第37話

深淵のダンジョン遺跡に足を踏み入れた俺達三人は、迷路のように複雑に入り組んだ通路が、彼らを迎え入れるかのように静まり返っていた。


 リリスが淡い光を灯す魔法を使い、先を照らしてはいるものの、光は遠くまで届かず、辺りは不気味な静寂に包まれていた。


「まずは中間の安全地帯を目指しましょう。ここで迷って消耗してしまったら、先に進むのが難しくなるわ」


 リリスが慎重に地図を見つめながら言った。


「そうだな…...少しでも楽ができるうちに進みたい」


 俺が同意すると、ノエルもまた頷き、緊張を帯びた表情で前方を見つめていた。


「ただ、簡単にはいかない気がするわ。ここはそういう場所だもの」


 三人は慎重に歩を進めたが、通路はまるで生きているかのように次々と方向を変えるかのごとく曲がり、時には行き止まりに突き当たった。


 行く手を遮る無数の分岐と罠に翻弄され、俺達は何度も同じ道を行き来しているような感覚に陥った。


「こっちの道で合ってるのか?」


 俺が迷いを口にすると、リリスも不安そうに地図を見返す。


「……ごめんなさい、迷路の構造が複雑すぎて、確信が持てないの」


 その時、不意に足元から鋭い音が響き、ゼランがとっさに飛び退く。


 次の瞬間、彼がいた場所に鋭い棘が飛び出し、ゼランが冷や汗を流した。


「くそっ、こんな罠まであるのか…...」


「遺跡が私たちを試しているようね。油断すると命取りになるわ」


 ノエルが静かに言い、すぐに矢を構えて周囲に注意を払う。彼女の言葉には冷静な覚悟が宿っており、その言葉にゼランとリリスも気を引き締めた。


 しばらく進むと、今度は通路の角からシャドウリザードが静かに姿を現した。


 暗闇に溶け込むように静かに動き、まるで三人を挑発するかのようにこちらを見つめている。


 リリスが光を強めてその姿を照らすと、俺が剣を構えて素早く突進した。だが、シャドウリザードは壁際へと飛び退き、影に紛れて一瞬で姿を消した。


「逃げたか?いや、まだいる!」


 ゼランが警戒を怠らずに周囲を見渡すと、影から複数のシャドウリザードが現れ、三人を囲むようにじりじりと近づいてきた。


 ノエルが鋭く矢を放ち、リリスが魔法で援護するも、リザードたちは素早く影に潜り、次々と位置を変えて翻弄してくる。


 ゼランも懸命に動き回りながら応戦するが、シャドウリザードの素早い動きに思うように攻撃が当たらない。


「くそ、逃げ足が早すぎる!」


「ゼラン、焦らないで。私たちも位置を固定して戦いましょう」


 リリスが冷静に指示を出す。


 三人は互いの背中を守るように円陣を組み、俺が前衛、ノエルが遠距離から狙い、リリスが魔法でサポートする形を整えた。


 しばらくしてシャドウリザードたちの動きが鈍り始め、ゼランが隙を見て一撃で仕留めると、リリスとノエルもタイミングを合わせて攻撃を加え、ついにリザードたちを倒し切った。


 だが、三人の息は上がり、疲労がじわじわと体に迫ってきていた。


「まだ安全地帯には程遠いのか?」


 俺が肩で息をしながら言うと、リリスが地図を再確認する。


「もう少しで中間地点のはずだけど、道中はまだ何が待っているか分からないわ」


 その時、石壁にひび割れた隙間から、低い唸り声が響き、巨大なストーンゴーレムがゆっくりと動き出した。


 ゴーレムは鈍重な動きだが、その硬い体はどんな攻撃も受け付けないように見えた。


 ノエルがすかさず矢を放つも、石の巨体に傷一つつかない。


「これは厄介ね…...ゼラン、まずは奴の動きを止められない?」


 ノエルが提案すると、俺は風魔法を使ってゴーレムの足元に風刃を送り、少しでも動きを鈍らせようと試みる。


 しかしゴーレムは耐え、鈍い腕を振り下ろしてきた。


 ゼランがその攻撃を避け、リリスがゴーレムの隙を突いて魔法を放つと、ゴーレムの防御がわずかに緩み、ノエルがその一瞬の隙を突いて弱点に矢を射た。


 矢が見事にゴーレムの関節部に突き刺さり、巨体が一瞬バランスを崩す。


 俺がさらに風魔法でその隙をついて一撃を叩き込み、ついにゴーレムを崩壊させた。


「ようやく…...少しずつ進めている実感が出てきたわね」


 リリスが息を整え、ノエルも静かに矢を収めて前方を見据える。


「だが、ここはまだ序章だ。安心できる場所に辿り着くまで、気は抜けない」


 再び歩を進め、通路を曲がりくねりながら進む。


 彼らの前に現れるのは次々と変わる敵の姿、シャドウリザードにスケルトンウォリアー、さらにはグリムスピリットといった幽体の魔物まで現れ、三人は幾度も強敵と対峙し、戦略を練り直しながら戦いを繰り広げた。


