第9話 カイリ殿下の訪問
支度をしているうちに日が暮れた
ちょっと熱っぽいけど問題は無い。問題は、これからの状況の方だ
チリーン
来客を告げるベルが鳴る
大聖堂と言われるこの教会は、みんなが浄化に訪れる大きな礼拝堂と、私たちが生活をしている私邸に別れている。
邸宅は複雑な作りで、特殊な結界で幾重にも守られている
入口は2つ。聖堂の門とは異なる裏門が私邸の入口になっていて、使者や私用での外出はそちらで対応する。裏門から家の玄関まではかなりの距離があって、門前のインターホンみたいなもので中と会話はできるけど、門からから中に入れるかどうかは、その人次第。と言ったところだ。私邸の結界はありとあらゆる負の魔力を拒絶する。
ガチャリ
部屋のドアが開く
(き…来た………)
私は白いベールをかけ、白いロングワンピースのお仕事着を着てソファーの隣に立ち、お辞儀をした
えーっと…なんて言うんだったっけ…
ユミさんに教えてもらったことを反芻しながら
「ようこそ……お待ち…しておりました?」
難しい言葉遣いを忘れてしまい、頭をあげずに、ちらっとユミさんの方を見ると、『もぅいいです。』という顔をしていたので、ゆっくりと顔を上げた
カイリ殿下と目が合う
(何か言ってください………。)
カイリ殿下は辺りを少し見渡して口を開いた
「で、マリアはどちらに?」
私はユミさんに、あとはお願いします!の念を送った
「殿下。お初にお目にかかります。先代のマリア様にお仕えしておりましたユミと申します。」
「この度はこの聖堂においでくださいましてありがとうございます」
「こちらが…」
と言って、私の隣に立ち、手の平を上に向け、私を指し示し、
「当代のマリア様でございます」
と紹介すると、そのままソファーの後ろに控えるように去った
「え…?」
っと、ぽつりと殿下が呟いた
一瞬の硬直状態が、ものすごく長く感じた
しかし、動揺の色は見せず、私の元に歩み寄ってきて跪き、私の手をると
「我が国のマリアに挨拶を」
と言って、手の甲にチュッと、口付けた
顔から火が出るかと思った
何この恥ずかしさ
私はどうリアクションするのが正しいか分からずに立ち尽くしている
視線を感じる
明らかにカイリ殿下の視線だ
でも、目なんて合わせられません!!!
陛下が立ち上がる
とにかく、逃げ出してすみませんでしたの謝罪を先にしたい。
「朝はすみませんでした!!!」
「昨晩はすまなかった。」
ん?
2人は同時に各々の謝罪の言葉を口にした
と同時にバッチリ目が合った
あの泉で出会った綺麗な赤い瞳
「お2人はどこで…?」
ユミさんが後ろから声をかける
どうしよう。殿下にもユミさんにもどこから説明すれば…
私が困っていると、部屋の奥からエリちゃんがお茶を持って現れた
「失礼致します。お茶をお持ち致しました。どうぞ」
と言って、ソファーへ座ることを促して紅茶をテーブルに置くと、
「何かございましたらお申し付けください。失礼致します」
と言って、帰っていく
私と殿下は向かい合ってソファーに座り、ユミさんが私のソファーの後ろに立っている
私は意を決して口を開いた
「ユミさん。実は、泉でカイリ殿下にお会いして、こちらまで送って頂いたんです。」
「まさか、この国の次期王様になられる方とは露知らず、困惑のあまり逃げ去ってしまうような失礼を致しまして。すみませんでした。どうか、打首だけは…ご容赦ください」
「打首??」
何を言ってるんだ?と言う顔をして殿下はこちらを見つめている
ユミさんは顎に手を当てて、難しい顔で何かを考えているようだった
すると、殿下が
「あまりかしこまらなくて良い。私しかおらぬし、気にするな。今日は挨拶程度にと思って訪れたまでだ。この国の王となる者が、国の浄化を担っているマリアに礼も無しとは、余りに暴君であろう」
「それより、体調は大丈夫か?この教会の使用人か何かかと思ったが、今考えればあの森に普通の魔力の者が入れるわけが無いからな。失礼な態度をとったようなら謝罪しよう。」
や…優しい。
無礼者は打首じゃ!というタイプではなかったようだ
私はブンブンと顔を左右に降った
「今日は元々挨拶だけのつもりだ。外にフェンを待たせている。この家の結界は誰が施したものだ?」
「先代のマリア様が地脈を整備されまして、そちらがベースになっております。」
(へー。知らなかった)
「水…か。」
「はい。あおい様は水の魔力特性が強い方でしたので…。」
ユミさんはあおいお姉様のことを思い出したのか、少し寂しそうな顔をした
「良い結界だな。負の魔力を一切寄せつけない。浄化された心地よい空間だ。フェンも門前払いだからなっ…」
そう言ってクスリと少し笑ったようだった
「あいつも仕事だから仕方がないが…疑心と威嚇が直ぐに出るからな。その辺のコントロールは覚えて貰わなくては困るな。」
そう言って席を立った
「ここにはクリスタルがあるな?」
「はい」
「案内してもらえるだろうか」
私たちは席を立って礼拝堂の方に向かった
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