第5話 帰れる!

「来た時もそうだったが、恐らく帰りもそうだろう」


馬を走らせながらカイリさんは呟いた


この森の出方を知らない私は黙って身を預けた。

そもそもここがどこにあるのかも知らないから、なされるかままにするしかない


(私…教会に帰れるんだろうか……このまま連れ去られる? のだろうか……)


「多分あれが出口だな」


向かう方向は少し明るくて、まだ夜が明けてないのに陽の光が眩しい!みたいに明るい


光に導かれるように、私たちは森を脱出した


------


「ここは…」

森から出たと思ったら、辺りは夜明け前の少し明るくなった夜空に、無数の星たちと満月が輝いている。


「教会から来たと言っていたが、どこの教会だ?」


この国にはいくつかの教会があり、各地にクリスタルが配置され、浄化を担っている


「えっと…山の上の…なんて言えばいいか…大きな教会です…」


教会の敷地から全然出ない私は、そもそもの自分の住んでる場所をうまく説明できない


「……そうか」


わかって貰えたのか貰えてないのか分からない返事が帰ってきて、なんかすいませんって思いつつ、少しすると大きな関所が現れた


「カイリ殿下!!!!」

門の中から、ものすごい形相で男の人が数名駆け寄ってきた


近くまで駆け寄ると跪き、手を胸元に当てて礼をとる


「森には私達は入れませんでした。ですので、ご指示通り、こちらにてお待ち申し上げておりました。」


カイリさんは馬から降りると、

「心配をかけたな」

と、一言声をかけた


私はその様子を呆然と眺めていた

(ん?殿下?)

(で…殿下って、殿下?)


もしかして、私、とてつもなくやばい状況なのでは?このカイリさんというお方、この国のエライ方なのでは??!


「して、この娘は一体…」

周りの視線がいっせいに私に向く

どどどと…どうしよう……


「森で縁あって助けた娘だ。」

「あの森の中にいたのですか!??」


「私もそれには驚いた。送ろうと思うのだが…教会から来たそうだが、場所が定かでは無い」


そう言って私を見た


すいません…ここからどうやって帰るかなんてさっぱり分かりません


「フェン」

カイリ殿下が呼びかけると、フェンと呼ばれた人が立ち上がり、私の元へ歩いてきた


すごいジロジロ見られている

不審者を尋問するようなオーラが出ている


(あ…この人ダメかも…)


私の体は穢れた魔力をクリスタルを通じて浄化しているけど、直接向けられる負の魔力にはめっぽう弱い


「大丈夫か?顔色がまだ良くないな」

そう言って私の腰に手を回し、手を取り支えてくれた


カイリ殿下に触れられた手がじんわり暖かくなり、少し体が楽になった


「フェン。その魔力をしまえ。負の魔力を外に振り撒くな」

「申し訳…ございません…」


「よい。それより場所を知りたい」

「かしこまりました」


ピシャリとたしなめられたフェンさんは、再度私に向き直り、


「どちらの教会でしょう?この国には無数の教会があります。主要6箇所にはクリスタルが配置された大きな教会が。他の小さな教会ですと、それぞれの都市に確認しないと把握しきれてはおりませんが…まずどこの都市でしょうか?」

「えっと…王都の山の上の大きな教会…です…」


「大きな、と言うと、そちらにはクリスタルがありますか?」

「あ。はい。あります!」


まるで、迷子の聞き取りをしてるかのような話の流れ…


「すると、話が早いですね。王都のクリスタルがある教会は1つです。あちらは『マリア』が守護する教会なので、教会の敷地も広く、使用人も何人か住んでいたはずです」


(あ。マリアと名乗れば早かったのかな?いや、でも…)


モヤモヤ考えていると、


「王都の中なら話は早い。近々『マリア』にも挨拶をしなければならないと思っていたところだ。」


そう言って、私の手を引き、門の中まで歩いていった。門に入ると、そのまま街に向かって歩くものだと思っていたら、人気のない脇道の木陰にある、意味深な柱の前に来た


「みさき。空間転移で近くまで連れて行くが、経験は?」

「それって…どんな魔法なんですか…」


(無知で申し訳ない…。だって、私、魔法のことさっぱり不勉強なんです…使えないので…。)


「なるほど。」


カイリ殿下は何を納得したのか分からないけど、私の腕を肩にかけ、おもむろに私を抱き上げた


「う!!うわぁぁっ!!!」


待って。だから。恥ずかしいです!!!

っと言うか、エライ人なんでしょ?この御方

私こんなことしてもらってやばすぎない?フェンさんって人の負の魔力が…


「お…下ろしてください…」

「ん?何故だ?危ないからやめておけ。落ちたら死ぬぞ」


「え?」

「大人しくつかまっていろ」


何が起こるのか怖くて、とっさにギュッとカイリ殿下を掴んだ︎


殿下は柱に手をかざすと、柱から魔法陣が浮き上がり、指で何か文字を書くような動きをし、そのまま柱に向かって進んで行った


「え!!」


柱に飲み込まれるのが怖くてとっさに目を閉じ、殿下の胸元に顔を埋めた

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