第28話

アンデッドがすべて倒れた後、森は不気味な静けさを取り戻していた。


 俺たちの息遣いだけが聞こえる中、リリスが深く息をついて杖を下ろした。


「これで全部かしら…。封印の力がこれほどまでに弱まっていたとは…」


 リリスは疲れた様子で、周囲を見渡しながら呟いた。ノエルも剣を納め、ほっとした表情を見せたが、その目にはまだ緊張感が残っている。


「リリス、ここまでアンデッドが現れたとなると、封印は限界だわ。何者かが間違いなく封印を破壊しようとしている…」


 俺も剣を下ろし、二人の様子を見つめた。封印の場所は異様な雰囲気を漂わせているが、今は静かだ。


 だが、リッチエンペラーという存在の危険さを考えると、次の行動が重要になる。


「次はどうする?封印を強化する方法はないのか?」


 俺はリリスに尋ねたが、彼女は首を振った。


「この封印は、900年前に賢者が命を懸けて作り上げたもの。それを強化するには、同等かそれ以上の力を持つ者が必要なの…私たちの力ではどうすることもできない」


 リリスの言葉に、俺は少しの無力感を感じた。賢者の力を再現できる者がいなければ、この封印を維持することは不可能に近い。


「じゃあ、どうすればいいんだ?このままじゃリッチエンペラーが復活してしまうんじゃないのか?」


 ノエルが少し考え込んだ後、厳しい表情で言葉を続けた。


「ギルドに戻って報告し、父たちに協力を仰ぐしかないわ。私たちだけではこの問題を解決するのは難しい。族長たちの力を借りれば、何か手を打てるかもしれない」


 リリスもそれに同意するように頷いた。


「族長たちの協力が必要ね。父たちなら、賢者の知識や封印に関する秘術を伝えているはずだから」


 俺たちは互いに顔を見合わせ、今後の行動を決めた。


 リッチエンペラーが完全に復活する前に、封印を再度強化しなければならない。しかし、それにはエルフとダークエルフの協力が不可欠だ。


「よし、ギルドに戻って報告しよう。そして、すぐに族長たちに協力を依頼する」


 俺は二人に向けて力強く言い、リリスとノエルも決意を新たに頷いた。


 アンデッドは倒したが、まだ本当の戦いは始まっていない。俺たちは次の一歩を踏み出すため、すぐにギルドへと向かうことにした。


 その後、俺たちはギルド本部に戻り、イリオスにすべてを報告した。イリオスは俺たちの話を黙って聞きながら、深く頷いていた。


「やはり、封印は弱まっていたか…。族長たちに協力を仰ぐのは賢明だ。リッチエンペラーが復活する前に手を打たなければならない」


 イリオスの目には深い憂慮が宿っていた。リッチエンペラーという存在が、この世界にどれだけの影響を与えるか、彼もまたその恐ろしさを理解しているのだろう。


「奴らが動き出したか…」


「奴ら?」リリスが疑問の声を上げた。


「リッチエンペラーを崇拝するカルト教団だ。彼らは古代から存在しているが、長い間表に出てくることはなかった。しかし、数百年の眠りから目覚め、今再び動き出したようだ」


「カルト教団…?」ノエルは険しい表情を浮かべた。


「そうだ。彼らはリッチエンペラーが封印された後も、その力を崇拝し続けてきた狂信者たちだ。長い間、リーダーであるアンデッドロードが彼らを率いている。奴は、リッチエンペラーの封印を解いて、不死の帝国を復興させようと目論んでいるんだ」


 イリオスの説明に、俺たちは驚きと共に緊張を感じた。もし本当にそんな勢力が動き出しているなら、リッチエンペラーが復活する前に彼らを止めなければならない。


「そして、奴らが封印を弱めるために、アンデッドを利用しているのは確かだ。アンデッドの数が異常に増えているのもそのためだろう。リーダーのアンデッドロードは、封印に対抗する古代の儀式を進めているはずだ。これを阻止しない限り、封印は完全に破壊されるだろう」


「古代の儀式…」リリスは眉をひそめ、考え込んだ。「私たちの力だけで、彼らの儀式を止めることは可能なの?」


「容易ではない。奴らの幹部たちも相当な力を持っている。リッチナイトやネクロマンサー…彼らは単なるアンデッドではない。リッチエンペラーの復活を阻止するには、まずその幹部たちを倒さなければならないだろう」


「リッチナイト…」


 ノエルが険しい顔でつぶやいた。


「そんな敵が待ち構えているなんて、今までの戦いがただの前哨戦に過ぎなかったんだ」


「でも、待っているだけではいけない。私たちが動かなければ、彼らはますます封印を弱めていくわ。今こそ動く時よ」リリスが強い決意を込めて言った。


 俺はリリスの言葉に同意し、剣を握りしめた。敵は強大だが、リッチエンペラーの復活を防ぐためには、俺たちが全力を尽くすしかない。


「イリオス、次の行動はどうすればいい?」


「まずは、カルト教団の本拠地を突き止める必要がある。そのために、封印の結節点が攻撃されている場所を調査する。そして、奴らが何を狙っているのか、確実に見極めなければならない。幸い、我々も情報を集めている。リリス、ノエル、君たちの一族の協力も必要だ」


「もちろん、私たちも族長たちに話して、すぐに協力を要請するわ」ノエルが答えた。


「族長たちがこの事態を放っておくはずがないわ。私たちの祖先も、この封印を守るために命を懸けてきたのだから」リリスも力強く言った。


「よし、決まりだ。私たちはまず、封印の結節点を守り、奴らの儀式を阻止するための準備を進める。そして、幹部たちを倒すために、全力を尽くそう」


 俺たちはイリオスの指示に従い、次の行動を決めた。


 リッチエンペラーの復活を阻止するための戦いが本格的に始まろうとしていた。


 カルト教団の本拠地を見つけ出し、彼らの野望を打ち砕くため、俺たちは新たな決意を胸に、行動を開始する。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る