第162話 死んだら人はおしまいなのだ

 戦闘スタイルについて情報交換したり、実戦でどういう順番で互いの戦い方を披露するか、連携はどうするか等々。

 実際に現地に赴く前、俺たちはWSO日本支部内にある、食堂にて昼ごはんを食べがてら打合せをしていた。

 まあ率直な話、そこまで詰めた話をしているわけでもないけど。

 

「モンスターがいるとは言え、D級相当ですからね。我々一人一人で当たっても、何ら問題なく最深部までたどり着けましょう」

「ですね。あくまで俺たち急造パーティの調整用に過ぎないんでしょうね」

 

 香苗さんの言葉に、ペペロンチーノをフォークに巻き取りながら頷く。そう、言ってしまえば今回の探査は、リンちゃんの決戦スキル引継ぎを除けば、俺たちの初顔合わせの場みたいなものだった。

 邪悪なる思念と戦う上で欠かせない二人──フェイリンちゃんとベナウィさんについて、俺は多少なりとも知っておく必要がある。親睦を深める必要もだ。

 

 そういう意味での、今回のパーティ結成とダンジョン探査でもあること。それは、穏やかに微笑むソフィアさんの表情からも何となく察することができた。

 あの人も結構、癖がありそうだな。にこやかな笑顔の裏で、結構色々と仕組んでそうな気がする。いや、あくまで直感だけど。

 

『その直感、あながち間違ってないかもしれませんねー……』

 

 と、脳裏に響く声。リーベだ、戻ってきたのか。

 システムさんと喧嘩したのか? 大丈夫?

 

『はい、ありがとうございますー……まさか、死んだはずのソフィアが生きていて、システムさんと何やら画策していたなんて。今でも信じられません』

 

 死んだ……邪悪なる思念に敗れたとは言っていたけど、死んだことになってたのか。

 じゃあ、さっきのソフィアさんは何なんだ? あの若々しさは、それに肉体は?

 

『どうやってかシステムさんは、彼女の精神体を確保していたみたいですねー。そしてどこからかボディを用意して精神体を嵌め込み、この世に蘇らせたことになりますー』

 

 蘇らせた……そんなこともできんのかよ、システムさん。

 神様じゃん。本当に神様じゃん。

 

『いえ、通常であれば決して許されない行為です。何らかの制限、あるいはリスクが伴っての擬似的な復活であれば、たとえばスキルなんかでも、再現できなくはないのかもしれませんけど……』

 

 ソフィアさんの蘇生にはそうしたものは感じられない、と?

 

『何よりもルールを遵守すべきワールドプロセッサが、まさかこんなことを……! いくら追い詰められていたからと言って、そんな無法がまかり通るなら、邪悪なる思念とやってることが大差がありません!』

 

 ずいぶんと激怒しているが、正直俺には、ソフィアさんを蘇らせたシステムさんの是非については何とも言えない。

 話を聞く限り相当、切羽詰まっていたみたいだし──ソフィアさんだって、死ぬよりかは生きててくれた方が良いと思うし。

 ただ、リーベの言うように許されない行為ってのも分かる。人は、いや人に限らず命はそれぞれに一つずつ、失われたらそこで終いのものだ。それが摂理と言うならば、それを歪めることはあまり、良くないようにも思う。

 

 心情的にはシステムさん、理屈的にはリーベ、ってところかな。俺としては、目の前で命が失われるのなら、何を歪めようができる限りは行う心構えだけれども。

 もう終わってしまった命を、目の前で蘇らせようとしている人がいた時……他の誰かの何かが犠牲になるというのなら、俺は絶対にその行いを止める。

 そこは間違いない。

 

『公平さんは、公平さんの思うとおりになさって下されれば良いですよー……ああ、そうそう。称号、更新されてますー』

 

 おそらく話が平行線になりそうなのを察してか、リーベが話題を変えてきた。

 デリケートな部分だから、俺としても助かるよなあ……考えながらもステータスを開く。いきなりの行動だから、リンちゃんもベナウィさんも目を丸くしていた。香苗さんだけだな、慣れたようにワクワクしているのは。

 ここまで来ると俺も慣れきったもんだから、特に反応せずステータスを見る。

 

  

 名前 山形公平 レベル271

 称号 海薙ぐ者と絆する人

 スキル

 名称 風さえ吹かない荒野を行くよ

 名称 救いを求める魂よ、光と共に風は来た

 名称 誰もが安らげる世界のために

 名称 風浄祓魔/邪業断滅

 名称 ALWAYS CLEAR/澄み渡る空の下で

 

 称号 海薙ぐ者と絆する人

 解説 災海滅却、光魔煌めき。三界機構が海を薙ぐ。これぞ参式・救世技法なり

 効果 半径1km以内にいる決戦スキル保持者を引き寄せる

 

 《称号『海薙ぐ者と絆する人』の世界初獲得を確認しました》

 《初獲得ボーナス付与承認。すべての基礎能力に一段階の引き上げが行われます》

 《……あなたはどうか、あなたの道を。すべてを知る時が今、来ました》

 

 

 これは、また……反応に困るというか、なんというか。

 どう考えてもベナウィさんの決戦スキルがきっかけだな、この称号。海薙ぐって何だよ。

 それにしても、システムさんの声がいつにもまして静謐さを含んでいる気がする。どこか、緊張しているというか?

 

『システムさんに対して、思うところは正直、ありますけどー……公平さんは公平さんが正しいと思うことをなさってください。そこに関しては、私もシステムさんも共通している願いです』

 

 リーベもどこか静かに言ってくるし。

 何か、不安になってきたよ〜。

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