第9話 宇宙の入院生活(1回目)
宇宙は今まで、「歩けない自分」を経験した事はなかったように思う。
こんなに「自助」すら出来ない自分を感じて、「不安」でいっぱいだった。
20代とか若い頃なら、ここまで考え込むという事もなかったと思う。
50代という老いを感じる年代だからこそ、手術をすると、
その後の回復の遅さを痛感させられている。
「気力」で乗り越えられる年代ではないな…と
思い知らされたのであった。
男性は特に、「病気」に直面すると、
女性よりも「弱い」と聞いた事があったが、
今、改めて宇宙はそれを痛い程、感じていたのだった。
―僕は、本当に以前のように
「歩ける自分」に戻れるんだろうか?―
宇宙はあまりにも暇な病院生活なので、思考だけが冴えて、
詩人のように、何度も何度も自分の脳裏の中で、
自問自答をしたりを繰り返していた。
朝起きて、ご飯を食べて、
寝ての単調な日々を送っていた。
宇宙の性質の中に、「充実感」ってものが無くなると、
萎えてしまう所があるのだ。
今の宇宙は、真っ暗闇のトンネルの中にいるような状態だった。
一方、凛子の方はまた宇宙からの一方通行lineに、
ため息をついていたのだ。
また引きこもってるのね…。大丈夫かな…。
―凛子はとにかく、宇宙を孤独にさせたくなかった。―
なので一日に一回はlineを送る事にした。
そこには何もメッセージは書かずに…。
今の時期にはこんな花が咲いているとか、
周りの景色とか…。ただ写真を送るだけにした。
宇宙は引きこもってる時は、凛子のlineを見る事さえない事も、
凛子には分かっていた。
それでも凛子は自分の為に、宇宙に写真を送った。
もちろん、「凛子の願い」を込めて…。
宇宙からは、今日は会社の今井さんが,
お見舞いに来てくれたとか、朝ご飯のメニューとか、
体温の温度が書いてあったりとか、日記のようなものが、
一日、一通来るだけだった。
今井さんとの話が書いてある文面を読んでいると、
長い時間、話し込む人で、
宇宙にとっては負担になっているように感じた。
今すぐにでも凛子は宇宙に会って、
元気づけてあげたい気持ちでいっぱいではあったが、
宇宙から「来て欲しい」と言われるまでは、
待とうと思ったのだ。
2週間程経った頃、少しずつ宇宙とやり取りが、
また出来るようになって来た。
なので凛子はとにかく宇宙に会いに行きたかったので、
宇宙にちょっと魔法をかけてみた。
凛子はある写真を送ってみたのだ。
その写真とは、凛子のポニーテール姿だった。
宇宙は凛子のポニーテールが大好きなのだ。
宇宙いわく、どの時代の男性もポニーテールは、
好きな髪型なんだよぉ〜って
以前、言っていた事を思い出したのだった。
宇宙は案の定…即!lineを返してきてくれた。
宇宙:『凛ちゃん、かわいい。近くで…見たいなぁ…。』
凛子は次にマリンルックの服の写真を送ってみた。
宇宙は、めちゃくちゃ…テンションが上りだした。
宇宙:『凛ちゃん〜。
ポニーテールにマリンルックで会いに来て〜。』
凛子は、ヨッシャー!って、ガッツポーズをした。
凛子:『うん、可愛くオシャレして行くね。待っててね。
宇宙の好きなタマゴパンも買っていくね。』
宇宙は、なんだか…とってもエネルギーが湧いてきた。
以前…リハビリの先生が、『目的意欲』
って言葉を教えてくれた事を思い出したのだ。
凛ちゃんと一緒に、ちょっとでも良いから、
歩きたいと思ったのだった。
宇宙は周りを見渡した…
その時…おばあさんが歩行器を使って歩いて居たのだ。
宇宙は、これなら出来るんじゃないか?と思い始め、
ナースコールをして、歩行器を用意してもらった。
凛ちゃんが来るまでにコツを覚えて、
びっくりさせてやろう!っと宇宙は思い、
俄然やる気が湧いてきて…心もワクワクして来たのだった。
凛子はそんな事は全く知らず…
宇宙ってこんな感じが喜ぶかな?
とか…その事ばかり考えてオシャレに、
念を入れていたのだった。
『わぁ〜もう、こんな時間…急がなくっちゃ。
でも、ゆっくり落ち着いて安全運転して行かなきゃ〜。』
車で…1時間くらいかかる距離なのだが、
凛子は、気持ちがウキウキしているので、
いつの間にかに病院に着いた気がしたのだった。
『えっとぉー確か…305号室だったよなぁ…。』
プレートを見ると『石田宇宙』と書いてあった。
なんだか急に凛子はドキドキし始めたのだ…。
宇宙は一番奥のベッドだった。
おとなしくお布団の中で眠っている。
そぉっと凛子は声をかけた。
凛子:『宇宙〜。』
宇宙:『ムニャムニャ…
あっ、凛ちゃん来てくれたんだね。』
凛子:『うん。支度に時間が、
かかって少し遅くなっちゃってごめんね。』
宇宙:『大丈夫。わぁ〜生凛ちゃんだぁ〜。
マリンルックもポニーテールも可愛いよぉ。』
凛子は宇宙が大きな声で興奮して言うので…照れてしまった。
凛子:『ありがとう…ね。』
凛子は思ったよりも宇宙が元気そうで安心したのだった。
すると…宇宙が…少し二人で散歩しようよって言い出した。
凛子は…。
『えっ?歩けないって、言ってなかった?』
って驚いて声が大きくなってしまった。
宇宙は、『大丈夫』って言って、
歩行器を使って器用に歩き始めた。
凛子は、本当に物凄くびっくりしてしまった。
凛子:『宇宙、凄いね!
頑張って練習してくれたのね。めちゃくちゃ嬉しいよぉ。』
宇宙は照れくさそうに…鼻をこすっていた。
宇宙との散歩はとっても楽しかった。
宇宙が途中…『トイレ』に行きたくなり…
多目的トイレに入るまで不安だから、
付き添って欲しいと言われ、内心…凛子は、緊張していた。
でも、転んだりしても心配なので途中まで付き添ったのだった。
すると…宇宙が急に演説をし始めて、
凛子は笑いが止まらなくなったのだった。
宇宙:『こんな年寄りの為に、若いあなたに、
こんな付き添いを頼んで申しわけない。』
『歳を取ると…ほんと人に迷惑ばかりかけてしまってるよ。
でも、こうやって若い人に、
力を貸してもらえて私しゃ〜幸せな年寄りですわ。
本当にすまんのぉ〜。ありがたやぁ〜。』
凛子は宇宙がこんなに面白い人とは思ってなかったので、
また新しい側面を、知る事が出来て嬉しかった。
それと宇宙が凛子の緊張感を和らげてくれる為に、
笑わせてくれようとしてくれた優しさにも、
感激したのだった。
宇宙も、また凛ちゃんのおかげで、
歩行器を使う意欲も芽生えさせてもらって、
見事、散歩までする事が出来た。
ー凛ちゃんは僕の女神だ!ー
と思ったのだった。
宇宙は、一歩前に進めた気がした。
この調子で少しずつ、やっていこう…
そう宇宙は思えて来たのだった。
しかし…宇宙の人生は、
いつも七転び八起きなのだ…。
またもや…次なる試練が…
宇宙に訪れるのだった…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます