見て月盾に向けて言った。


「思ったのだけど、月盾、お前は紫虎と結婚する気はない?」


 月盾は絶句した。


 紫虎は顔を赤くした。


「何を言っているの?」


 と紫虎が文句を言った。


「いや、放置していたら紫虎は悪い男に弄ばれそうだから」


 と闇牙が言った。


「相手を探すのは俺の役目かなあと」


 月盾が慌てて言った。


「闇牙さんは紫虎と結婚しないのですか?」


「月盾、何を言っている?」


 と闇牙が呆れた顔をした。


「俺は幽鬼と恋人だし、このまま幽鬼と結婚するけど」


 紫虎は顔を赤くして闇牙を蹴った。


 闇牙は笑いながら月盾に言った。


「別に機巨組に入って欲しいとか、紫虎派に入って欲しいとかの話じゃない。


 これからも紫虎や俺達と仲良くしてくれないか?


 正直、俺は月盾を頼りにしている。


 貧困街は脆弱だから互いに協力しないと本当に全滅するからなあ。


 だから、同じ場所で暮らす者同士で仲良くしたい」


 月盾は慌てて答えた。


「分かりました。これからも、よろしくお願いします」


 宿に帰ろうとして、月盾は銀狼丸に乗った。


 すると、紫虎が慌てて来て、顔を赤くしながら月盾に謝った。


「闇牙の話は気にしなくても良いからね。本当に、お節介なんだから」


 月盾も顔を赤くして、それから二十分ほど二人で雑談した。






 紫虎が去ると、月盾は心を躍らせながら森に向かって駆け出した。


 帝錦都市を一周して、宿に戻っても紫虎を思い出して眠れなかった。


 突撃銃から不機嫌な黄金姫の声が聞こえた。


 月盾は務級探索士になる目標があるのだから恋愛は絶対に禁止よ、女は男を堕落させる魔物だと神話の時代から決まっているわと戒めた。


 月盾は黄金姫の小言を聞きながら眠った。


 そして、目を覚ました時に世界が爽やかで明るいと思った。


 途中で寝てしまったので、黄金姫の説教は欠片も憶えていなかった。





 強化服を着て、遺跡で見つけた鞄を背負い、火村突撃銃を肩に掛けると、月盾は今日も元気に訓練と勉強をしようと思った。


 食堂に行くと、鱗蛇がいて、月盾は鱗蛇に昨日の出来事を詳細に報告した。


 そして、宿を出ると銀狼丸に騎乗して、白薔薇遺跡に向けて全力で疾走したのだった。


 銀狼丸は確かに以前よりも強化されていて、時速百キロの速度でも十分に余力が感じられた。


 そして、黄金姫から許可を得て、百二十キロ、百四十キロと速度を徐々に高めてみた。


 最高速度、時速百六十キロに達すると恐くなったが、急加速しなければ耐えられると分かった。


 昨日の闇牙との会話を思い出して、紫虎を思い出して自分は幸福だと思った。

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