第246話 魔法少年マジコワ☆ヤマガタ

 最初の部屋に入るとそこには、まあ当たり前だがモンスターがいる。けれどそいつがまた、なんというか……

 実にこのダンジョンに適した見た目のやつ、ではあった。

 

「オークロード……ですね。こちらを見向きもしていませんが」

「ひたすら食ってますね、ハンバーガー」

 

 D級モンスターであるオークの亜種、オークロードと呼ばれる色違いたちが三匹、座り込んでひたすらにハンバーガーを食っている。

 ポテトやナゲットも近くにまとめて置いてある。なんていうか、暴食の極みみたいな光景だ。あっ、ジュースまであるのかよこのダンジョン、あいつらズビズバ飲んでやがる。

 さしもの経験豊富な香苗さんも、これにはビックリしたみたいだった。ドン引きして、カメラを回している。

 

「たしかにオークは暴飲暴食を好む質とは聞きますが。ここまで極端なのはなかなかお目にかかれませんね」

「よほどファストフードが気に入ったんでしょう。俺も正直、ここのダンジョンコアにちょっと惹かれてるんで、気持ちは分かります」

 

 あるいはこのモンスターたちの元になった魂が、よほどの大食漢だったか、とかな。

 立ち尽くす俺たちに、暴食オークたちはようやっと気付いたみたいだった。ハンバーガーを片手に立ち上がり、殺気も露に向かってくる。いやせめて食い終わってからにしろや!

 

 C級モンスターなだけはあって、威圧感はそこそこだが……ついこないだ、三界機構やら邪悪なる思念と相対していたからな。感覚は麻痺気味だが、どうあれまるで余裕な相手だ。

 ちょうどいい──こいつらというか、このダンジョンで試してみるか。

 俺の、山形公平/コマンドプロンプトとしての新たな戦闘法を。

 

「よーし、結界起動!」

「……!? 公平くん、光がっ!?」

 

 呟くと同時に発光する俺。シャイニング山形っぽいがあれとは違って一瞬の光だ。だがその間に俺の服装は、さっきまでの学生服からものすごーく変わっていた。

 大陸風の民族衣装チックというか、ちょっとゆるふわ感ある白ズボンに黒い半袖シャツ。さらには身の丈よりちょっぴりだけ大きい、蒼色のコートを着ている始末だ。

 

 総じて中二病全開のファッションと言えるな。ねえデザイン担当の邪悪なる思念さん、君は14歳かい?

 この服を創るにあたってデザイン関係を丸投げしていた、俺の脳内に住む邪悪なる思念に語りかける。

 

『なんだよ、いきなり変な仕事押し付けといて文句か? かつて僕が管理してた世界で、一番偉かったヤツの服装だよ。ありがたいだろ』

 

 面倒くさいからって流用してんじゃねえよ! でも元ネタはあったんだな、中二とか言ってごめんなさい元ネタの人。

 内心で謝る俺に、香苗さんは仰天といった感じで尋ねてきた。

 

「こ、公平くん? その姿は……!?」

「あっ、あのー。ニュー山形くんの戦闘服と言いますか。これ自体が一つの術式と言いますか。まあ便利なんですよ。とにかく初お披露目と、解説は後で、ですね」

 

 香苗さんに言いながらも俺は、おもむろに宙に浮いた。ふわ~って感じで音も立てずゆっくりとだが、それが却って飛び跳ねてるとかでない、ガチの空中浮遊感を出している。

 因果改変、このレベルで弄っても問題なしか。しっかり機能しているな、この服。

 

「そ、空を飛んで……! か、カメラ、奇跡です、これは救世主様の御業です!!」

「……違うとも言い切れんなあ、こればかりは」

 

 苦笑する。コマンドプロンプトとしての能力を使用し始めたら、そりゃあ神が救世主かとも言われるだろうさ。

 できることは限られているんだがな……少なくとも戦うにあたっては、問題はなさそうだ。

 さて、やるか。スピードを上げてさらに高所へ飛ぶ。

 

「《誰もが安らげる世界のために》、極限倍率100000倍」

「ウウウウ!?」

「……悪いけど試運転ってことで、最大出力で戦わせてもらうよ」

 

 別に負けてはならない戦いではないが、アドミニストレータ用スキルの発動条件など、今の俺には関係ない。ガン無視して、邪悪なる思念をも追い詰めた極限倍率を発動する。

 ──痛みはない。服に仕込んだ能力の一つが、ちゃんと機能しているな。

 この服の能力の一端に満足しつつ、俺は上空から、唸るオークロードを見下ろして指差した。

 

「この出力ともなると、殴る蹴るだとダンジョンまで崩落させるからなあ。そら」

「ウグ──!?」

「そら、そら。ほい、終わり」

 

 指を軽く曲げて、そこからまっすぐに伸ばす。それだけで衝撃波は直線状のビームとなって、オークロードを貫いた。

 二発、三発目も問題なく貫く。一瞬で決着が付いた……当たり前か。

 痛みはやはりない。この服がなければ、やはり何もせずとも身体は崩壊していただろうけどな。満足して着地する。

 

 唖然として香苗さんが、カメラで俺を映しつつ近付いてきた。

 

「お見事、ですけど……! なんなんですか、それ! 公平くん、いつの間にそんな技を! やはりあの最終決戦なんですね!?」

「ええ、まあ。思い立ったのはつい先日で、使ったのは今が初めてなんですけどね」

 

 良いながら、ちょっとその場で一回転。コートがふわりと舞うのが、なんとなく良い感触。

 さておき、俺はざっくりとだが話し始めた。

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