萌えは世界を救う!~異世界に召喚され外れ聖女として獣王様と政略結婚させられましたが、陛下の可愛らしさに聖女の力が目覚めたので無双します~

星雷はやと

第1話 外れ聖女


「あらぁ? ごめんなさい? そんな所に這いつくばっているから気が付きませんでしたわ」

「……っ……」


 石造りの床を雑巾がけしていると、バケツを倒された。冷水が膝や腕に掛かり、痛いほどに冷たい。バケツを蹴り倒し、私を見下ろしながら笑う香蓮。本来ならば、抗議をするところだがそれは得策ではない。


「なに? 『外れ聖女』のくせに大聖女である私に、何か言いたいことでもあるのかしら?」

「い……いえ……」


 私は顔を逸らし、嵐が通り過ぎるのを待つ。


「ふぅん? まあ良いわ。私はこれからロック王太子殿下とお茶をする約束があるの。床を綺麗にしておきなさいよね!」

「は……はい」


 反抗的な態度を取らない私に、興味を無くした香蓮は数人のメイドを引き連れて去っていく。


「はぁ……疲れる……」


 足音が完全に聞こえなくなると、私は顔を上げて溜息を吐いた。


 私の名前は浅葱瑠璃、普通の大学生だった。それがある日、地面が光ると異世界に召喚されたのだ。


 豪華絢爛な王宮で大勢の兵士に囲まれる中、私以外にも召喚された人物がいた。それが先程の香蓮である。神聖力を測定する水晶に触れると、彼女は眩しい光を放ち私は無反応だった。


 その結果、美しい容姿を持つ女は大聖女として祭り上げられ、私は『外れ聖女』として雑用係にされたのだった。


 香蓮は王太子や貴族達、この国全体から重宝され大切にされている。かく言う私は『外れ聖女』だからと、メイド達に笑われ雑な扱いを受けているのだ。


 勝手に異世界に召喚しておいて、自分勝手な国である。元の世界に帰る方法もない上に、未知の異世界を一人で生き残れる自信がない。それ故に最低限の扱いを受け入れている。


「如何にかしないと……」


 このままでは一生この生活を強いられることになる。そんなことは許せない。人権侵害もいいところだ。この国に私の味方は一人も居ない。他の国に理解がある人物が居てくれる確証はないが、この国に居るよりは可能性がある。如何にかこの国を出る方法を見つけなくてはいけない。


 決意を固めると、強く雑巾を絞った。




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