第3話「僕と共に」

飛び掛かってくる狼人間とそれを躱すように転がり扉の中に入る。

そのまま、僕はこの部屋の主を見た。

真っ赤に輝くその深紅の瞳、紅色の鎧姿の騎士がそこに佇んでいた。


「深紅の騎士」

『・・・よもや、童子がこのような所へと来ようとは』

「あ、意思の疎通が出来るんですね」

『我もまた、他の世界よりダンジョンに飲まれた者故にな、しかし──』

『グルルッグラアアァァッ』


ガキィッと後ろから金属音と共にいつの間にか深紅の騎士が目の前に居た。


『蒼眼の人狼、よもやお前まで居ようとは』

『オオカミ、ゴロシイッ!!』


あっ、お知り合いだった?

でも、何で今、助けてくれたのだろうか?


『何故、助けたかと言う顔であるな』

「あ、はい、ダンジョンのモンスターやボスは基本問答無用で襲いかかってくると習いましたから」

『我は騎士である』

「えっ?」

『弱き者を助け、主に剣を捧げし者なり』

『グルルルルッ』

『それ故に』


キラリと三度、光が煌めいたかと思うと

狼人間が胸元を3ヶ所赤い筋をつけられて壁際まで吹き飛ばされた。


『我は守護者と呼ばれていた』

「いや、強っよ」


えっ?こんなに強いのにチュートリアルボスとか嘘でしょ?!

ゲームでは隙の大きな攻撃しかしてこなかったから避けやすいし、動きも遅かったからぼこぼこに出来たのに、もしかして、少年少女達だからわざとやられてたのかな?


「えっと、僕が弱いから助けてくれたの?」

『子供はいつの世も宝である、親御に悲しませたりはさせぬ、あやつの魔の手より我が守ろう』


うん、めっちゃくちゃ良い人、やっぱりゲームではわざとやられてた感がありますな。

これなら僕は死ななくてすむかもしれない

そんな風に希望が持ててくるが、狼人間の方へと視線をやると、


嗤っていた。


『ゲラゲラゲラゲラゲラゲラッ!!』

『・・・何が可笑しいのだ蒼眼の人狼よ』

『オオカミゴロシ、ソノエサハ、クエバ、

ソトニデラレルヨウニナル、トクベツナエサダ』

「え?」

『何を馬鹿な事を、妄言を吐くな』

『デタクナイノカ?コノハコカラ?』

『・・・・・』

『オレハデタイッ!コンナハコノナカデイタクナイッ!コノハコノイシガオシエテクレタ、ソノエサハタマシイサエモトリコメバデラレルヨウニナルト!ダカラ──』


狼人間が体勢を低くして身構える。


『イラナイナラ、オレニヨコセェッ!』


交わる鋭い爪と白銀の剣、火花が散り攻めぎ合う。


『オオオオオォォッ』

『ぐっ!』


一合二号と爪と剣が火花を散らしながら打ち付けあっている。


僕の目では全く攻撃がどう行われているのかわからない程速い、数えきれないくらい数分間で爪と剣で切り結び続けている。

僕はゆっくりと狼人間と深紅の騎士から離れて見守っている。

狼人間が言っていた、僕を取り込めばダンジョンの外に出られるようになる。

ダンジョンの意思が狼人間に教えたと

ダンジョン、お前は僕の何を知っているんだ?

僕は、探索者としての才能が無いんじゃないのか?

僕の力って?