 疲労が溜まる中、ようやく暗い通路の先に微かな光が見え始めた。それは安全地帯を示す休憩所の灯りだった。


 リリスが安堵の息を漏らしながら扉を押し開けると、そこには石のベンチや簡素なテーブルが設置され、かつての冒険者たちが刻んだ無数の痕跡が残されていた。


「ここで休めるのね、無事たどり着けて良かったわ」


 リリスが座り込み、俺も剣を下ろして深く息をついた。


「ギリギリだったが、これで一息つけるな。次に進む準備も、ここで整えられる」


 俺がそう言うと、ノエルも軽く肩を揉みほぐし、疲れた表情で一息ついた。


 三人は互いの顔を見合わせ、疲労を忘れるように笑みを交わした。


  野営の準備をしながらステータスを見るとレベルが最大まで上がっていた。


 名前: ヴァルカマンティス

 種族: カマキリ

 レベル: 160 / 160

 ランク: B


  道中かなりの魔物を倒したしそれで最大まで上がってたみたいだ。


 次は何に進化しようかと選択肢を見てみる。


 どれも強そうだ、ドラコニクスマンティス、インフェルノマンティス、ルミナティス、ボルトティス。


 ドラコニクスマンティス


 竜の力を持つカマキリの進化形で、圧倒的な攻撃力と防御力を誇る。

 特徴: 鱗のように硬い甲殻と龍翼を持ち、短時間の飛行や強力な火や雷のブレス攻撃が可能。強大な力と威厳ある風貌で、敵を圧倒する戦いを得意とする。


 インフェルノマンティス


  地獄の炎を宿したカマキリの進化形で、火属性の攻撃を駆使する。赤と黒の甲殻が特徴で、炎を纏った鎌で敵を焼き尽くす。周囲に火を発生させて燃焼ダメージを与え、継続的に敵を弱らせる戦法が得意。


 ルミナティス


 光の力を持つカマキリの進化形で、回復と防御に優れた形態。 光を放つ白銀の甲殻を持ち、聖なる力で仲間をサポートする。光の刃で邪悪な敵に特効ダメージを与え、聖なるバリアで味方を守ることができる。


 ボルトティス


 雷の力を宿したカマキリの進化形で、素早さと瞬発力に特化している。青い電光を纏う黒い甲殻が特徴で、雷撃を使った高速の奇襲攻撃が可能。敵を麻痺させる電撃効果で隙を作り、一撃離脱の戦法を得意とする。


 今必要なのはアンデットの弱点の光属性が使えるルミナティス一択しかないだろう。


 進化する前に二人に言ってからにしよう。


「リリス、ノエル、今から俺進化するんだけど、ここは本当に安全なんだよな?」


 その言葉に二人は驚き、リリスが少し戸惑いながらも尋ねた。


「進化するのはいいけど、進化中は眠りにつくんでしょう?どれくらいかかるの?」


 俺は少し気まずそうに視線を逸らしながら、「たぶん、丸一日くらいかかるかもしれない」と答えた。


「じゃあ、明日の朝まで見守らないといけないのね。でも、ここは安全地帯だし、私たちに任せて安心して進化しなさい」


 ゼランは頷き、感謝の気持ちを込めて二人に微笑んだ。


「ありがとう、リッチエンペラーに対抗するために、光の力を持つ進化形態、ルミナティスというのになるつもりだ。この力なら対抗できるはずだ」


 リリスも穏やかな笑みを浮かべながら答えた。


「聞いたことない魔物……わかったわ、ゼラン。私たちがここでしっかり見守るから、進化に集中して」


  ゼランは深呼吸をし、進化の準備を整えてから二人にもう一度頷きよろしく頼むと言うと、ゆっくりと目を閉じて眠りにつくように進化を開始した。


  瞬く間に彼の体は光に包まれ、その場に横たわるように深い眠りに入っていった。


 リリスとノエルは静かにその様子を見守り、しばらくしてリリスが呟いた。


  「進化に一晩かかるなんて…...普通の魔物じゃ考えられないわね」


「そうよね。でも、ゼランがこの力を得たら、リッチエンペラーにもきっと対抗できる。私たちはただ、無事に進化が終わるのを待つしかないわね。」


 二人はその夜、交代で見張りをしながら俺を見守り、朝を迎えた。


 夜明けの光が差し込むころ、俺を包んでいた光が徐々に収まり、姿が新たな進化形ルミナティスとして現れた。

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