リーネ・フローリアからリーネット・アステリアへ

私は、わずか17歳で厳しい状態にたたされていた。



毒によって。



「お姉様、死んじゃ嫌ですわ!」


妹のリリが泣きそうな顔で私の手を握ってくれている。


「あら、リリ。私、死ぬつもりはなくてよ?まだまだ生きる気満々ですわ!」


「お姉様はいつも気持ちだけお元気なのは嬉しいけれど、寝たきりで言われても信憑性がありませんわ!」


リリの頬に涙が伝う。


リリの隣のお母様も今にも泣き出しそうである。


「そうよ。リーネ、貴方はいつも明るいけれど、今は弱音を吐いても良いのよ」


「お母様、何をおっしゃいますの!気持ちを強く持てば、毒など私が倒してみせますわ!」


「だからね、リリも言った通り寝たきりで言われても説得力がありませんの」


「もうっ!お母様もリリも細かいことを気にしすぎですわ」


お母様とリリがため息をつく。


「そうね、リーネは明るいところが取り柄ですものね。それに頭もとても良いはずなのに、馬鹿な事ばかり述べて・・・」


「あら、それが一番大事なことでしょう?私、人生を誰よりも楽しんでいますわ。だからね、リリ、お母様、私とっても幸せですわ」


私はリリとお母様の方へ顔を向けて微笑んだ。


しかし、その瞬間心臓がありえないほどに苦しくなる。


「はぁっ、はぁっ・・・」


「リーネ!?」


「お姉様!?」


申し訳ございません、お母様、リリ。


私、ここで命尽きるかもしれませんわ。


まだまだ生きるつもり満々でしたのに。





二人の声が段々遠くなっていく。





ああ、本当にこれで私の人生は終わったのね。







そこから私は深い眠りについた。







どれくらい眠っていたかしら?







何処かから私を呼ぶ声がする。







「・・・・・・リア!リーネ・フローリア!」







ううん・・・?誰ですの?心地よく寝ていましたのに。




目を開けると、そこは全てが白の空間だった。


まるで、無のように。


「やぁ、目は覚めたかい?」


声の方を振り返ると、真っ白な服を着た少年が立っている。


「誰ですの!?」


私は驚き、声をあげてしまう。


すると、少年はニッコリと微笑む。




「うーん・・・この世界の中で一番偉い人かな?」




「??」




「まぁ、つまり君・・・リーネ・フローリアは死んだんだ。普通はこんなところに来ないんだけど、君は特別」


「実はね、馬車での不運な事故である女の子の魂が消えかけている」


「そこで君。君にはその子の身体に入ってほしいわけ」



「ちょっと待ってください。それでは、その女の子の魂はどこへ行くんですの?」



「あれ、理解が早いね?もっと、戸惑わないの?」


「あら、物事受け入れるのは早い方がいいですわ!」


「ふーん、やっぱ君が適任!」


「どういうことですの?」


「うーん、受け入れるのが早い君には説明は要らないかな?君は今から、リーネット・アステリアになる。ただそれだけ」


「もっと説明が欲しいですわ!」


「まぁ、安心して。元のリーネット・アステリアの魂はあの事故で死ぬ運命だった。ちゃんと、その魂は普通の人と同じところに行くよ」


「待って下さい!では、なぜ私だけ違うのですか!」




「うーん、それは気分かな?だって、僕偉いから!」


「あと、君の本当の凄さは明るさじゃないからね。聡明さだ。じゃあ、頑張ってねー」




急にまたまぶたが重くなるのを感じる。


ああ、もっとあの少年と話がしたいですのに。


しかし、もう眠いですわ。


もう・・・・・・




「・・・・ット!リーネット!」




誰かが声をかけてくれている?


頑張って目を開けないと・・・・



目を開けると豪華な天井が目に入った。


「リーネット!目が覚めたのか!馬車で事故にあったと聞いた時はもう心臓が止まるかと思ったぞ!」


「旦那様、そんなに急に話してはリーネが驚いてしまいますわ」



見たことのない人達。


この人たちがリーネット・アステリアの両親だろうか。


あの少年の話を総合的に考えると、私はリーネット・アステリアという少女の身体に入っている。


しかし、それだけしか分からない。


このまま今までのリーネット・アステリアとして過ごすのは厳しいだろう。


なら、事故で記憶が混濁こんだくしたふりをして情報を聞き出すのが良いだろうか、それとも完全に記憶喪失にするか。


それにこの世界が私の住んでいた世界と同じ世界なのか、月日はどれぐらい経っているのか、全く分からない。


どこまで記憶が混濁したことにするか・・・


部屋を見るにリーネット・アステリアは貴族だろう。


しかし、私の住んでいた世界とマナーや勉学が同じとは限らない・・・が、リーネット・アステリアの両親の言語は私の住んでいた国と同じである。


つまり時間だけ過ぎた可能性が高い。


しかし、これから先リーネット・アステリアとして性格すら真似ることは難しいし、私もしたくはない。


今回は記憶喪失のふりをした方が良いだろう。


それならば、多少性格が変わっても説明がつく。




リーネがここまで思考をまとめるまで、わずか10秒足らずしか経過していなかった。




そう、リーネ・フローリアは聡明な少女であった。


あの性格からは考えられない話だが。


「あの・・・」


「どうしたの?リーネ」


このリーネットという少女の愛称はリーネなのだろう。


私の前の名前と同じなので、反応が遅れることがなくて助かる。



「どちら様ですの・・・?」



「リーネ、まさか記憶が・・・!」


両親の顔を見て、心苦しくなる。


ああ、やっぱり、記憶のあるふりをした方が良かったかしら?


でも、性格がリーネと全く違った場合説明が付かないでしょうし・・・


その後のリーネットの両親の行動は早かった。


すぐに医者を呼び、もう一度私の検査をさせた。


私は、言語や作法は分かるフリをした。


ある程度上手く誤魔化せられたのだろう。


医者は、記憶障害の診断を下した。


それから先は、人間関係や生活面、色々なことを侍女や両親に教えてもらった。


社交界でも困らないように、現在の貴族の顔や名前だけでなく貴族間の情勢も覚えた。




この身体の持ち主、リーネット・アステリアはロタリスタ国の公爵家であった。


しかし、私の記憶にそんな公爵家は存在しない。


私の記憶ではアステリア家は侯爵家であった。




そう、今はリーネ・フローリアが亡くなってから10年が経過していた。




そしてリーネット・アステリアは現在16歳で、私も通っていた貴族御用達の学園の一年生である。


しかし勉学や礼儀作法は大きく変わっておらず、私はすぐにリーネット・アステリアの生活に慣れていった。


ただ一つ、問題が。



「リーネットお嬢様、元気になられて良かったわ」


「それに家庭教師によれば、飲み込みも異様に早く、学園に戻れば首席を取れるレベルだそうよ」



そう、リーネットは頭の良い少女ではなかった。


記憶喪失で多少人格が変わっても、通常ありえない変化に両親は驚いていた。


しかし、娘が褒められることに嬉しさもあるようであった。


それからリーネットとして上手く対応する方法を学んだり、周りに怪しまれないよう少し口数を減らした。



目標は二つ。


まず、リーネット・アステリアとして、幸せな人生を掴むこと。


もう一つは、リーネ・フローリアの家族・・・つまり前の私の家族にもう一度会うこと。



明日から、私はリーネット・アステリアとして学園に通い始める。


静かに過ごして、問題を起こさないように・・・



そう思っていたのに、何故か私は賑やかな学園生活を送ることになる。

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