第7話

「『劫火ごうか』!」


 魔獣が一瞬で炭と化す。


「『紫電しでん』」


 紫の雷が魔獣の体を貫く。


「『風ノかぜのやいば』」


 不可視の刃が魔獣を切り刻む。


「……グレン。あの子、とんでもない訳ありだったりしない?」


 アリスが背の青い大きなトカゲの群との戦闘に突入してからすぐ、ルーナはそんなことをグレンに尋ねた。


「どうしてそう思った?」


「私と同年代で、触媒なしであんな精度の魔法を使える人なんて、数えるくらいにしかいないわよ。当然、私はほとんどの名前を知っているわ。職業柄ね」


「……いつの間にそんなに目が良くなったんだ。昔はそこまで見えていなかっただろ」


 魔法、もしくは魔力を扱う技術は様々な要素から見ることができる。恐らく、一番簡単な指標が魔法の威力だろう。同じ魔法をとってみても、人によってその威力にも差が出る。

 アリスの場合、今回は崩落を避けるため意図的に威力を抑えているため、一般的ななものと違いはない。では、なにが違うのかというと、魔法陣の構築速度とその精度だ。それは、人間にしか分からない。


「私がいつまでも昔のままと思ったら大間違いよ。……それで、答えは?」


「想像通りだよ。ただ、詳しくは教えない」


 その答えにルーナはため息をついた。

 そして、呆れたような表情を浮かべると腰に手を当てた。

 

「そうやって仲間に頼らないで抱え込むのはグレンの悪い癖だからね」


 そう言うと、ルーナは魔獣を圧倒する戦いをしているアリスに目を向ける。

 ここまで四回の戦いを終えたアリスは、そのすべてを危なげなく無傷で立ち回っている。


「大トカゲ系の魔獣は力が強く、機敏で、鱗も固いから迷宮初心者にとっては難敵よ。中堅冒険者でも、単体で群れを相手にするのは簡単じゃない。確かにあの子の魔法の実力は超一流だから、それが出来ても不思議じゃない」


 魔法が得意だと自認するルーナから見ても、アリスの魔法の技術は卓越している。魔法陣の構築速度と魔法の精度、威力のどれをとっても一級品だ。


「魔法があれだけ使えるのに、あの子の戦闘技術がお粗末すぎる。こういう条件に当てはまるほとんどが、王族か高位の聖職者か調整体だけど、あの子はどれかしら?」


「……」


 正解だ、と言わんばかりのグレンの表情を見て、ルーナがもう一度ため息を吐いた。


「もう……本当に頑固なんだから。何かあったら頼りなさいよ。あなたには大きな借りがあるんだから、しっかりと返させて。分かった?」


「わかった。何かあった時は必ずルーナを頼るよ」


「よろしい。それじゃあ、あっちもそろそろ終わりそうだし。魔石を集める手伝いをしましょうか」


 そんなグレンの返事に、腕を組んだルーナが満足そうに頷くと、ちょうど最後の一体を倒したアリスの方へ歩き出した。


(昔は可愛い妹分だったのに……)


 親離れ。

 グレンはその言葉が頭に浮かんだ自分が馬鹿らしくなり、そんな自分を鼻で笑うと、ルーナの背中を追った。

 中層まではもうわずかだ。

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