(36)ナジーとの未来

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「シソク」

 名前を呼ばれて、シソクは意識を取り戻す。

 どこかの部屋の中に居た。

 暖炉があり、安っぽい椅子やテーブルが設置されている。

 シソクが顔を向けると──視線の先に、少女の顔が写った。

──ナジーであった。

 ナジーは鍋つかみを手に嵌めながら、湯気の立つ鍋を運んで来ていた。

「ご飯、出来たよ。食べましょう」

 にっこりと笑い、ナジーは鍋をテーブルに置くと椅子に座った。

 ナジーはお玉でお椀に汁を取り分け、袋からパンを出して皿に置いた。


「いただきます」

 意外なことだが──シソクはすんなりとこの状況を受け入れ、食事を始めた。

 パクパク食べるシソクの顔を、ナジーはジーッと見詰めていた。

「どうかな?」

 恐る恐る、ナジーは尋ねた。

 料理の味やシソクの反応が気になったようだ。


「うん。美味しいよ」

 シソクが答えると、ナジーは嬉しそうに笑みを浮かべた。


 ホッコリと温かいものをシソクは胸に感じた。

 とても幸せだった。

 何時までもこんな幸せが続けば良いのに──。


「お肉、そろそろ焼けたかも!」

 思い出したようにナジーは言って、席を立った。

 そんな彼女の背中が台所へと消えて行ったのと同時に、シソクの視界は歪んだ。

 そしてそのまま、シソクの意識は遠退いていったのであった。




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