第5話

――パーティーの当日――


「トリオールの奴、パーティーの当日まで詳細はお話しできませんと言っていたが、本当に最後の最後まで何も話さないとは…。まぁ、僕らへのサプライズのつもりなのだろうから、目をつむってはやるが…」

「ロッド様、早くパーティーを始めましょう!私この日を心から楽しみにしておりましたの!」


トリオールはうきうきな様子でロッドの後ろから近づくと、心からうれしそうな口調でそう言葉を発した。

ロッドはそんな彼女の雰囲気を堪能しつつ、明るい雰囲気でこう言葉を返す。


「そうかそうか、君がそこまでうれしそうにしてくれているのなら、今日のパーティーの開催を決定して良かった。準備はトリオールが当たってくれているそうだから、まぁ特に大きな問題も起こらない事だろう。ステラ、今日は心行くまでパーティーを楽しんでくれたまえ」

「まぁ!ありがとうございます!」


パーティーの雰囲気が二人を包み、その関係が良いものであるかのようなムードを演出する。

しかし、実際に2人が心の中で考えていることはすでに大きくすれ違っているという事に、ロッドは気づいてはいなかった。

そしてそんな二人の思惑の違いに付け入るかのような動きを、トリオールが見せ始めていく…。


「ロッド様、ステラ様」

「おぉ、トリオール。今日はご苦労だったな」

「お会いしたかったですトリオール様♪」


分かりやすくご機嫌になるステラであるものの、ロッドはそんな彼女の態度に違和感を抱かない。

一方、トリオールの方はなにやらいぶかしげな表情を二人に対して向けている様子…。


「…ロッド様、今日はこのパーティーという場を準備を私に命じていただき、誠にありがとうございます」

「お前に任せるのは当然だとも。僕の部下の中で言えば最も僕の事を理解している人間ではないか」

「そうですよトリオール様、ロッド様はいつもおっしゃっておりました。トリオール様の働きなしに、今の自分の存在はないと」


なにひとつ偽りのないその言葉。

しかし、それを素直に受け止められるほどの純粋さをトリオールはすでに持ち合わせてはいなかった。


「しかしロッド様、私はもうすでにその言葉をうれしく思える段階にはいなくなってしまいました。他でもない、あなたが私の事を裏切ったからです」

「…??」


…突然にトリオールの口から発せられた不穏な言葉に、ロッドは一瞬自分の耳を疑った。


「な、なにが言いたい??なんのつもりだ??」

「ロッド様、あなたは以前私におっしゃいました。ルミア様の事を私の隣においてくれるよう、その全力を尽くすと。しかし、現実はそれとは正反対でした。あなたはルミア様の事を思っての行動を何も見せてはくださらず、私の夢をわざと踏みにじるかのような言動を繰り返されました。…そしてその果てに、ご自身はちゃっかりとステラ様と新しい関係を築かれようとしておられる。これを裏切りと言わずして、一体なんと言えばいいのでしょう?」

「ちょ、ちょっと待て!!落ち着けトリオール!お前が彼女の事を思っているのは僕もよくわかっているとも!だからこそ僕は彼女の事を婚約破棄して…」

「よくお聞きくださいロッド様。このパーティーはお二人の関係を祝うものなどではありません。ここには貴族家を始め、この国に住まう様々な権力者を集めることに成功いたしました。もちろん、お二人のご家族も含めて」

「な、なにをするつもりだ…!?」

「この中で、あなたのやったことをすべてそのままお話しすることにしました。もっとも、もうすでにほとんどの方はすでに事情を把握されております。私は彼らに送った招待状の中に、今までのいきさつをすべて記した文章をこの手でしたためました。…これからこの場に訪れる人々は、決してあなたたちの事を祝うためにここに来るのではなく、あなたたちの事を笑うためにここに来ることでしょう」

「な、なんですって!?」


…ステラはその言葉に驚きを隠せない。

というのも、それは自分たちの関係をばらされることに驚愕したからではなく、トリオールの行動原理の中心がルミアであったからである。


「どういうことですかロッド様!!どうしてトリオール様はルミアなんかの事を!!」

「ちょ、ちょっと待て!!ステラ、君は僕の事を愛してくれているんだろう!?なのにどうしてトリオールの事などを気にするんだ!!」

「ロッド様、もう悪あがきはおやめになられたらいかがですか?これ以上言い逃れをしようとしても苦しいだけですよ?」

「違うと言っているだろう!!僕は本当に最初から…」

「こたえてくださいロッド様!!あなたはこの私にも嘘をついていたのですか!!だったらあなたが私にかけてくださった愛の言葉は全てうそだったのですか!?」

「それを言うなら君の方だろう!君は僕よりもトリオールの事が好きだったんだろう!?」


…完全に収拾のつかなくなってしまったこの状況。

その雰囲気はパーティーの開会式のような面白みを演出する結果となり、最終的に3人は集まった人々から非常に奇異な目で見られることとなるのだった…。

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