第3話 婚約破棄を破棄、処刑します


「おしカプとは、なんのことだ? カデル」

「いえ、私でも知らない言葉です。兄上」


 

 この”マジーナ”王国の第一王子、アラン・ウィリアムズ。

 燃えるような赤い髪が印象的で、その色と同じく性格はとても積極的だ。

 何事も考えずに突っ込んでいくタイプ。

 悪く言えば、ツンツンなアホ王子ね。


 その兄とは対照的なのが、第二王子、カデル・ウィリアムズ。

 碧く長い髪を首元で括っており、中性的な顔立ち。

 アラン王子とは違い、本ばかり読んでいる静かな男子。

 個人的には、眼鏡をかけているのでめっちゃ推しているキャラよ。


 その二人が私の目の前に現れたのよ?

 発狂するに決まっているわ。


「失礼ですが、ビーエル公爵は、婚約破棄を受理されると思われますか? ユリ様」


 と眼鏡を光らせるカデル。

 

「へ? あ、私のことか……」


 ダメね、”CV”が”スダケン”さんだったから、聞き入ってしまったわ。

 てことは、兄のアラン王子は……もしかして?


「おい! カデル! そんなこと、いちいち聞く必要があるのか! 私は第一王子だ。父上である国王の次に偉いんだぞ!」


 うわっ……相変わらずのアホ王子。

 でも、声が良いのよね。だって、”CV”が”松たん”だもの……。

 鼓膜がずぶ濡れよ。


「兄上、またそんな自分勝手なことを……。それに、オリヴィア様のお気持ちは、考えておられるのですか?」

「もちろんだとも! 私が必ずオリヴィアを幸せにしてみせるっ!」


 二人が対峙している間、私は思い出していた。2年前に現実世界で作った同人誌のことを。

 作品名は……。

 『第二王子は、深夜に兄上の部屋に忍び込む』

 だったわね。

 

 もちろん、18禁のBL本。

 けっこう人気で、コミケではすぐ売り切れたからお客様に迷惑をかけたわ。

 もっと刷っておくべきだった……。

 

 思い出したら、興奮してきた。

 爆発しそう……。


「あーーーっ! もう我慢できない! 早く絡めたいわっ!」


 私の叫び声に驚く、二人の王子たち。


「な、なんだいきなり……?」

「カラメルとは?」


 呆然としている二人を無視して、私はアラン王子とカデル王子を横に並ばせて、無理やり身体をくっつける。

 そして、少し後ろに下がると、自身の指でカメラのポーズをとった。

 さながら、映画監督の気分だ。

 

「いいねぇ~ 二人とも、もっと寄ってよぉ~ キスしてもいいよ?」


 私の脳内では、もう既に二人は官能の世界に入っている。


「私がなぜ弟のカデルと、き、キッスなどしないといけないのだっ!」

「そうですっ! ユリ様。兄上に婚約を破棄されて、ショックを受けているのでは?」

 

 心配するカデルを無視して、抑えきれない煩悩を彼らに押しつける。


「ヘヘヘッ……。ねぇねぇ、二人ともさ。今どんな気分? あなた達兄弟は、私の作品でオリヴィアを置いてきぼりにして、一晩中愛し合っていたのよっ!」


 それを聞いたアラン王子は肩を震わせて、何かを必死に堪えているようだ。

 髪の色みたいに、顔が真っ赤だわ。


「ぶ、無礼者! ユリ・デ・ビーエル、貴様は処刑だっ!」

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