考えを回らせているとドガンッと凄まじい音が響いてきた。

僕は慌てて視線を狼人間と深紅の騎士の戦っている方へと戻すと狼人間が深紅の騎士を壁に叩きつけていた。


「さっきまで互角だったのに!?」


狼人間の方を見ると何やら黒いモヤのようなものが纏わり付いている。


「もしかして、アレは」


ゲームでもあったギミック、ダンジョンの祝福だ。

それはプレイヤーではなく、モンスターにだけ起こるダンジョンの加護、祝福を受けたボスモンスターはその強さが一気に跳ね上がる


『ゲラゲラゲラゲラッ!ダンジョンノイシハオレノミカタノヨウダナァ!オオカミゴロシィ!』

「深紅の騎士!」

『ウグッ』


倒れている深紅の騎士の方へと悠然と歩いていく狼人間、対して深紅の騎士は剣を掴んではいるものの倒れ伏してしまっている。

そして、狼人間が深紅の騎士のところまでたどり着くとその身体を踏みつけた。


『アァ、トテモキブンガイイ!チカラガワキダシテクルゾ!オオカミゴロシィ、ザンネンダッタナァ、アノエサハオレガモラウ、ソトニデルノハオレダァ!』


爪を更に鋭くさせて振り上げる狼人間

僕はそれを見て、咄嗟の行動に出てしまった。


「やめろぉっ!!」


力の限りその振り上げている腕に飛び掛かる

びくともしないが邪魔だったのか振り上げた腕を左右に振り僕を落とそうとする。


『エサハジャマヲスルナ!オオカミゴロシハオレニマケタ!コレカラサキニコイツヲクッテヤルンダ!』

「離すもんか!僕はっ!弱いけどっ!

助けてくれようとしてくれた人を黙って見殺しになんてしないっ!

死ぬのは怖いけど!だからって何もしないで死ぬのはもっと嫌だっ!!」

『ジャマダァッ!!』


ブンッと振られて手が離れる地面に叩きつけられるがすぐに起き上がり深紅の騎士に再び振り上げた腕を見て走って行った。


『シネエェッー!オオカミゴロシィッ!!』

「やめろーーーっ!!」


ドスッ


ビシャッ




『・・・うっ、この匂いは、血?』

「・・・・ごぼっ」


ビシャッと深紅の騎士のヘルムに僕の口から溢れ出す血が掛かる。


『っ!?童子よっ!?何故、何故我を庇っているのだ!?』

「あ、はは 、つい、身体が間に入っちゃったや」

『ハアッ!』


剣の一閃と共に狼人間の爪が砕かれる。


『グアアッ』

『スキル《杭打ち》』


剣の平を返して狼人間の頭を強く打ち付ける

そのまま壁に激突してビクビクしながら倒れ込んでいる。


『童子よっしっかりせよ!』

「ぐうっ」

『確か魔法薬が、これを口に少し含め』


青い液体の入った小瓶の口をあけてそっと

僕の口へと垂らす、傷口が熱くなっていく。


「うぐっ」

『傷が深すぎる、血止めは出来たがここから出てヒーラーに見せなければ、っと、ここは我の世界の外では無かったな、となれば医者か、しかし、我は出られんどうすれば良い!ダンジョンよ!ダンジョンの意思よ!

童子を助けたいのだ!ダンジョンよ!』


─────■■■■■■■■─────


『何?』


───■■■■■■■■■■■■■───


『・・・・・』


─■■■■■■■■■■■■■■■■■■─


『そうか、そうであったか』

「うっ、し、深紅の、騎士?」

『・・・我、主を見つけたり』

「ううっ?」

『《王の器》よ、ここに我は誓約を結ばん』


僕と深紅の騎士の足元に魔方陣の様なものが光輝く


『我が名は

[カサンドラ・フォン・ルドベンタキア]

