転倒飛距離、だいたい3m。

朋樹

第1話 七転八倒

転石八沖、高校生。寝坊をして遅刻にならないよう全身全霊で走る彼の姿はまさにメロスを彷彿とさせる。全身は血まみれ傷だらけ、すれ違う人全員が鉄の匂いと事件性を匂ってしまう。


「転石?いないのか」

学校に着いた彼は教室から自分の名前を呼ぶ声に気づいたので、走るスピードを更に上げた。そして扉の手前で急ブレーキ。席にいち早く着こうとドリフト走行をする。走行のイメージはカジュアルレースゲーム。

「先生!遅れました!すいま」

扉の敷居に躓く。気づいた時には彼は窓の向こう側にいた。

ガラスが割れた数秒間、教室は沈黙していた。現実離れした事態を理解したクラスメイトたちは大騒ぎ、一斉に窓に駆け寄るが、目線の先には、全身を打ちつけられたはずの転石の姿は無かった。


瞬間、扉から転石の声がした。

「先生!遅れました!すいません!」

彼の頭から血と汗が吹き出す。頭の血が抜けて冷静になり、今度は敷居で躓かないように跨ぎ、すぐに席に着く。


振り返ったクラスメイト全員が幽霊でも見たような表情になり、数人が泡を吹いて気絶、また別の数人がこう叫んだ。

「きゅ救急車ーーッ!」


この日から転石は学校中に「七転八倒」というあだ名が呼ばれるようになった。本人は「まだそんなに転んではいない、せいぜい四回程度だ。」と不服だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る