第251話 今なら入信料オフ!

「すごいかっこいいじゃん公平くん! えっ、なになにその服、それってお仕事用!? いけてんじゃーん!」

「り、梨沙さん……?」

 

 いつになくテンションが高い梨沙さんに、俺は思わず頬を引き攣らせた。まさかこのコスプレ山形くんを、マジで気に入っているのか?

 他のクラスメイトたちやさやかちゃんも、つられて俺の服をガン見して、なにやらほーうだのうほほーうだの言っている。ゴリラかな?

 というか、往来だから他の通行人の方々も見てきてる気がする! 恥ずかしくなってきたんですけど! 正直ちょっとカッコいいかもって思ってた俺自身までネタにされてるようで、すごく恥ずかしいんですけど!

 

『なんだ、カッコいいと思ってたんなら僕は仕事できてるんじゃないか。文句言われる筋合いなかったよね、それだと』

 

 うるさいよ! デザイン流用してたやつが言っちゃ駄目だろ! 元ネタとかいう、お前の世界のお偉いさんには感謝いたします。どうもありがとうございます。

 邪悪なる思念のことはさておき、梨沙さんたちを見る。神魔終焉結界の、特にコートをお気に召しているようだった。

 

「へぇー、山形ってこんな服装でダンジョン潜るんだなあ」

「ちょっと大人っぽいっていうか、雰囲気変わるよねー。なんか、格好良いかも」

「でもよ、なんか背伸びしてる感じもあるぜ」

「たしかに。てか暑くないの? ウケる」

「ウケないで?」

 

 最後の、木下さんのひどい言葉に思わず返す。ウケないで。

 というか背伸びしてる感じとかいう松田くんの言葉が一番グッサリ来た。おかしいな僕コマンドプロンプトなのに、言葉の刃で胸が痛いよ?

 

「わ、わ、わたしはとても良いと思います! あの、その、先生の好きな漫画に出てくるキャラクターみたいで!!」

「えぇ……?」

「というか似てます、そっくりです! 山形くんの顔付きもちょっと推しに見えてきました! すみません山形くん、ちょっとこう、ポーズを取ってください!!」

「取りませんけど」

 

 我らが担任さやかちゃん先生が一番暴走している気がする。いつもポワポワしてるのにやたら早口だ。なんの漫画か知らんけど、なんていうか、ディープな入れ込み方してるな、さては。

 なんであれ、ただでさえ衆目を浴びるこの状況で、さらに漫画キャラのポージングなんかできるわけがない。もうここはどうにか退散して、打ち上げには私服で行って有耶無耶にしてやる!

 そう思って香苗さんに声をかけようと思って振り向いたら、だ。

 

「分かりますか佐山さん。そうです公平くんは、一週間ほど前にとある巨悪を打倒し、救世主として世界を見事救ったのです」

「そ、そうなんですか……!? わ、私らの知らないところで、そんな戦いを公平くんが……!?」

「その影響か、今の公平くんは前にも増して魅力的、かつ神秘的です! どうですあなたも、我らが救世の光の一員として彼を崇め奉るのは!!」

「香苗さーん!?」

 

 伝道やめろや! よりによって梨沙さんに何やってんだ、マジで!

 慌てて彼女の手を取りこちらに引っ張る。この人の勧誘活動を初めて目の辺りにしたけど、思いっ切り救世の光とやらに引きずり込もうとしてんのな。怖ぁ……

 

 梨沙さんも梨沙さんで、なんか乗り切っていうか、興味津々だし。そりゃあ、知らんところで知り合いが世界救ってましたなんて話、聞かされたらそうなるかもしれんけど。

 だからっても、よりによって香苗さんの話を鵜呑みにする事はなかろうよなあ。

 

「香苗、さん?」

「えっ?」

「……公平くん、御堂さんのこと名前で呼ぶんだ?」

 

 っと、おや? なんか、梨沙さん? 様子がおかしくない?

 俺が香苗さんのことを、香苗さんと呼んでいることにやたら反応が強い。どこか、驚いている。クラスメイトたちもさやかちゃんですらそうだ。

 

 ……ああ、たしかに。みんなの前でこの人を、香苗さんって呼んだのは今回が初めてな気がする。有名人だし、そもそも照れもあったしな。

 今さら別に隠すことでもなし、素直に頷く。

 

「そりゃあ、探査者の先輩だし、戦友でもあるからね。関口くんだってこの人のこと、香苗さんって呼んでるでしょ?」

「あー……たしかに。あいつのは、単なるお調子乗りなだけだと思うけどさ」

「というか、そこで関口の名前を出さないでほしいですね……最近は少しはマシになったようですけど、それでもろくなものでもないですし」

「えぇ……?」

 

 二人とも辛辣すぎない? いやまあこの人たち、前から彼のことをあんまり好きじゃなさそうだったしなあ。変に名前を出した俺が迂闊だったな、ごめん関口くん。

 さておき、そろそろマジで組合本部に戻ろう。うかうかしてるといつまでも時間を取られて、本当にこの格好で打ち上げに行かなくてはならなくなる。どんな羞恥プレイだ。

 

「えーと、じゃあ、そろそろ俺たち行くから……打ち上げに間に合わなくなると嫌だし、一旦さよならってことで」

「あっ、うん……また、夕方に会おうね」

「もちろん。楽しみにしてるよ、みんな」

「みなさんもぜひ、ぜひ救世の会をよろしくおねがいします! 入信料とか取りませんから! 帰依なさいませ! 帰依なさいませ!!」

 

 なおも勧誘を続けようとする香苗さんを半ば強引に引きずる。お、おう……みたいな顔の面々がつらい。

 とにかくこうして、俺の本日のダンジョン探査は終了した。

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