第50話 陰陽師は狐っ娘
ムラカミさんと話をして、さらに遠隔通話で長官とも話をした。
『重要な拠点となりうる場所だが、そこに住んでいるのが君ならば心強い。どうだろう。その部屋を迷宮省の分署にして陰陽師を常駐させてもらえないだろうか』
「なるほど……いかほど手当が出ますので?」
俺は既にスパイスの姿になっている。
商談のときは商売の姿。
これが鉄則よ。
『今計算させよう。だが、少なくともこれくらいは』
「おほー! 引き受けます。この部屋前倒しで完済できちゃう」
俺は小躍りした。
配信者となった今、むしろこういうのを自由に使わせてもらえそうなのは、美味しい。
迷宮省も監視してくれるなら安全だろうしな。
あとはマシロをいかに誤魔化すかだが。
「ムラカミさん、どうしたもんですかね」
「ハハハ、姿を変えられるのは魔女だけの専売特許ではありませんから。普段はここに私の式神が詰めることになりますが、皆この姿に変じられるようになります。要は怪しまれない姿になればいいのです」
彼はむにゃむにゃと呪文のようなものを唱えると、空中で印を切った。
すると彼のポケットから呪符のようなものが飛び出してきて、ムラカミさんを囲んで回転する。
呪符のリングだ。
これが彼の頭から足元までをするっと通過したと思ったら……。
そこに立っているのは、狩衣姿で狐の耳と尻尾を生やした女の子だった。
「じゃじゃーん。そもそも、さっきの姿も現世で仕事をする時の仮の姿やからな。うちはまだ、こっちの方が通りがええんです」
「あーっ、ケモミミ美少女に!」
『これで問題ないだろう』
「問題大ありでは?」
さっき見えた姿が本体だったか。
迷宮省、とんでもない隠し玉をもってやがったな。
この陰陽師ムラカミ、間違いなく人間ではない。
そう言う存在が俺たちの生活に溶け込んで暮らしているというわけだ。
迷宮省が世の中を統括できているのは、権力というだけでは説明がつかないと思ったんだ。
こういう人ならざるモノを取り込んでいたんだな。
「ご同輩同士、よろしくお願いしますわあ」
「ご同輩!?」
「スパイスはん、魔女じゃありませんの」
「言われてみればそうだった……」
『では私はこれで失礼する』
「あっ待って長官! とんでもない状況にスパイスは放り込まれたんだけど!!」
通話が終わってしまった。
まあいい。
マシロが来たときは、ムラカミさんは例の部屋に引きこもっているか、あるいはペットの動物のふりをするという。
「こう見えて、うちは獣にも変われるんですよ」
「見たまんまじゃない?」
「狐に化けられますわ」
「見たまんまじゃない!?」
彼女がまた呪文を唱えて、呪符のリングに包まれる。
あっという間に、ムラカミさんは狐になってしまった。
これが本体でしょ?
『主様が妖物を家に連れてきてるー!! いけませーん! ここは魔導書の領域ですよー!!』
『ん動物は本を傷つけるぅ! 共存はぁ困難ん~』
「ほほほほほ、うちはそないなことしませんから。ほら、コロコロを使って自分の毛だってお掃除するかしこーい狐ちゃんなんですよぉ」
『ぬわんとぉ! ん最近のフォックスはぁ、進化しているぅ!』
『イグナイト騙されちゃだめですよ! こいつ化け狐ですよ! まーだいたんですねえ! ……あれ? この狐からメタモルフォーゼの断章の気配がするんですけど?』
「そうそう! 御縁やねえ! うちのご先祖は遠い昔、空の彼方から降ってきた魔なる書物を浴びた存在やったんです。もしかすると、つながりがあるかもしれへんねえ」
「うーん、合縁奇縁……。我が家が伏魔殿になっていく」
どうも俺を狙っているらしいマシロよ。
こんな場所でいいのか……?
こうして我が家はまた騒がしくなるのだった。
「我が家会議を開催する」
『わーわーわー、どんどんどん、パフパフパフー』
『ん重要会議ぃ! 何をするのだぁ?』
「窓から繋がった異世界のことやろねえ。うちはあれの解析も任されてるから、ちょこちょこ覗きに行ってこちらの世界のどこと繋がっているか、調べる事になると思うわ」
「配信には活かせそう? あ、流行りのVRの一部だってことにすればいいか」
「存在しないゲームになるから、共有できるリスナーがおらへんのと違いますの?」
「そうか、そっちでバレるか……。いや、バレてもいいか。VRから繋がった謎のダンジョンがーみたいな触れ込みで」
「あー、それならいけそうやね!」
『狐は悪知恵が回りますねーっ』
「あらあ、魔導書はんは御長寿ですから、考え方にちょいとカビが生えたりは仕方ないと思いますわあ。そこのコインランドリーで乾燥してきはったらどうです?」
雅なジョークだ!
『むきーっ!! く、く、口も回るー!!』
『んどうどう! 無駄な争いはぁ、何もぉ産まないぃ! 勝って気持ちのよくなる争いだけをするべきぃ!』
「あっという間に打ち解けてしまったな。狐、変容の魔導書の子孫みたいなものだったんなら、納得だ」
新居を得て、そこから謎の異世界ゲートに遭遇し、調べに来た迷宮省の陰陽師が狐で、しかもその狐は魔導書の子孫だった。
情報の渋滞みたいなものだが、全部が紐づいているからそこまで混乱はしない。
「ちなみにムラカミ言うのは偽名です」
「だと思った。陰陽師の安倍晴明の時代が村上天皇だからムラカミだろ?」
「そうですー。なので、うちがスーツ姿じゃないときは、シノとお呼び下さいねえ」
「かしこまりですよシノさん」
「よろしくお願いしますねえ。それじゃあ、異世界を探るお仕事やけど……スパイスはんにも一緒に来てもらってええですか?」
「もちろん。配信してもいいんでしょ?」
「もちろんですわ。長官からのお墨付きですもん」
新たな配信のネタになると同時に、こちらの世界のどこかに転移できるゲートみたいなものとして使えるらしい、異世界。
上手くいけば、こっちから魔女に攻撃ができるかも知れないな。
つまり俺は……家から出ないで配信と祖母の敵討ちが両立できてしまう可能性があるわけだ!
こういうのも引きこもりというんだろうか?
考える俺の眼の前で、またフロータとシノがぎゃんぎゃんと言い合いを始めるのだった。
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