【復刊希望!】筒井康隆「SF教室」
「筒井康隆コレクションI 48億の妄想」収録 出版芸術社
筒井康隆 (著), 日下三蔵 (編集)
発売日 : 2014/11/30
本書は、ジュニア向けの図書として1971年に出版され、当時の多くの少年少女をSFの世界に招いてきたことで知られている。例えば、映画評論家の町山智浩氏はこの本で紹介されているSF作品を片っ端から読んできたとか。その話を聞いて興味を持ったのだが、今は絶版になっていることを知って愕然とした。
しかし、ちょっと調べてみたところ、上記の文集に収録されているとわかり、早速手に取った。一読して、自分も幼い頃にこの本に出会っていたかったと地団駄を踏むことになった。
内容は、SFについて、SFの歴史、SFの名作、SF作家の案内など。「SFに出てくることば」の項目では、光子ロケット、スペース・オペラ、タイム・マシン、ロボット、異次元についてごく理解しやすい説明が載っている。
そう、ジュニア向けに書かれた本であるため、全体的にめちゃくちゃ読みやすいのだ。ジュニア向けだからといって中身がおざなりになっているわけではない。シンプルな分、SFの核心をついたことばの数々が収録されている。
例えば、筒井康隆は「SFについて」の項目で、「SFとは小説である」と断言している。SFといえば、映画もアニメもマンガもあるのにどうして? 本作にだって「マンガの世界」「映画の世界」という項目を設けているくらいだから、SFが小説だけじゃないことは明白なはずである。
それなのに筒井はどうして、「SFは小説である」などと断言してしまうのか?
その含意は推して知るしかないのだけれど、本書を最後まで読めば、筒井の意見に同意したくなる気分が高まってくるはずである。
また、本書を読めば、SFに対して長年疑問に思っていたことが解消されるかもしれない。SFのジャンルの広さである。
「スターウォーズ」のようなスペースオペラから、「高い城の男」のような「IFもの」、レイ・ブラッドベリ「火星年代記」のようなファンタジックなものまですべて同じ「SF」のジャンルのくくりなのか?
それは、SFの歴史を紐解くことで分かる。
ところで、なぜ今読んでも有益な本書が絶版に追い込まれてしまったのか? 一読して、その理由がわかった。出版が1971年と五十年以上前なのである。あまりに内容が古びているのだ。
今や冥王星は惑星の地位から脱落したし、ソ連は解体している。『「猿の惑星」をこの前テレビでやった』などと記述している箇所もあり、時代を感じてしまう。
未来をテーマにするSFの宿命である。五十年も経ってしまえば、すでにして未来である。この間にインターネットが発達し、だれもがスマートフォンを持っている。動画や文字情報でメッセージをやり取りしている。この本のカバーしている内容だけでは、SFを網羅できているとはどうしても言えなくなってしまう。
何より、本書で紹介する本の半分ぐらいが絶版の憂き目にあっており、アマゾンなどの通販サイトでは一冊8千円などで取りひきされているのだ。
それでも、本書は、現代でも読まれるべきだと思う。復刊すべきだと思う。小学校の教室ごとに一冊は置いておくべきだと思う。
現在、SF小説という分野は、広大無辺の荒野と化してしまっているように思われる。
SF小説が、一部のマニアのためのものとみなされているのは今も昔も変わらないのだろうが、現在は「三体」のようなビッグヒット以外は、その他大多数が日の目を見ていないのが実情なのではないだろうか。
その点、SFの基本を語り、通史を語り、ジャンルに理解を深めてくれる本書の存在はありがたい。私は、この本を読んで、読みたい本のリストに二十冊は加わった。どうか関係者のかたの目に届くことがあったら、繰り返し伝えたい。復刊希望と。
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