(38)囚われの仲間たち
瞼を開けると、天井が見えた。
仰向けでどこかに寝転がっていたようだ。床は硬く、ひんやりと冷たい感触がした。
ゆっくりと体を起こして、現状を把握することにした。
──ここはどこで、どうなったのだろう?
シソクは周りを見回して、驚いたものだ。
シソクが居たのは鉄格子の中であった。
他にも周りにはいくつか鉄格子で囲まれた牢屋がある。
シソク以外にも囚われている人間の姿が見えた。
向かいの牢屋には、少女が膝を抱えて座っていた。
「君は……」
見覚えのある人物がそこにおり、つい鉄格子越しに声を掛けてしまう。
ホテルのレストランバーで仕事を探していると話して消えた少女——キンコがそこにはいた。
シソクの呼び掛けに反応したキンコが顔を上げる。その目は虚ろで、焦点は合っていなかった。
「えー、えー、えー」
「キンコだよね! こんなところに居たんだ!」
「えーえー」
——まるで壊れた機械人形のように、キンコは同じ言葉を繰り返すばかりであった。こちらの言葉を理解しているかも分からない状態であった。当然、シソクのことも認識していないようである。
——どうしてこんな状態になってしまったんだ?
シソクが首を傾げていると——。
「ぎゃあああぁぁぁあああ!」
——叫び声が上がった。
驚いたシソクは、入り口らしきドアの近くにある檻に目を向けた。
そこには、申し訳程度にボロ布を身に纏って肌を隠した女性が一人。髪は腰の辺りまで伸びており、手足は枝木のように細い。服だけでなく全身傷だらけで──何かに怯えている様子であった。
「ぎゃぁあぁぁあああっ!」
そんな長髪の女性が再び咆哮を上げ、乱暴に鉄格子を揺さぶり始めた。
鉄格子を蹴り付け、何とかそこから出ようと暴れ回っている。
完全に理性を失い──獣と化しているようだった。
シソクはゾッとしたものであるが、図らずとも丈夫なその鉄の格子が長髪の女性を封じ込めてくれていた。お陰でこちらに危害が及ぶことはないが、野放しにされたら何をされるかも分かったものではない。
「うっ……!」
不意に頭が痛み、シソクは顔を歪めたものだ。
薬でも飲まされたのだろうか——?
頭痛だけではなく、頭がボーッとしてまともに思考することも困難であった。
だが、そんな鈍い頭でも、たった一つだけ理解することができた。
──父親に、裏切られたのだ。
薬を盛り、シソクをこんな所に閉じ込めたのは紛れもない、シソクの父親である。
複雑な心境になって眼球を動かしていると、壁に自分の姿が写っていることに気が付いた。
壁一面が鏡張りになっていたのだ。なんとも趣味の悪いものであろうか。
シソクは鏡に写る自分自身の姿を見詰めながら思考を巡らせた。
——ここから、どうすれば脱出できるだろうか?
上手く働かない脳みそを何とか動かして、シソクは考えたのだった。
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