ルドベンタキア王国第一王女にして

赤騎士の称号を賞与されし者なりここにっ

童子よ、名前は?』

「うっ?れ、レイ」

『ここに、《王の器》たる者レイと主従の契りを結ぶ、主の剣となり盾とならん』


カチャリと兜を外した。

その風貌は煌めく白金の髪を短くショートカットにしていて、凛々しい目筋に麗しき深紅の瞳、唇は淡いピンクに色ずいている。

まさしく美貌の騎士であった。

深紅の騎士は僕の手を取り指先にキスをした。


「レイ、許可を」

「許可、します」


魔方陣の輝きが激しくなり胸元が焼け付くように熱くなる。


「うぐうっ!」

「ぐっ!我慢してくれ、すぐに収まるだろう」

「はあ、はあ、深紅の、騎士?」

「解るか?我とレイとでパスが繋がったのを」

「・・・暖かい、すぅ」

「気を失ってしまったか」


マントを外してその上にレイを横たわらせる

そして、意識を取り戻した蒼眼の人狼を見据えた。


『グアアッ!コロスッ!クイツクスッ!』

「やれるものならば」


黒いモヤを纏って突進して来る蒼眼の人狼に対してのカサンドラは片手で剣を構えただけで動かない、後ろにはレイが寝かされている。

先程も吹き飛ばされた攻撃であったが、

レイとの主従の契りを交わしたカサンドラの力は───


隔絶していた。


「スキル《剣閃》」


黄金のオーラが白銀の剣に集まり目にも止まらぬ程の一閃が蒼眼の人狼の首に放たれた。


『ア?』


ズシャアッゴロンゴロゴロっ


『ソンナ、イヤダ、シニ、タク、ナ』

「世界に還れ」


そのまま黄金のオーラを纏っている剣を突き立てるとモヤと共に消えていった。


「せめて、魂はもとある世界に還れると良いな蒼眼の人狼よ」


敵同士とは言え同じ世界の者だった。

死すればそこにあるのは、ただ、その魂が安らかにあれと言う祈りだけであった。

そして、美貌の騎士は両手を組むと信じる神に祈りを捧げる。


「・・・女神アテナよ、戦士の魂をお導き下さい」


少しの黙祷と共にマントに寝かせている少女然とした童子の元へと歩む。

脱ぎ捨てた様に転がる兜を拾い上げて被り直すとレイの身体をマントに包む様にして大切に抱え挙げた。


『さあ、すぐに外へと連れ出してやるからな、もうしばらく我慢してくれ、レイ』


傷に響かないようにそっと運んでいく。

しかし、急ぎ足でだ。

このダンジョンのボスは蒼眼の人狼が彼女に変わって成り上がった。

更には、レイに従属した形になるがこれで一緒に外へと出られるのだ。


怪我が予想よりも深く、パスで繋がっているからレイの状態が徐々に悪くなっていくのが解る。


『クソッしっかりするんだ!魔法薬はもう無いし、我は回復系統のスキルは持っていない。

急いで医者か、この世界のジョブに目覚めた者に診せなければ、このままでは死んでしまう!』


急ぎ足で進んでいき、外へと繋がる空間の歪みまでようやくたどり着くと、すぐに外へと出たのだった。



────────────────────


その頃、ダンジョンの外ではチヅルが連絡したお陰で高位の探索者達が集まって突入しようとしていた。


「これより15時00分発生ダンジョンに突入──」

「待て、何か出てくるぞ」


ダンジョンから現れたのは深紅の騎士であった。

その風貌は明らかにこちらの世界の者ではなく。

そして、血にまみれていた。


「こいつっ!?子供達が話していたモンスターか!?」

「ちょっと待て、何かを抱えているぞ!」


人が集まっていることに気が付いた深紅の騎士は一人の人物に注目した。

そして、血にまみれていた深紅の騎士は懇願するような声で大事そうに抱えているものを

見せてくる。


『癒しのマナを感じる、頼む!この子を、我が主レイを、助けてくれ!』


その布に包まれた少女然とした子供を確認した人物は慌てて搬送用のベッドへと促すと

治療を開始した。


「ご安心を、必ず助けます!」

『感謝する』


段々と顔色に生気が戻ってくるのを見届けた深紅の騎士は一息ついてから囲んでいる探索者達を見据えた。


『安心せよ、我は確かにダンジョンに連れ去られし異界の者であるが常識的な事は心得ている、一先ずは──』

「「「れークン!!!」」」


搬送用のベッドに寝かされて探索者の女性に治療を受けているレイの姿を見て駆け寄って来る三人の少女、それぞれが涙しながらも

レイには触れないように治療を邪魔しないように少し離れて見ている。


「大丈夫よ、状態が落ち着いて来たからね

後は血を流しすぎているから輸血をするのに病院へ搬送しないとだけどね」

「よかっ、よかった!あのまま、もう、会えなくなるのかって」

「れークン、れークン!!よかったですっ

本当にっ」

「ぐすっ、れー、頑張ったね、ぐすんっ

よかったよぉっ」


止めどなく涙を溢れさせながらもそこには

悲しみの涙はなかった。

レイは運命を乗り越えたのだ。

深紅の騎士はそれを見て頷いた。

この涙が悲しみではなくてよかったと、

そして、レイが助かって本当によかったと。


『・・・一先ずは、腰を据えて落ち着ける場所を案内してくれると良いのだが?

後は、我が小さき主に何があったのかを説明しよう』


こうして、レイの死の運命は覆った。

しかし、それと同時に一つの意思は目を着けた。


─────■■■■■─────


─────お■■■■─────


─────おも■■■─────


─────おもし■■─────


─────おもしろ■─────


─────おもしろい─────


──────レイ───────


─────『王の器』─────






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