(45)隠し事の心理

「失踪事件が相次いでおりましてね。この女性たちなのですが、見覚えは……?」

 父親に出迎えられた警察官たちは、リビングへと通された。

 そう尋ねながら男性警官は写真をテーブルに並べた。

 これまでに行方不明という知らせが入った、警察が失踪を認識している女性たちの写真である。

 実際のところ、まだ把握できていないだけで、他にも行方不明者はいるかもしれない。

 何か不審な反応はないものかと、男性警察官の横でウトネは父親の一挙手一投足を観察していた。


「悪いが、俺も仕事があるんでね……」

 父親はソワソワしていた。頻りに時計に目を向けている。

 いくつも事業に手を出している父親は、滅多にこのお屋敷にはいないらしい。たまたま在宅の時間を狙ったが、この後も仕事があるらしくゆっくりはしていられないようだ。

──それが、むしろ好都合であった。

「お時間は取らせませんよ。すぐに終わりますから」

 男性警察官は手で写真を指した。むしろ、見なければ話が進まず、それだけ遅くなるというプレッシャーを与えた。

 相手の本心を知りたければ、相手の忙しい時を狙えば良い──先輩から教えられた捜査の鉄則であった。


 父親は写真を一瞥だけして、すぐに視線を逸した。

 そして、気分を静めるかのようにワイングラスに口を付ける。

「さぁ? 知りませんね。俺と何か関係でも?」

 最初の言葉が上擦って聞こえた。

 ウトネはそれを聞き逃さなかった。

──やはり、何かある。

 そう確信したウトネは男性警察官に目配せしたが、彼は父親を真っ直ぐに見ていて気付いてくれない。

「いえ、そうとは言っておりませんよ。ただ、お知り合いはいないかなーって、思いまして……」

 男性警察官は父親に問われて、しどろもどろになっていた。


 連れて来たのに──何とも頼りない先輩だと、ウトネは呆れたものである。これ以上、任せてはおけないと、ウトネが横から口を挟んだ。

「こちらのお屋敷に行くという話を聞いた者が居たんですが……その人も居なくなってしまったのでね。こちらにお邪魔しているんじゃないかと思いまして」

 ウトネが尋ねると、父親は首を振るった。

「さぁ、知りませんね。ここ最近、来客はありませんでしたよ。私も多忙でしてね。ほぼこのお屋敷に居ないものですから……もしかしたら、その方とも行き違いになったのかもしれませんね」

「ほぅ……」と、ウトネは眉を顰めた。

「そうですか……。ここには、貴方お一人で?」

「ええ。身寄りもありませんからね。お恥ずかしながら、こんな豪華な屋敷に一人で寂しく暮らしていますよ」

「本当に、誰も来ていないし、住んでいないんですね?」

 ウトネがさらに問い詰めると、父親の表情も強張った。

「ええ。そう言ってますが? それが何か? それよりも、もう宜しいですかな? 俺も、そろそろ行かなければならないので……」

 話しを打ち切りろうとして、父親は立ち上がった。


「それは……妙ですね」

 ウトネは声を潜めて言った。

 中腰で、父親の動きが止まる。

「私に此処へ行くと言って消えたの……貴方の息子さんなんですけど。じゃあ、息子さんはどちらへ?」

「……なに……!?」

 父親が激しく動揺を見せる。視線が忙しく動いた。

──何かを隠していことはる間違いない。

 ウトネは、そんな父親の動向をより注意深く探った。

 視線を絶え間なく動かし──やがて、それは一か所で止まる。


 父親の視線は床で止まり、ピクピクと眉が痙攣していた。


──床?


 何故、そんなところに目が行くのか——?


 地下でもあるのか──?


 ふと、そんな発想がウトネの頭に過ぎったのであった。

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